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第八話 決意

 パンドルスは軍医による診察を受けていた。そこへリーダスたちが現れ、パンドルスと一緒に帰還して来た兵士たちに事情を聞いているようだった。さらにルジャルクも現れ、彼も兵士たちの話に耳を傾けた。

「体から炎が出て敵兵を灰にしただと。本当なのか?」

「我々にも信じ難いことでしたが、確かにこの目で見たんです」

「私も炎は見たが、まさかそんなことが……。リーダス、君はどう思う?」

「正直信じられません。けれど、彼らの話は事実だと思います」

 ルジャルクはやはり信じられないようであった。彼はしばらく黙っていたが、

「取り敢えず、私は敵軍に備えておく」

と言って指揮所へと戻っていった。犬軍は崩壊しておらず、未だ国境付近に留まっており、危機は去っていなかった。そのため、ルジャルクは敵への対策を立てる必要があったのである。

 ルジャルクが去った後、パンドルスが治療を受ける部屋から軍医が出て来た。リーダスたちは軍医に駆け寄り、パンドルスの状態について尋ねた。

「将軍はどうでしたか?」

「我々が見た所、命に別状はないでしょう。しかし……」

「何か気になる事でもあったんですか?」

「いや、将軍の体に特に異なっている点は見受けられませんでした。ですから、将軍が炎を放たれたというのはあり得ませんね」

「俺たちは確かに見たんだ!」

「君たち、落ち着け。先生ありがとうございます」

 リーダスは兵士たちをなだめつつ、軍医へと感謝し、パンドルスの眠る部屋へと入った。そこにはパンドルスが静かに横たわっていた。彼の体にはいくつかの傷があったが、炎による傷などは見当たらなかった。そこでリーダスは兵士たちに再び質問した。

「将軍が炎を放った時、君たちにその炎は当たったのかい?」

「炎は私たちに当たっていました。しかし、熱を僅かに感じた程で火傷はしませんでした」

「不思議だね。あの辺りは焼け野原となって敵兵も灰になったそうだが、君たちは火傷すらしていないとは」

「将軍が炎を制御していたのではないでしょうか」

「うーん。詳しくは将軍が目覚めた時に聞くとしよう」

 彼らは解散し、それぞれの持ち場へと戻った。要塞内では兵士たちが慌ただしく動いていたが、パンドルスの寝ている部屋だけは静かであった。

 翌日、ヒョウ軍は要塞に籠っており、犬軍はその様子を見てゆっくりと進軍してきたが、要塞を攻める気配は無く、その日戦闘は行われず、夜となった。

 リーダスがパンドルスを見舞いに行くとパンドルスは起き上がって外を見ていた。彼はリーダスに気付き話しかけてきた。

「リーダス、お前は無事だったか」

「パンドルス、君が無事で安心したよ」

「聞いたか。カイルが死んだって」

「聞いたよ」

「俺はカイルの気持ちに今まで気付けなかったし、守る事も出来なかった。情けないよな。あいつは俺と一緒に最後まで戦いたいって言ってたけど、こんな最後望んじゃいなかった」

「あまり落ち込むなよ」

「お前は悲しくないのか」

「悲しいさ」

「そんな風には見えないけどな」

「ここは戦場だからね。一々悲しんでいる暇はないさ。君は将軍として多くの人の命を預かっている。彼らのことを大事にしたいのなら過ぎ去った事よりも先の事を見ないとさらに多くの人が死んでしまうよ」

「お前の言う通りだけどよ、やっぱり辛いものは辛いんだよ」

「それでも僕たちは前に進まなくてはならない。さっ、早く皆の所へ行こう」

「俺はもう戦いたくない」

「何を言ってるんだ!」

「カイルたちの死もそうだが、俺は俺の力が怖いんだ」

「味方の兵士に被害はなかったそうだけど」

「俺はカイルが殺された時、敵を殺してやりたいと思った。そしたら炎が出てきたから、あいつらにぶつけたんだ。でも、俺の炎であいつらを焼いた時、あいつらの苦しみがたくさん聞こえてきたんだ。」

「そんなの当然じゃないか。今までもその悲鳴の中で戦ってきただろ」

「俺は急にその当然が怖くなったんだ。俺が殺した奴らにも大事な人がいて悲しみを与えているかもしれないって考えて、俺は嫌になったんだ」

「君はじゃあ、僕たちが奴らに滅ぼされる方がいいとでも言うのかい。やらなきゃやられる世界じゃないか!」

「戦いって何だろうな」

「そんなこと僕は知らないね。自分で考えなよ!」

 パンドルスの女々しい様子を見てリーダスはうんざりしたのか部屋を出ていき、パンドルスは一人で暗く沈んでいた。そこへジェラヘッドが入ってきた。

「将軍、お疲れのようですね」

「ジェラヘッド、お前は戦いが何なのかわかるか?」

「私は戦いとは目的達成の為の手段だと考えております。何者かが何らかの目的を宿し、その実現の為に開始した道は時として長く、険しいものとなります。そして、それを開始した本人が不在となり、目的が消失しても道だけが残ることもあります。こうなっては意味などありません。しかし、将軍が新しく目的を付与すれば将軍の願いを叶える道となるでしょう」

「それでも、戦いは避けられないのか?」

「今苦しみを受けることを恐れ放置した場合、苦しみは永遠に続くかもしれませんが、今苦しみを受け入れ、それを取り除くことが出来れば、永遠に苦しみが無くなるかもしれません」

 パンドルスは中々決心がつかなかった。ジェラヘッドは彼を決心させようとして言葉を続けた。

「将軍は自分の力を恐れているようですが、それは間違いです。その力が何なのか考えた所で時間の無駄です。しかし、力の使い方を考えるのは有用です。将軍の炎はどうやら仲間には効果がないと聞きました。ならば敵にも安全な炎を用いればいいのです」

「そんなことできるのか?」

「将軍ならば可能でしょう。さぁ、その力を使って我々と世界を変えていきましょう」

 パンドルスはジェラヘッドの言葉を聞いているうちに少しずつ精気を取り戻していき、遂に以前の顔つきを取り戻した。

「ジェラヘッド、ありがとな。確かにここでウジウジしてても始まらねぇな。よし、決めた。俺はこの力で世界を変えてやるぜ」

「いつもの将軍に戻りましたね。では行きましょうか」

 パンドルスの明るい顔を見たジェラヘッドは微笑み、二人は部屋から出て作戦会議室へと向かっていった。作戦会議室ではルジャルクやリーダスらが作戦会議をしていた。そこへパンドルスとジェラヘッドが入室してきたので皆パンドルスに視線を集めた。

「皆、心配させたな。俺は大丈夫だ」

「パンドルス将軍、無事だったか。それでは明日の作戦について考えようか」

 ルジャルクが中心となって彼らは作戦をまとめ、明日の準備をするためそれぞれの持ち場へと向かった。パンドルスも配下の者達の所へ向かおうとしたが、ルジャルクに呼び止められた。

「パンドルス将軍。先日のことは兵士たちから聞いたが、私は信じられない。君は本当に炎を操れるのか?」

「ルジャルク将軍。嘘か本当か、明日見せてやりますよ」

「そうか。では」

 ルジャルクは釈然としない様子であったが、それ以上は聞かず、明日の戦いに備えるためパンドルスと別れた。パンドルスが再び歩き始めるとリーダスがいた。

「リーダスか、どうした」

「僕と別れた時はあんな様子だったのに、何があったんだ?」

「あの後、ジェラヘッドが来てな。色々話して、お前から言われたことも思い出して考えた結果、こうなったんだ」

「そうか、なんにせよ。よかったよ」

「俺の目的また変わったぜ」

「今度は何だい?」

「俺が戦いを終わらせる」

「それはどういう意味だい?」

「俺が全ての奴らを打ち負かして言うこと聞かせてやるんだ」

「力で国々を屈服させるってことかい」

「そういうことだ。未来の苦しみを無くすため、今の苦しみは多少我慢する」

 パンドルスは自分の目的をリーダスに聞かせ、リーダスは彼の目的を肯定していた。二人は語り合いながら持ち場へと歩いていった。

 翌日、犬軍は要塞へと押し寄せてきた。ヒョウ軍は要塞に籠って防衛していたが、しばらくすると城壁の上にパンドルスが現れた。すると敵軍は警戒を強めたようであったが、パンドルスは突然単身、敵軍の中へと降り立った。

「あいつが先日、我々の部隊を消し炭にした奴です」

「ほう、あいつが」

 犬軍の指揮官ピブリアと数人の兵士たちが会話していた。ピブリアもやはり炎の力が信じられないようでそれを確かめるべく兵士たちをパンドルスに突撃させた。パンドルスは敵軍の突撃を受けると彼らに向かって炎をまき散らした。彼が発した炎は犬軍の兵士たちを包んだが、彼らは消し炭にはならず、軽い火傷を負った程度であった。しかしその炎は見るからに危険であったため兵士らは恐怖し、犬軍は後退せざるを得なかった。

「こんなことがあり得るのか」

「司令官、あれは危険です。ここは退きましょう」

「その方が良さそうだ」

 犬軍司令官ピブリアはパンドルスの能力を目の当たりにして驚き恐れ、退却命令を出したので犬軍は殆ど戦わずに引き揚げていった。

 彼らと同じくルジャルクやヒョウ軍の兵士たちも驚愕していたが、彼らの驚きは喜びへと変わり、パンドルスは褒め称えられながら要塞へと帰還した。

「パンドルス将軍、まさか本当だったとは」

「ルジャルク将軍、どうでしたか」

「たった一人で敵軍を退けるとは。君はもはや我々の英雄だ」

「大袈裟ですよ」

 ヒョウ軍の兵士たちは皆パンドルスをたたえていた。

 その夜、パンドルスとルジャルクたちは今後について話し合っていた。

「犬軍はどうやらあのまま本国へと引き返していったらしい」

「なら防衛成功だな」

「そのようだ。さて、ここの守りは私に任せ、君は領主の街へ戻るといい。君の領主就任、楽しみにしているよ」

「ありがとうございます。ではまた」

 パンドルスはルジャルクに別れを告げ、自軍の兵士たちに領主の街へと帰還する旨を伝えた。その数日後、彼らは砦を出発し、領主の街へと向かった。その途中、パンドルスはリーダスと会話していた。

「カイルがいなくなって悲しいけど、俺は俺以外の人が悲しまないようにするため戦争を終わらせる」

「達成が難しそうな目的だね」

「リーダス、これからも力を貸してくれよ」

「もちろんさ」

 パンドルスとリーダスは悲しみを乗り越えようと語り合いながら進んでおり、その姿は彼らが目指す未来への道を歩んでいるようにも見えた。

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