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第七話 覚醒

 領主の街出発後、パンドルス軍はルジャルク軍と合流し、そこでパンドルスとルジャルクが会話する機会があった。

「パンドルス将軍、久しぶりだな」

「ルジャルク将軍、あの時はどうも」

「君は今回の戦で活躍すれば領主になれると浮かれているようだが、敵を侮るなよ」

「わかってますって」

「戦は常に目前にある。君はその先の事ばかり考えていて危険だ。今回は私が一緒にいるから無茶はさせんがな」

「将軍のことは頼りにしてますけど、邪魔はしないでくださいね」

 パンドルスは若干浮かれ気味であり、その様子をルジャルクは心配しているようであったが、二人は同格であったのであまり厳しくは言えなかったようである。

 そのようなやり取りがあった中、パンドルス軍とルジャルク軍は五日ほどでプロディオ要塞へと到着した。そこでは既に犬軍が要塞を包囲し、守備兵と戦っていたが、パンドルス軍とルジャルク軍の接近を感じ取ると包囲を一部に任せ、他は迎撃態勢を取った。それを見ていたパンドルスはすぐに攻撃しようとした。

「敵がやる気ならこっちもやりやすいぜ」

「いや待て。敵の動きが早すぎる。あれは普通の軍ではないぞ。まずは探りを入れてみよう」

 ルジャルクは何とかパンドルスを説得し、彼は敵軍に向けて偵察隊を放った。

 翌日、パンドルスたちは作戦会議を行い、初めにルジャルクが発言した。

「どうやら敵の大将はピブリアという者で、彼は犬国軍の最高司令官らしい」

「強そうな奴だな。燃えてきたぜ」

「彼の情報は殆どないが、偵察隊によると彼の軍隊の様子は厳かで、隙が無いとのことだ。また、ここは中々戦いにくい地形である。故に我々は軽々しく動くべきではないと思う」

「ルジャルク将軍は臆病過ぎるぜ。トラ軍を合わせれば数は俺たちの方が多いぜ」

「要塞の東側には森林が広がり、そこで我々とトラ軍は分断されている。そのため彼らとの連携は期待できないだろう」

「なーに、トラ軍なんかいなくても俺たちだけで戦力は十分ですよ。俺は出撃しますからね」

「仕方ない。私も出撃するとしよう。しかし、くれぐれも無茶はするなよ」

 パンドルスは軽く返事を返したが、ルジャルクは彼の様子を危ぶんでいた。ルジャルクはパンドルスを引き留めることは無理だと判断し、ならば彼が戦場で無茶をし過ぎないようにしようと方針転換したようであった。

 パンドルスとルジャルクはそれぞれ配下の兵たちに命令し、敵軍に突撃する構えを取らせた。

「あの敵を倒せば、俺はやっと領主になれる。くぅー、待ち遠しいぜ」

「パンドルス、やる気なのはいいが、もう少し敵を警戒した方がいいぞ」

リーダスもルジャルクと同じようにパンドルスをそそっかしいと思っているようであり、彼に警戒を促したが、パンドルスは不機嫌な顔をした。

「リーダス、お前までそんなこと言うのかよ」

「君のことを思って言ってるんだ」

「いつもありがとな。お前の言う通りにするわ」

 そう言ってパンドルスは少々態度を改めたが、まだまだ浮かれているようであった。

「俺は必ず勝つぜ」

「何の為に?」

「それは領主になる為だよ」

「領主になって何をするんだ?」

「それは……」

「君が領主になって何をするつもりなのか僕はわからないが、たぶん君は個人的な理由を優先しているだろう。それを否定するつもりはないが、自分の事ばかり考えていると周りが見えなくなって危険だぞ」

「リーダス、お前のおかげで目が覚めたぜ。俺が兵士になったのは皆の幸せの為だったのに最近は自分の事ばかり考えてた。これじゃ駄目だな。今は俺たちの国を守る為、敵を撃退することだけ考えるぜ」

「パンドルス。良かったよ、いつもの君に戻ってくれて」

 パンドルスの様子を見たリーダスは安心して自らの持ち場へと戻り、パンドルス軍はルジャルク軍と共に犬軍へと突撃した。パンドルス軍とルジャルク軍を合わせたヒョウ軍は犬軍と激突し、両軍の兵士たちは格闘を始めた。戦況はヒョウ軍有利で、犬軍は徐々に後退し、要塞を包囲していた部隊と合流してさらに後ろに下がっていったので、要塞は包囲より解放される形となった。その日は夜が近かったので両軍共に停止した。パンドルスたちは要塞へと入り、作戦会議を行った。

「敵をなんとか後退させることができたな」

「ルジャルク将軍、明日はどうしますか?」

「パンドルス将軍、私の話を聞いてくれるのか」

「俺、反省したんです」

「なるほど、では一緒に考えよう」

 そうして彼らは会議を始めた。

「犬軍は未だ健在で、あれを倒さなければ国境の安全を確保できない。トラ軍が東に展開し、睨みを利かせているが、援軍に来るつもりはないようだ。よって東側は危険度が高い。東は私が担当したいが、軍の被害が大きく余裕がない。パンドルス将軍は?」

「俺の軍はまだ余裕があるから俺が東側を担当するぜ」

「悪いな。任せたぞ」

 会議を終えるとパンドルスたちは自身の天幕へと戻り、明日に備えて眠りに就いた。

 翌日、ヒョウ軍は犬軍が留まっている地へと進軍、犬軍は迎撃態勢を取り、そこで待ち構えていた。ヒョウ軍は犬軍へと突撃し、昨日と同じように激戦が繰り広げられた。

 戦いはヒョウ軍優勢に見えたが、東側の森林より突然敵軍が出現し、パンドルス軍の側面を急襲した。パンドルスたちは何とか態勢を整えようとしたが、突然現れた敵は思いの外多く、劣勢となった。さらに正面の敵軍はパンドルス軍とルジャルク軍を分散するような攻撃を仕掛け、両軍は分断されてしまった。そして、敵軍はパンドルス軍の方に戦力を集め、包囲し、彼らを殲滅しようとした。

「これはまずい。何とかしないと」

 パンドルスは兵士たちを自分の下へ集め、包囲を一点突破することにした。

「みんな俺の所に集まれ。」

 パンドルスは大声を上げ、味方の兵士たちを集めたが、敵の兵士たちもパンドルスを倒そうと集まってきた。

「パンドルス、敵が集まってきます。あなたが倒されたら軍は崩壊します。だからあまり目立たないで」

「敵が集まってくるだと。上等だ」

 パンドルスは最初、敵を引き付けるつもりはなかったが、それが味方の兵士にとっては救いになると考え、わざと目立つようにした。彼の目論見通り敵はパンドルスの周囲に密集し始め、彼以外には殆ど目もくれないようであった。

「よし、敵は俺に注目してるな。みんな今のうちにここから逃げろ」

 パンドルスは近くにいる味方の兵士たちに自分を置いて逃げるよう命令した。兵士たちは戸惑っていたが、パンドルスは声を荒らげ、兵士たちはやむなく命令に従い、その場から離れていった。しかし、一部の兵士たちは残った。

「俺の命令が聞こえねのか。さっさと逃げやがれ」

「パンドルス、私は最後まであなたの近くで戦いたいです」

「我々も同じです」

 そう言ってカイルと数人の兵士たちはパンドルスの近くから離れようとしなかった。

「仕方ねぇ、お前ら死ぬなよ」

 パンドルスはもどかしそうであったが、嬉しそうでもあった。そうして、彼らは敵の重囲の中で必死に戦っていたが、彼らにも限界があった。一人また一人と敵によって討ち取られていき、パンドルスは彼らが倒されていく度、悲痛な叫びを上げていた。遂にパンドルスにも余裕がなくなり、敵の兵士が彼の背後を襲ったが、カイルは咄嗟に間に入り、身代わりとなった。パンドルスはすぐに振り向き、その敵兵を打倒し、震えた声でカイルに語りかけた。

「カイル。大丈夫だよな?」

「パンドルス。あなたを守れてよかった。私はもう駄目みたいです」

「そんなこと言うなよ。絶対に助ける。待っててくれ」

「最後に伝えたい事があります」

「聞いてやるが、最後なんて言うなよ」

「パンドルス、あなたのことが好きでした」

 カイルは消え入りそうな声で最後にそう言うと息絶えてしまった。パンドルスはカイルの死を受け止めきれないようで茫然としていたが、急に絶叫し、涙をポロポロとこぼした。敵軍の兵たちはパンドルスが戦意を失ったと見て突撃してきた。

 その時、パンドルスは敵に向かって咆哮した。敵はただの叫びになど物怖じせず、パンドルスを討ち取ろうと四方より襲い掛かったが、それが間違いであった。なんとパンドルスの体から紅蓮のような炎が噴き出し、彼らを一瞬で消し炭にしてしまった。パンドルスは狂ったように炎をまき散らし、敵兵を次々と灰にしていったので、敵兵は恐れをなし我先にと逃げ走っていった。パンドルスは敵兵が近くからいなくなるまで暴れていたが、敵が彼の前からいなくなると力尽きたように倒れ伏した。彼の周りにいた味方の兵はどういうわけか無事であり、パンドルスに近寄って彼を担ぎ、戦場から脱出した。

 パンドルスが重囲のなかにあった時、別の場所ではリーダスたちがパンドルスの下へ行こうとしていたが、敵に行く手を阻まれていた。

「このままじゃパンドルスが……」

「隊長このままでは我々も危険です」

 兵士の言葉通り彼らも危険な状況であったが、そこへパンドルスが放った火球の流れ弾が飛んできた。それは犬軍に直撃し、数人が灰となったので犬軍は恐怖し、目の前のリーダスたちを置いて逃げ走った。

「なんだ。今のは?」

「隊長、今の火の玉、パンドルス将軍のいる方から飛んできました」

「彼が心配だ。急ごう」

 リーダスたちはパンドルスがいると思われる場所へと急いだが、そこには既に誰もいなかった。そこは元々草原であったが、今は焼け野原となり辺りには灰が舞っていた。

「何があったんだ?パンドルスは無事なのか」

「隊長、足跡が要塞の方へと伸びています。おそらく味方のものではないかと」

「よく見つけたな。それを辿ってみよう」

 リーダスたちは足跡を辿って要塞へと向かって行った。

 さて、ルジャルク軍はピブリアの本軍と戦っていたが、彼らの所からも炎が見え、その方面の犬軍が逃げ走っていくのも見えた。それを見たピブリアは異変を感じ、ルジャルク軍との戦闘を中止し、逃げ走った者たちを追いかけるように軍を動かした。ルジャルク軍はそれを追撃する余力がなかったので静かに見送った。ルジャルクは敵軍が突如退いたので不審に思っており、彼は軍を要塞へと引き揚げさせると偵察隊を出し戦場の情報を集めさせた。

 ルジャルク軍が要塞へ帰還した時、パンドルスの軍もバラバラと引き揚げてきており、その中には兵士たちに担ぎ運ばれるパンドルスの姿も見えた。

 彼の身に一体何が起こったのだろうか?

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