エピローグ
「まあ、伝説ですが、この様な話もあるのです……いかがですか……」
倉田は健一の顔を覗き込みそう言った。
「そんな時代からあるのですね……」
「はい。そう言い伝えられております」
倉田の話を健一は興味深く聞いた。
「単に高額な薬だという話ではなく、この薬はこの先の歴史に必要な人間なのかどうか……それを判断してくれるのかもしれません」
健一は清々しい気持ちでいっぱいだった。
「話の通り、リスクもあります。ですから我々も無理にはお勧めしておりません。病気を治すと言うより、病気を治す可能性を販売している訳ですから……」
健一は目の前に置かれた萬能丹を見た。
こんな薬で人の運命がそんなに変わってしまうなんて……。
そう思って改めて萬能丹を見る。
普通の小さな薬だが、その薬が自分の目の前にある事自体が運命なのかもしれない。
そう思った。
「分かりました……。その薬飲みます」
健一はそう言うと微笑んだ。
「私がこの先の歴史に必要とされているのかどうか……。それが知りたい。正直、そう思いました」
「そうですか……」
倉田は立ち上がり机の上にある電話を取った。
「私だ。お客様が萬能丹をお飲みになる。部屋を準備してくれ……」
そう言って受話器を置いた。
「では参りましょうか……。お話の時代と違い、万全の体制をもってバックアップしておりますので、ご安心下さい」
倉田は自然に健一に手を差し出した。
健一も立ち上がり踝まで埋まる絨毯の上を歩いた。
「こちらへどうぞ……」
倉田は隣の部屋のドアを開けた。
そこには手足を拘束するベルトが付いたベッドがあった。
「お待ちしておりました大石様」
白衣の男が頭を下げた。
「あなたは……」
健一はその白衣の男を見た。
その男は健一に余命宣告をした若い医師だった。
「うちの方にもアルバイトでね……来て頂いているのです」
倉田はそう言うと微笑んだ。
「ちょ、ちょっと待って下さい」
そう言う健一の口元にはクロロフォルムの染みたガーゼが当てられた。
健一の意識は徐々に薄らいで行った。




