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リ・グランデロ戦記 ~悠久王国の英雄譚~  作者: 鳴神衣織
第五章 人と幻生獣と

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34.狂王が宿す力の秘密




「ザクレフ老! それは誠ですか!?」


 そう第一声を放ったのはアーシュバイツさんだった。


「うむ。奴が使ったものかどうかはわからんが、以前、学会で上がった『失われし古の技術に関する学術考察』という調査資料の一(ページ)に、似たような事例が記されておっての。異端と言われ、誰も見向きもしないものじゃったがの」

「そうだったんですか。それで、何が書かれていたのですか?」


 次第に緊張が募ってきて、胸が高鳴ってくる感覚を抑えながら、僕はそう尋ねた。


「うむ。そこにはこう記されておった。『エルリアの地を治めていた古代王国時代の貴族が、かつて主流とされていた物質構成原理学レオ・ヴァル・ディースとそれ以外の別の力を駆使して、第三の力を生み出そうとしていたのではないか?』とな」

「それってまさか……」


「うむ。リルやの考えとる通りじゃろうの。エルリアの地を治めていた貴族と言えば、真っ先に名が上がるのはザーレントじゃ。そして、わしもこの地に来るまでは知らなかったのじゃが、ここには幻生獣がおり、彼らが使うおかしな力がある。太古の時代に生きたザーレントが研究しておらんはずがない。それが証拠に、当時、彼らの女王だったアルメリッサと婚儀を結んだのじゃからな。二人の間に愛があったのかどうかはわからんが。ただ、幻生獣らとともに精霊神術(セレスティア・マギ)の研究をしていたことだけは間違いないはずじゃ」


「じゃぁ、ひょっとして、第三の力というのは」

「そうじゃ。おそらくは物質構成原理学と精霊神術の融合による未知の力じゃろうて」


 静かに告げるザクレフさんに、ルードが瞳を見開いた。


「……てことは、フランデルクが使ってきたあの力がそれに相当するってことか?」

「いや、それに関してはなんとも言えん。第三の力というものが結局なんなのか、幻生獣たちも知らんらしいし、記録にも残っておらん。であれば、ここに入り込んだばかりのフランデルクがその存在に気付いて、それを手に入れたとは到底考えられんからの。まぁ、ザーレント絡みの研究資料はいくつも作られておるし、古代、あの貴族が残した書物がこの地から一部、方々に流出したという学説を唱えておる者もおるゆえ、その中に第三の力について記されたものもあるやもしれんがの。それこそ、奴が手に入れた明らかに精霊神術としか思えぬような力を身に付ける術が記された禁書や、障壁を展開する何かがの」


『精霊神術を吸収する禁術』。確かにその手の禁書は実在し、フランデルクはどこかでそれを強奪して己が身で実践している。

 となれば同様に、障壁を形成する禁術が古代、ザーレントの手によって完成されていて、それが記された禁書がどこかへ流出し、フランデルクが強奪したとすればある程度は納得できることだった。しかし、


「あの障壁みたいな力に第三の力が影響していたにしろ、どこかに障壁を展開する力が記された禁書があって、それを入手して手に入れた力だったにしろ、その力の仕組みがわからなければ、対処のしようがない」


 ぼそっと呟くように言った僕に、ザクレフさんが天井を見つめるように壁に寄りかかった。


「……わしが今語ったのは、あくまでも一つの考察から導き出した推量じゃから、これから言うこともすべて憶測に過ぎんのじゃが」


 そう前置きして、再び僕たちを見た。


「障壁に関してはその仕組みはわからんが、奴のあの異常な力についてはなんとなく察することはできる」

「力って……まさか、あいつが使ってくる光球とかのことですか?」


 問いかける僕に、ザクレフさんが頷く。


「うむ。お主らの話からするに、あの男は本来では不可能と言われておる複数の系譜に分類されるような力を、同時に一つの肉体に宿し、行使しておるとしか考えられん。となれば、そこから推察するに、おそらく奴はそれを可能とする何かを自身に埋め込んでおるのではないかの」


「埋め込む? いったい何を……」

「それはわからん。じゃが、この森でわしが手に入れた精霊神術に関する情報によれば、かつてザーレントは複数の系譜を同時に身に宿す術を研究しておったらしい。そして、その一つの方法として編み出されたのが結合術じゃ」

「結合って……別々の力を無理やり繋ぎ合わせるってことですか?」

「そうじゃ。具体的なやり方はよくわからんが、それを為し得ている何かが、体内にあるはずじゃ。本来では奴の今の状態は生物としてあり得ぬのじゃからの」

「なるほど。てことは、その結合されている部分を破壊さえすれば、奴を無力化できるってことですか?」


 そう発言した僕に、アーシュバイツさんが首を横に振った。


「かもしれんが、奴が張っている障壁はどうする?」

「あぁ、そうか。あれがあるから結局攻撃が通用しないんじゃないか……」


 ようやく見えた光明と思ったのに、再び振り出しに戻ってしまった。

 しかし、肩を落とす僕に、真正面に座っていたオルファリアが声をかけてくる。


「もしかしたらですが、もしかしたらあの人が張っている障壁というものは、複数の精霊神術を吸収したことによる、副産物か何かなのではないでしょうか?」

「え……? 副産物ってどういうこと?」


「はい。ただの憶測に過ぎませんが、あれだけいろいろな力を体内に宿している人です。私が見た限り、おそらく四つの系譜を自身に取り込んでいるのだと思います。『破壊』に分類される水、炎、風、地です。この力により、あの人が使ってきた光球と雷撃を生み出すことが可能となります。ですがおそらく、他にも『秩序』や『滅亡』に分類される力の一部も、本人が気付かないまま取り込んでいると思います。何から、どうやって吸収したのかはわかりませんが。ですが、それらを同時に体内に宿したことにより、あの人は自分の意志で周囲の精霊力に働きかけて、精霊神術の結合部分を中心(・・・・・・・)に、身体全体に障壁を張れるようになったのだと思います」


 僕はじっと見つめてくる彼女を見ながら、廃村遺跡で出会ったフランデルクのことを思い出していた。

 そういえばあいつ、障壁で僕の攻撃を防いだとき、渦を巻くような虹色の光で、全身を覆っていた気がする。しかも、その中心部分が胸元だったような気が。

 そこまで考えてはっとした。


「ねぇ、オルファリア。もしかしてだけど、その中心部分って比較的障壁が薄くなってないかな? 渦潮みたいに、穴が空いてるってことは?」


 大海原に時々現れる海流の竜巻。渦を巻くあれに巻き込まれたら命はない。そんな渦潮だけど、中心部分は穴が空いているように海底へと渦を巻いていく。断面図を見るとまさしく竜巻。

 それと同じで、障壁がもし、結合部分を中心に渦を巻くように展開しているのであれば、もしかしたら、その部分だけ障壁がないんじゃないかと考えたのだ。しかし、


「どうでしょうか。そこまではわかりませんが。ですがもし、私が考えた通り、本当に結合部分を中心に展開しているのであれば、他の部分より薄くなっているかも知れません。障壁を発生させている出口みたいなものですから。ですのでそこに、発生している障壁以上に高密度な精霊力をぶつければ、もしかしたら障壁を突き抜けて、結合部分を破壊できるかも知れません」


 僕は思わずルードと顔を見合わせてしまった。


「てことはそこに精霊神術だか魔法だかよくわからんが、強烈な一撃を叩き込めば奴をぶちのめせるってことか?」


 しかし、ルードのその意見はオルファリアによって全否定された。


「おそらくそれは不可能です。あの人が使う精霊神術は強力です。そしてその副産物として生み出された障壁ですから、薄い部分があったとしても、相当に分厚いと思います。ですので、それを打ち砕けるほどの火力を秘めた力ともなると、今の私たちでは使用することができません」


 すまなそうにする彼女に、


「万事休すか……」


 アーシュバイツさんが唇を噛む。しかし、彼女はこうも言った。


「ただ、放出される精霊力を一点集中して打ち込むことさえできれば、それも叶うかも知れませんが。それこそ、リルが持っている剣のような剣先に」

「剣……」


 僕は意味深な瞳を向けてくる彼女の視線に、心臓の鼓動が一気に高鳴っていくような感覚に襲われた。膨大な精霊力を宿すことのできる剣。僕はその存在を知っていた。


「エルオールの(つるぎ)

「はい」


 オルファリアが可愛らしく微笑む。


「もしもエルオールで作った剣に、大量の精霊力を注ぎ込むことさえできれば、おそらくあの人を……」


 彼女はそこまで言い、浮かべていた笑顔が嘘だったかのように、一瞬にして表情を消してしまった。あるのは陰りを伴う美貌だけ。彼女がそのとき、うちに秘めていた思いがなんだったのか、僕に推し量ることはできなかった。

本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!

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