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リ・グランデロ戦記 ~悠久王国の英雄譚~  作者: 鳴神衣織
第六章 明日を切り開く精霊の剣

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38.真実の歴史2




「――よいか? ここからが本題なんじゃが、あの石版を紐解く限り、なんとか戦争を終結へと導き、七政王らを壊滅させたはよいが、アルメリッサではなくザーレントが死傷してしまったのではないかと推察されるのじゃ」

「え……? ザーレントが?」


 ベネッサがぽかんとした。ザクレフさんは頷く。


「そうじゃ。石版にはこうある。『女王、死せるザーレントの遺産稼働させり』と。つまり、亡くなったザーレントの遺産を女王であるアルメリッサが稼働させたということじゃ。それはつまり、ザーレントは既に亡くなっておるのに、アルメリッサはまだ生きておったということを示唆する暗示に他ならないのじゃ」

「……てことは、前提条件が崩れたっていうのは」


「そういうことじゃ。先程も申した通り、本来であれば、アルメリッサの方が先に死亡したと思われていたにもかかわらず、実際にはザーレントの方が先に死亡し、アルメリッサが生き残っていたということじゃ。そして、彼女がなんらかの遺産を稼働させたことや、『狂気に犯された』という一文、それから泉の石碑に刻まれていた『七色の空に真白き力現れしとき、森の女王蘇らん』という碑文。それらすべてをひっくるめた上で、考えられることはただ一つ」


 そう前置きしてから一泊置き、全員が注視しているのを確認してから続けた。


「ザーレント亡きあと、アルメリッサは嘆き悲しみ、彼の者が残した遺産を駆使して、ありとあらゆる方法を試して彼を蘇らせようとしたのではないかと考えられる。しかし、願い叶わずザーレントが蘇ることはなく、狂った女王はザーレントの遺産を稼働させて、自らも死滅した。石版に『破滅の始まり』とあることから、その遺産が当時の世界に何かしらの悪影響を及ぼしたのやもしれん。たとえば、魔の領域の直接的原因となる何かをな」


 最後の一言で、みんなが息を飲む気配がした。

 僕も、別の意味で胸がざわつくような、気色悪い不快感に襲われることになってしまった。


 ザクレフさんが話してくれたことは、おおよそ、事前に予測していた通りだったので、そこは別に問題ない。


『本来であれば、ザーレントよりアルメリッサが先に死んだはずなのに、実際にはその逆だった。そして、ザーレントが稼働させるはずだった遺産は実際には稼働されず、生き残ったアルメリッサが何かしらの遺産を動かしたのではないか』


 そこまでは僕も事前に考えていたけど、最後の一言、『アルメリッサが動かした遺産が魔の領域を発生させている直接的原因に起因しているのではないか』とする考え。そして、『世界に破滅をもたらしたかもしれない』という、不吉な内容。


 僕はそれらに、胸がもやつくような気色悪さを覚えてしまったのである。


 何か、重要な事実を忘れているような気がした。

 ザーレントが動かすはずだった遺体保護装置にまつわる何かが、この森のどこかにあったような気がする。それこそ、使い方次第では世界が破滅するような恐ろしい何かが。


 実際には歴史が変わっていて、そんな遺体保護装置を始めとした僕が知っている遺産なんて端から存在していなかったのかもしれないけど、それでも、何かあったはずなんだ。絶対に忘れてはいけないような何かが。


 ――くそっ。


 いくら思い出そうとしても、靄がかかったように判然としない。すぐ喉元辺りまで出かかっているのに、本当にもどかしかった。

 一人苦悩する僕だったけど、そんな僕に気付くことなく、ルードが口を開いた。


「俺には過去の歴史の食い違いとか、それが何を意味していてどう影響してくんのか、とかよくわからねぇが……」


 難しい顔をしながらぼやくように言ったあと、


「やっぱり、魔の領域や、そいつに起こっている異変って奴は、かつての古代王国時代に何かしらの原因があったってことか? 伝えられている歴史とは違っていたが、戦争で生き残ったアルメリッサとやらが何かやらかして、その結果、あの忌々しい領域ができあがったとか」


「あくまでも憶測に過ぎんがの。魔の領域に関してはわしは何もわからん。じゃが、アルメリッサが何かを稼働させたことは間違いないはずじゃ。その結果、世界に破滅が訪れ、ザーレントの復活を信じたが願い叶わず、彼女もまた死亡した。そして、その事実を嘆き悲しみ、生き残った幻生獣らは、いつか光の空の元に女王が再び降臨してくれることを願い、待ち続けたのではないかと。いつの時代に書かれたのかはわからんが、石碑の碑文はそういうことなんじゃろうの。もっとも、『七色の空』や『真白き力』が何を意味しているのかはわからんがの。じゃが――」


 ザクレフさんはそこで窓の隙間から外を眺めるようにする。


「その七色の空というものが、魔の領域によって遮られたあの紫色のような空のことを指すのであれば」


 そこで意味深に僕を見た。僕はザクレフさんの意を組み静かに答える。


「……魔の領域に何かしらの力が働いたとき、女王は復活する」

「うむ。ただ願いを込めて書いただけのものなのか、それとも何かしらの予言なのか。その辺はわからんがの」


 ザクレフさんはそう言葉を締めくくった。

 長く一人でしゃべっていたからか、それとも徹夜明けで話したいことすべてを話し終えたからか、今更ながらにどっと疲れたように、壁にもたれた。


「にしても、ややこしいことになってきたな」

「そうね。私たちの本来の目的は魔の領域に起こっている異変を調査して、外へと出るための糸口とするはずだった。もしその過程で何か恐ろしいことが起こっているのであれば、それも解決に導いて、この森、この周辺一帯地域から不安を取り除く。そういう話だったわよね」

「だな。だが、そう単純な話でもなくなってしまったらしいな」

「えぇ。昔何があったのか。それを紐解かないと、もしかしたら解決できないかもしれないなんてね」

「アルメリッサとやらが何をやらかし、それがどう魔の領域に絡んでいるのか。たくっ。めんどくせぇな」


 そう困惑げに話すルードとベネッサ。

 確かに彼らの言うことがそもそもの始まりだった。

 僕の場合はある程度この事態を想定していたし、この世界に生まれたときからずっと、この問題だけに焦点を絞ってきた。

 だから、意図的にこの魔の領域、ならびに古代王国時代の遺産問題に首を突っ込んだけど、二人は違う。

 森に潜む問題点が大きくなればなるほど、把握し切れなくなって途方に暮れたくもなるだろう。


「それに、この森には厄介な連中もいるからな。その最たる人間がフランデルクだ。奴は間違いなくザーレントの遺産を狙っているはずだ。この森にあると知っているのか、それとも知らずにうろついているのか。いずれにしろ、奴は自らが持つ考古学の知識を駆使して、それに辿り着いてしまう可能性が高い。そうなったら何が起こるかわからん」

「じゃの」


 渋面となっているアーシュバイツさんにザクレフさんが頷く。


「お主らがあやつを遺跡の崖から転落させたという話は聞いておるが、わしの見立てでは奴は十中八九、その程度で死ぬような輩ではない。オル=ファンジェラ・レイリアが致死攻撃に至りそうな精霊神術(セレスティア・マギ)を使ったらしいが、そのまま攻撃し続けておっても、おそらくどこかでそれを打ち破っておったじゃろうの。そうなると、やはり崖から突き落として難を逃れられたのは不幸中の幸いじゃったのであろうの」


「ですね。となるとやはり、あの男は最大級の障害となる。アルメリッサとやらが稼働させて、今もこの森に影響を及ぼしているかもしれない古代の遺産がなんなのかわからないが、そんな意味不明なものをあの男に渡すわけにはいかん。なんとしてでも、奴より先に抑えなければならん」

「だな。その上で、あのこそ泥のような冒険者連中にも目を光らせておかなけりゃならねぇし。ホント、めんどくせぇったらありゃしねぇ」


 そうアーシュバイツさんとルードが言葉を交わし合う中、僕の右隣にいたベネッサが会話に割り込む。


「だけれど、一番の問題はその古代の遺産よ。それがなんなのかわからなければ話にならないわ」

「だな。せめて、どこにあるのかだけでもわかりゃ、対処のしようもあるんだがな」

「そうだな。そして、それを発見したときに、フランデルクを完全に封じる方策が見つかっていればなおよいが」


 三人は口々にそんなことを言いながら見つめ合い、うんざりしたように溜息を吐いた。その顔が八方塞がりとでも言いたげだった。

 一方、そんな彼らを眺めながら、茶のようなもので喉を潤していたザクレフさんだったけど、


「そのことなんじゃがの」


 呟くようにそう言い、テーブルの上に雑多に置かれていた資料の一枚を手に取った。


「以前、廃村遺跡を調べておったときなんじゃが、そこで見つかった石版に『セデフ』や『セディア』、『精霊力吸収機構』という単語が度々出てきておっての。その言葉それ自体が何を意味するものなのかはわからんが、もしかしたら、古代、ザーレントらが研究しておった遺産に関係する何かなのかもしれん。それがなんなのかわかれば、奴への対策に役立つやもしれんが」

「セデフ……?」


 僕はザクレフさんが口にしたその台詞を聞いて、頭の中で火花が飛び散ったような感覚に襲われていた。

 僕自身も、『セデフ』という単語それ自体が何を意味するのかはわからない。だけど、『セディア』や『精霊力吸収機構』という単語だけは、どこかで耳にした記憶があった。


 そう。あれは確か、僕が持っているこの世界の知識の中で、しかも、かなり終盤に出てきたはずのザーレントの……。


 そこまで考えたとき、僕は一瞬にして、頭にかかっていた靄すべてが取り払われたような気分となっていた。


 継ぎはぎだらけだった記憶の中に、それまで消え去っていた一つの答えが急浮上してきたような感覚に翻弄された。だから、すっかり油断してしまった。


「そうだ……! そうだった。やっと思い出した……。あれは、あの石碑は……『遺体保護装置』に精霊力を注ぎ込む吸収機構だった……!」


 高鳴る鼓動のさせるがままに、思わず叫んでしまった僕。それを聞き逃すルードではなかった。


「遺体保護装置だと? おい、リル。そりゃいったいなんの話だ?」

「え……? いや、それはその……」


 いくら興奮していたとは言え、あまりにも迂闊な言動だった。今更後悔しても、もう遅い。

 脂汗かいてしどろもどろになる僕に、大男が目を細めた。


「おい……。まさかこの期に及んでシラきろうってんじゃねぇだろうな?」


 ドスの利いた声でそう問い質してくるルード。隣のベネッサも、左斜め前のアーシュバイツさんやザクレフさん、そして、ずっと黙って僕たちの話を聞いていた左隣のオルファリアも、じっと僕を見つめてきた。


 まずい。

 どう考えても言い逃れできそうな雰囲気ではなかった。


「え、えっと……」


 大量に胃酸を湧き出させながら、思考回路すべてをフル回転させてこの場を切り抜けようとしたけど、結果的に失敗した。


 ――これは……さすがにもう逃げられないか……?


 適当なこと言ったら今度こそ、本気で締め上げられる、そんな気がした。


「……わかった……話すよ……僕が隠していたことを……」


 僕はそう、観念して一人うなだれた。

本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!

とても励みとなりますので、【面白い、続きが気になる】と思ってくださったら是非、『ブクマ登録』や『★★★★★』付けなどしていただけるとありがたいです。

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