第六話 街にて
パンドルスは将軍となったことで邸宅を与えられた。その邸宅のすぐ隣に駐屯地があり、彼の配下の兵士たちの大部分が暮らす兵舎があった。パンドルスは兵舎へと向かい兵士たちと交流することにした。
「さて、どうすりゃいいんだ」
「将軍、何かお困りですか」
パンドルスが困った顔でぶらぶらしていると兵士の一人が彼に近寄ってきて話しかけてきた。
「あんたは誰だ?」
「申し遅れました。私はジェラヘッドと言います。先日まではルジャルク将軍の配下にて軍務を担当させていただいておりました」
「おっ、いいこと聞いたぜ。ジェラヘッドって言ったな。あんた俺を助けてくれないか。」
「私はそのつもりでお声かけしたのです。何なりとお申し付けください」
「ありがとな。それじゃ……」
パンドルスはジェラヘッドから軍務に関することを教えてもらったが、彼には全く経験のないことであったので参ってしまい、とても困った顔をしていた。それを見たジェラヘッドは彼に再び話しかけた。
「将軍、このジェラヘッドに軍務を担当させていただけませんか?」
「やってくれるのか?」
「実は私は戦いよりもそちらの方が得意なのです」
「そいつは助かるぜ。これからよろしくな」
「よろしくお願します。将軍、私の友人にベツェドという者がおります。彼と一緒に任務に当たらせてもらってもよろしいでしょうか」
「いいぜ。他にも有用そうな人がいるならドンドン教えてくれ」
ジェラヘッドは他にも数人推薦し、パンドルスはその者たちを全て彼の言う通りの役職へと配置した。ジェラヘッドはすぐに軍務を開始するためパンドルスと別れた。
「いい感じだな。次は……」
パンドルスは兵士たちに聞き込みをし、兵士たちは彼に協力した。兵士たちの話によるとシャドニクという者がおり、その者はかなり有能であるが滅多に顔を出さないらしかった。パンドルスはその人物に会うため彼の家に向かった。教えられた家の前まで来るとそこに一人の者がいた。その者は見るからに剛健そうであったのでパンドルスは彼がシャドニクだと思ったのか声をかけた。
「あんたがシャドニクだろ」
「そうだが、お前は誰だ。そして何の用だ?」
「俺はパンドルスだ。突然だが、俺と一緒に戦ってくれないか?」
「何を言い出すかと思えば、俺は兵士が嫌いなんだ」
「どうしてだよ」
「兵士っていうのは決まった時間に動かにゃならんし、自由に行動することもできやしない。俺に合わないのさ」
「なるほど。それじゃ、自由にしたら一緒に戦ってくれるか?」
「はっ、お前は将軍か、何かか」
「その通り、俺、将軍なんだよ」
「なに!」
シャドニクは驚き、じっくりパンドルスを見てみると彼の腰には将軍用の剣があったのでその言葉が真実であると理解したみたいであった。
「驚いたな。お前みたいなのが将軍とは」
「昨日なったばかりだしな。それで兵士になってくれるか」
「いいだろう。お前は他の奴みたいに偉そうに見えないからな」
「よし、決まりだな。これからよろしくな」
パンドルスはシャドニクとしばらく会話し、二人して駐屯地へと向かった。シャドニクは兵士となり、自由を許されたが、他の兵士の迷惑にならないようにさせた。
パンドルスは自分の配下の兵士を大体確認し終え、休憩していた。そこへリーダスとカイルが来た。
「お前たちは終わったか」
「終わったよ。そっちは」
「あと少しだ。戦いなら得意だけどそれ以外は駄目だから大変だぜ。けど、ジェラヘッドっていう奴のおかげで何とかなりそうだ」
「ジェラヘッドって誰ですか?」
「どうやらルジャルク将軍の部下で、軍務が得意らしいから任せることにしたんだ」
「それは頼りになりそうですね」
「だろ。他にも色んな奴がいてな」
パンドルスはリーダスとカイルに向かって様々な兵士たちについて語った。パンドルスは元気良く話続け、リーダスとカイルも興味深々であった。しばらくするとパンドルスは再び兵士たちの確認を行いに向かった。
パンドルスが自身の軍に関する作業を終えた時には辺りは暗くなっていたので、彼は自身の邸宅へと帰った。その邸宅は十人くらいなら一緒に住める規模であったのでパンドルスはリーダスとカイル、そしてジェラヘッドなどを呼び出し、彼らと一緒に住むことにした。寝室は個室であったのでパンドルスたちは一人ずつで寝ることになった。パンドルスはさみしそうにしていたが、そのまま静かに眠った。
翌日、パンドルスは駐屯地へと向かい、兵士たちと共に訓練を行った。パンドルスは軍務について少しずつ理解しようとしていたが、まだまだ不十分であったのでジェラヘッドが殆どを担当していた。彼ら兵士の日常は殆ど訓練や演習を行うことであったが、街の治安維持を任務の一つであり、稀に街周辺の調査などをすることもあった。
パンドルスは全体訓練と会議を終えると事務仕事の殆どをジェラヘッドたちに任せ、個人的な訓練をしていた。パンドルスの現在の目的は戦場で功績を立て、領主となりレオと再戦し勝利することであった。
パンドルスが将軍となって数日が経った。彼の周りでは特に変化は無く、いつものように個人訓練をしていた所へジェラヘッドが来た。
「将軍、少しよろしいですか」
「ジェラヘッドか。どうしたんだ」
「将軍の望みは領主となることらしいですね」
「気付いちまったか」
「将軍、領主となる為に戦ばかりあてにしておられるのは良くありません。戦の発生は不規則なものでいつ起こるのかわかりませんから」
「確かにそうだな。どうすればいいんだ」
「例えば街の厄介事を解決したり、街周辺の調査をしたりすれば皆から感謝され、領主への道が徐々に近づくでしょう」
「なるほど、いいこと聞いたぜ。ありがとな」
「いえいえ、私は将軍のお役に立てれば幸いです」
パンドルスは早速、ジェラヘッドの助言通り街の厄介事を解決するため街の住民に聞き込みをした。すると皆、何かしらの悩みを抱えていることが判明し、彼一人では解決が難しいものもあったので、リーダスやカイルたちと協力して解決することにした。そうした彼らの行動により街の問題は解決して街の状況は良くなり、彼らの主導者であるパンドルスの名声は高まった。
ある時、パンドルスは領主より街の東側にある山の調査を依頼されたので、リーダスとカイルの部隊を率いて向かった。
「山の調査って面白そうだな」
「やれやれ、これは遊びじゃないぞ」
「わかってるって。山の資源の調査だろ。俺はあの洞窟を調べるから二人は他の所を頼む」
「わかりました。」
パンドルスは二人と離れると他の兵士たちと共に洞窟の中に入って行った。洞窟の中は以前の調査隊によって所々に松明が設置されていた。それを頼りに進んでいくと松明が無い道が見えてきた。パンドルスたちは松明を用いてその先へと進んでいき、しばらく進むと広い空間を発見した。彼らがその空間を調査していると一人の兵士が何かを見つけた。
「将軍。こちらに来てください」
「何かあったのか?」
パンドルスや他の兵士たちがその呼ばれた所へ向かうとそこには大きな骨がたくさんあった。
「これは骨?」
「僕たちのものではないですね。この骨は僕たちの二倍以上はありますよ」
「そもそも形が違うな。これは持って帰りたいが、大きすぎて洞窟の中を移動させられないな」
兵士たちがその骨を見ながら会話しており、パンドルスもそれを不思議そうに見ていた。彼らはその洞窟の空間を探索し、骨の他には何も見つけられず、その先もなさそうなので引き揚げることにした。パンドルスたちが地上へ戻るとリーダスとカイルたちが既に調査を終え待機していた。
「遅かったね」
「深い洞窟だったぜ」
「何か面白いものはありましたか」
「何かでっかい骨を見つけたんだよ」
「骨?それは何か意味があるのかい」
「何の骨なのか気にならねぇか?」
「僕は興味ないね」
「私もあまり……」
「噓だろ、お前ら。」
パンドルスたちはそれぞれの調査の成果を話し合っていた。彼らは少し休憩すると街へ戻り、領主へと調査結果を報告した。
その夜、パンドルスは彼の邸宅内でリーダスとカイルそしてジェラヘッドなどの軍の重要人物たちと会議をし、それを終えるとリーダスとカイルを誘って話し合っていた。
「二人共、俺の目標知ってるか」
「さぁ、君の目標はいつもコロコロ変わるからね」
「ちげえねぇ」
「それで今の目標はなんですか?」
「俺の今の目標は領主になることだ」
「やっぱり思った通りだったね、カイル」
「はい」
「なんだよ、二人共知ってたのかよ」
「君はわかりやすいからね」
「パンドルスはとても頑張っていますからね。あともう一息だと思います」
「俺もそんな気がしてるんだけどな。ジェラヘッドたちが言うには最後に必要なのはやっぱり戦功らしいぜ」
「らしいね。街の人々は皆君のことを認めているようだけど、領主となるには最後に武を示さなくてはならないという国の法があるからね」
「あーぁ、戦いが恋しいぜ」
「待っていれば必ず来ますよ。」
「そうだな。それまでは練兵やら街の問題の解決やら地道なことをやっておくか」
「そういや、二人の目標はなんだ?」
「私はパンドルスをいつまでも助けていたいです」
「僕も似たようなものさ」
「二人共、ありがとな」
パンドルスたちは夜が深まるまで賑やかに過ごしていた。
翌日、パンドルスは領主に呼び出され、領主の館へと向かった。彼が館の会議室へ入るとフィルマスが将軍たちと会議している最中であった。
「おぉ、パンドルスか」
「遅れました」
「気にすることは無い。どうやら犬国が再び攻めてきたらしい」
「犬国が!」
「そこで女王様の命により我々が敵軍と戦うことになった。今回、トラ軍と共闘することになっているが、彼らとは仲が悪く頼ることはできない。私は敵を撃破できる者はパンドルス、君しかいないと思っている。どうだ、行ってくれるか」
「是非俺に行かせてください。必ず期待に応えて見せます」
「やはり、頼もしいな。友軍としてルジャルクも出撃させる。では、任せたぞ」
パンドルスはフィルマスより出撃命令を受けるとすぐさま駐屯地へと向かい、配下の者達に号令を下した。彼らはその日のうちに準備を終え、次の日の早朝に街を出発し、犬軍が進軍するプロディオ要塞へと向かった。