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リ・グランデロ戦記 ~悠久王国の英雄譚~  作者: 鳴神衣織
第二章 人喰いの森

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11.異形の者たち

※12日の更新タイミングが夜間にずれるかもしれません。ご了承ください。

(何時に投稿するのが一番いいのか、正直よくわかってません(笑))




 目の前に現れた総勢二十名ほどの異形なる者たち。

 猪の身体に翼を生やした者。

 額に角生やした白馬のような生き物。

 先程目撃した緑色の髪を生やした子供のような姿の小人。

 全身が緑色の植物のような姿をした人型の者たち。

 他にも様々な生物が目の前にいた。


 この世界にはいわゆる獣人もいなければ、異形なる生物はどこにも存在しないと言われている。それが世間一般の常識だった。


 神話の時代や古代王国時代には、幻生獣と呼ばれる人ならざる者たちが普通に存在していたから、かつての人々にとっては身近な存在だったけど、現代を生きる僕たち人類にとっては、あり得ない存在だった。


 一般の野生動物よりも凶悪で害悪でしかない生き物は確かにいる。そういった生物は総じて魔獣と呼ばれるし、たまにその魔獣が更に進化して、醜悪な姿の化け物となって人々を襲うことだってある。


 そのような危険極まりない人外生物は『魔者(まもの)』と称され、嫌悪と恐怖の対象となっていたけど、基本的には、『異形なる者たちはこの世界には存在しない』。それが、この世界の常識だった。


 なので、おそらく普通の人間であれば、今目の前に現れた彼らみたいな姿の生き物を見たら、間違いなく『魔者』と判断して恐怖に震えて逃げ出すか、攻撃をしかけるかのどちらかだろう。


 僕は一応、予備知識として彼らのことを知っていたから、そこまで驚くことはなかったけど、さすがにそのような見た目の者たちがいきなり目の前に現れたら、多少はびっくりする。ましてや、まったく知識のない普通の人間が目撃したら、少なくない衝撃となって激しく心が揺さぶられてしまうだろう。

 ルードとベネッサが固まってしまったのが何よりの証拠だった。


「ふむ。ホンに人の子たり得る挙動よの」


 窓際で固まっていた僕たちを見て、三フェラーム(約四メートル)ほど離れた場所で横に並ぶように佇んでいたおかしな生き物たちの中から、やたらひょろ長い生き物が一歩前に進み出てきた。

 顔と思しき場所が白毛に覆われた樹木のような生き物。体長はおそらく二フェラーム(約三メートル)ほどある。

 腕はなく、白毛に覆われた顔の下から足下までのすべてが、灰色のボロ布で覆われていた。


「お前らは……いったい、なんなんだ……!?」


 呆然としていたルードが、我に返ったかのように眉間に皺を寄せて声を発した。それに対して、白毛木人は僕たちが使う共通語レオグラード語とよく似た言語で応じた。


「ふぉっふぉ……よいよい。実に人の子たり得る反応よ。(これ)、即ち邪と成すか正と成すか。すべては女王様の御心のままに」


 まるで会話が噛み合わない発言を一方的に発して、木人は周囲の者たちをかき分け、外へと出ていってしまった。

 事の次第にさすがのルードもぽかんとしている。そんな中、異形なる者たちをかき分けて前に進み出てきた者がいた。

 僕はその人を見て、胸が張り裂けそうなくらい、激しく鼓動が高まってしまった。


 腰まである白金色の長い髪と、宝石のように澄んだ水色の瞳。色白で蕩けそうな肌と薄紅色の唇。そして、人より僅かに尖っている細長い耳。


 誰がどう見たって、美少女としか思えないような、希薄なまでの美しさを備えた女性。


 間違いない。ここに連れてこられる前に、森の中で出会ったあの子だった。そして、幼少の頃から片時も忘れたことがなかった運命の女性(あいて)

 今目の前に現れた女性は、僕がずっと恋い焦がれ続けてきた、あの女の子に間違いなかった。


「オルファリア……」


 思わずぼそっと呟いてしまった僕の声を耳にしたからか、一瞬だけ彼女の耳がピクリと動いたような気がしたけど、特に気にした風もなく彼女は口を開いた。


「……おそらく、あなた方はどうして自分たちがこのような状態に置かれているのか、まるで理解できていないと思います。ですが、それは私たちも同じこと。あなた方の処遇には本当に頭を悩ませることになりました。何しろ、あなた方は森で出会った私を追いかけ回した挙げ句、不用意にも立ち入ってはいけない領域へと踏み込んでしまったのですから。その結果、死を待つばかりの状態へと追い込まれてしまったのはある意味、自業自得というより他ありませんが」


 目を伏せながら静かに告げる彼女。何かに耐えているかのようにも見えたけど、そんな彼女に応じる形で、ルードが掠れた声を吐き出した。


「死……だと? それはいったいどういうことだ? まさか、あのおかしな場所のことを言っているのか?」


 しかし、彼女はそれに答えず、首を横に振った。


「それをお話しするには場所がよくありません。本来であれば、あなた方のことは見捨て、決してこの村までお連れするような真似はしなかったのですが……。ともかく、それも踏まえて、改めてご説明させていただきますので、どうぞこちらへ。決して危害を加えたりしないと約束いたします。それが、協議の結果、私たちが出した答えですので」


 白っぽいワンピースのような衣服をまとった彼女はそれだけを口にし、背を向けると外へと出ていこうとした。しかし、それをルードが慌てて制した。


「ちょっと待てっ。事情云々以前に聞きたいことがある。お前らはいったい何もんだっ」


 怒号に近い威圧的な声音に、異形の者たちがあからさまな敵意を露わにしてざわついた。

 外に出ていこうとしていた彼女はその声に立ち止まると、ゆっくりと振り返る。


「……あなた方人間には理解できないと思いますが、私たちは古の時代よりこの地でずっと姿形を変えることなく種を保ち続けてきた、幻生獣と呼ばれる種族です」


 儚げにそれだけを口にし、今度こそ本当に出ていった。

 それに応じる形で、よくわからない言葉のような声を上げてざわついていた他の者たちも、続々と部屋の外へと出ていく。

 そんな中、僕は一足先に出ていった彼女が見せた細い背中を思い出しながら、


「……やっぱり、森の中で見たあの翼のようなものはないのか……」


 彼女のほっそりとした背中に淡く光り輝いていた翼は影も形もなくなっていた。




◇◆◇




 外に出た僕たちは、目の前に広がっていた光景を見て、思わず息を飲んでしまった。

 先程までいた小屋の中から見た外の景色は、一見、森の中にある小ぢんまりとした集落といった感じだったけど、実際に外に出て目にしたそれは、あまりにも非常識な光景だった。


 正しく幻魔界。


 扉出て遙か左側に広がっていた景色は、そうとしか表現できないような見た目だった。


 空のすべてを支えているんじゃないかというほどに、左右へと枝葉を広げた大樹のツリーハウスだけでなく、集落の中には大小様々な家が存在していた。普通の民家のようなものもあれば、犬小屋のような、かなり小さなものまでたくさんある。


 大木の根元に穴が開いていて、そこに木製の扉が取り付けられているものまであった。

 しかし、僕たちが驚いているのはそこではない。


 森の中で見た紫色の毒々しいキノコや、大樹からぶら下がるようにして生えているツタ植物、家々の間に生えている丈の長い草花たちが、まるで意志を持った生き物がごとく、うねり狂っていたのである。


 呆然としている僕たちを見て、周囲を取り囲むように佇んでいた、この集落に住んでいる異形なる者たち――幻生獣たちが、物珍しそうにしていた。


 僕は半円を描くように距離を取っている彼らのうち、中央に立っていたあの女の子を見た。

 周りにいる動物なのか人なのかよくわからない生き物の中にあって、唯一僕たちと同じような外見をしている女性。違うところと言えば、耳が人より少しだけ長いことぐらい。

 そんな彼女はどこか探るような視線を僕へと向けていたけれど、軽く目を伏せたあとで、


「ではこちらへ。あちらの集会場にてお話ししましょう」


 そう言って、背を見せ歩き始めた。

 他の者たちもそのあとに続いていく。


「ねぇ。これ、何が起こっているのよ……? さっき私たちの処遇とか協議とか言っていたけれど……」

「そんなん、俺が知るわけねぇだろうがよ……」


 ベテラン冒険者であるベネッサとルードが、戸惑ったように互いに顔を見合わせる中、


「とにかく、行ってみよう」


 彼ら幻生獣たちの正体を知っている僕は、そう促して一人歩き始める。


「あ、おいっ……」


 そんな僕の背に慌ててルードの声が追いかけてきたけど、


「多分、彼女が言う通り、悪いようにはしないと思う。何しろ、僕たちを助けてくれたんだから」


 振り返り様にそう笑顔で付け加えておいた。

本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!

とても励みとなりますので、【面白い、続きが気になる】と思ってくださったら是非、『ブクマ登録』や『★★★★★』付けなどしていただけるとありがたいです。

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