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第十三話 陰謀

 パンドルスは王女の依頼を片時も忘れず、領主の仕事の傍ら常に儀式の機会を探っていた。そして、ある時パンドルスが休憩しているとリーダスが来て彼に話かけてきた。

「パンドルス話がある」

「どうした?」

「実は明日の生命の日に、僕は妻と一緒に子どもを産むことにしたんだ」

「えっ!?お前いつの間に」

「君が領主になったすぐ後さ」

「なるほど。それでどうして俺に打ち明けたんだ」

「君も知っているだろうけど、子どもを産むという行為はかなり危険が伴うんだ。もしも僕たちが……」

「そんなに危険なのか?」

「子を産み終えた後、親が生きていられる確率はそれほど高くないし、命が助かっても体が不自由になってしまうこともあるんだ」

「そうか。でもお前たちはきっと無事に子を産めるぜ」

「僕たちもそう願っているよ」

 リーダスは伝えたいことを伝えるとパンドルスの前から去った。パンドルスは何か気になったのかジェラヘッドを呼び出した。

「ジェラヘッド。子を産むっていうのは危険なんだな。どうにかしてその危険を無くせないのか?」

「こればかりは現在の我々にはどうすることも出来ないでしょう。ですが彼らを労ることで苦しみを和らげることは可能です」

「そういえば、他の生物たちも俺たちと同じなのか?」

「どうでしょう。私は学者ではないので答えられません」

「そうか。呼び出して悪かったな」

 パンドルスはジェラヘッドの答えに満足していないようであった。彼はその日ずっと何かを考えているようであった。

 翌日、生命の日ということで街は賑わっていた。パンドルスが領主の仕事を終えると既に辺りは暗くなっていた。彼が領主の館から出て、世界樹の苗木へと向かっていくと、そこには子を産もうとする者たちが集まっていた。パンドルスが上の方を見ると世界樹の苗木の葉は不思議な淡い光を放っていた。それを見てパンドルスは何か感じたのか世界樹の苗木を急によじ登っていき頂上へと至った。

「世界樹よ。どうか俺の言葉を聞いてくれ」

 パンドルスがしばらく祈っていると彼にはどうやら世界樹の声が聞こえたらしく会話を始めた。しかし、世界樹の声は空間に響かず、彼だけにしか聞こえていないようであった。

「この声は。あんたが世界樹なのか?」

「よかった。質問があるんだ。えっと、この国の王女様であるレナキュア様の本当の両親は誰なんだ?」

「うーん、名前で言われてもピンとこないけど。」

「へぇー。すげぇな。そんなことまでわかるのか。それで……」

「えっ!?王女様が……」

 それまでパンドルスは世界樹と意思疎通して感心しているようであったが、突然大声を出して驚いた。

「何を言ってるんだ。それは本当なのか?」

「おい、なんか聞き取りづらくなってるぞ。もっと聞かせてくれ!」

 どうやらパンドルスは世界樹の声が聞こえなくなってしまったらしかった。その時、世界樹の苗木の淡い光は失われていた。パンドルスはしばらく茫然としていたが、そこから降りて自宅へと静かに帰って行った。

 翌日、パンドルスは早起きし、両親の所へ向かっていた。

「パンドルス。おはよう」

「母さん、父さん。おはよう。ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「言ってみなさい」

「俺は昨日、世界樹の声を聞いた。それで……」

 パンドルスはそこまで言うと口ごもってしまった。彼の両親は世界樹の声を聞いたという言葉に若干、引っ掛かりがありそうであったが、彼に言葉をかけた。

「パンドルス。遠慮せずに言いなさい」

「なら聞くけど、母さんと父さんは俺の本当の両親じゃないのか?」

 パンドルスの口からその言葉が発せられた時、彼の両親は酷く驚いたが、すぐに申し訳なさそうな顔をして言葉を発した。

「今まで隠していてすまない。その通りだ。私たちはパンドルスの本当の親ではない」

 その言葉を聞いたパンドルスはショックを受けたようであったが、すぐにまた質問した。

「じゃあ、俺の本当の親は誰なんだ?なぜそれを隠していたんだ!」

 パンドルスの言葉は強く、怒りが現れているようであった。彼の両親とされてきた二人は悲しそうな表情を変えず、彼に真実を語り始めた。

「パンドルス。君の本当の父親はパテリオス様と言って数代前の領主であった。パテリオス様は様々な功績を立て我らヒョウ族の希望であった。しかし、ある時パテリオス様は争い事に巻き込まれ、領主の座を追われ、わしらの住む村へと逃げてこられたが、追手も来た。そこでわしらは日頃の感謝を捧げるためパテリオス様を匿った。パテリオス様はわしらに感謝してくれたがやり残したことがあると言ってすぐに出て行ってしまわれた。その時パテリオス様からわしらに託されたのがパンドルス、君なのだ。そして、パテリオス様は去り際にわしらに自分のことを君に言わないようにと言い残していかれた」

 パンドルスは静かにその話に耳を傾けていたが、話が終わった時には少しばかり驚いた顔をしていたが、二人にまた質問した。

「パテリオスっていうのが父さんで、母さんは?」

「ごめんなさい、私たちも知らないの」

 パンドルスはその後、静止して目を閉じ、黙っていた。二人は彼に謝罪するように言葉を続けた。

「今まで黙っていて本当にすまなかった。わしらはパンドルスの親にふさわしくない。ここから出て行くよ。今までありがとう」

 そう言って二人はそこから立ち去ろうとしたが、パンドルスは彼らを呼び止めた。

「待ってくれ。本当の事を確かめたかっただけだ。産んでくれたのが母さん、父さんじゃなくても育ててくれたのは母さん、父さんだろ。俺はいつも二人に感謝しているし、これからもそうだ。俺の両親は母さん、父さんなんだよ」

「わたしたちを許してくれるの?」

「いや、むしろ俺の方が悪かった。急に怒鳴っちまってごめん。話をきいて落ち着けたぜ、ありがとう。これからもよろしくな」

「パンドルス……」

 パンドルスとその両親は抱き合ってしばらく泣きながら喜んでいた。その後、パンドルスは領主の仕事を行い、それを終えるとリーダスへ会いに向かった。

「リーダス、昨日は上手くいったか」

「おかげさまでね。三人共無事、今日を迎えることができたよ。」

「それは良かった。ところで、もしも昨日まで信じていたことが実は嘘だったらお前はどうする?」

「うーん、ちょっと抽象的だな。もう少し具体的に言ってくれないか」

「例えば、血のつながりがあると思っていた両親が、本当は血のつながりが無かったらとか」

「ふーん。そうだな、その時は別にどうもしないよ。多少驚きはあるだろうけど、親は何も血のつながりだけが重要ではないと思うよ」

「やっぱそうだよな」

 リーダスの答えを聞いたパンドルスは安心したのか、いつものようにリーダスと軽口を言い合いながら時を過ごした。

 パンドルスはその後も両親への態度を変えず、今まで通り過ごし、両親も肩の荷が下りたのか晴れやかな顔をしていた。そしてある時、彼の両親は安らかに眠った。パンドルスは両親との別れを悲しみ、彼らの葬儀を終えた後も少し気持ちが沈んでいたが、すぐに持ち直して領主としての責務を果たしていた。

 そんなある時、パンドルスへ女王の命令が下された。その内容は現在、犬国は内紛状態にあり、その隙をついて侵攻作戦を開始するというもので、全領主の出兵が決定していた。パンドルスは命を受け、早速準備を始めたが、彼のもとに内務官サノリアが来て情報をもたらした。

「領主。ある情報を入手しました。それが今回の作戦、トラ領主の陰謀が隠されているようです」

「何?どういうことだ」

「どうやらトラ領主ティグルムは我々が犬軍と交戦している最中に領主を亡き者にしようとしているらしいのです」

「それは本当なのか?」

「この情報の出所はトラ族の有力者であるので間違いないかと。しかもこの陰謀にライオン領主も関わっているらしいのです」

「うーん。何故なんだ?」

「領主は王女様と結ばれる第一候補です。それをよく思っていないのでしょう」

「そういうことか。やっぱりトラ領主に嫌われていたか。それにしてもレオが……」

 パンドルスはレオが陰謀に加担していることは信じたくない様子だったが、彼らに備えることにした。

 数日後、全領主が軍を出発させ、国境付近において集合した。この時、パンドルスは初めてティグルムと会話した。

「あんたがトラ領主のティグルムか。よろしくな」

「ふん。お前は誰だ」

「俺はヒョウ領主のパンドルスだ」

「そんなことは知っている。今回の戦でお前を出し抜いてやるからな」

 そう言ってティグルムはすぐにパンドルスの前から去った。彼の言動は明らかにパンドルスを敵視していた。パンドルスもそれを感じ取っており彼はやれやれという顔をしていた。その後、軍の配置が定められ、ヒョウ軍はユキヒョウ軍とジャガー軍と共に先陣を担当することになった。パンドルスはこの時、それぞれの領主にトラ領主を警戒するよう伝え、彼らは了解したようであった。彼らの軍の後にはトラ軍、ライオン軍が続き、その後ろにはピューマ軍、チーター軍が続いた。

 彼らはそのまま犬国へと接近したが、犬軍の姿は見えなかったのでそのまま進軍を続け、犬国へと侵入した。その時、トラ軍とライオン軍そして、チーター軍、ピューマ軍がいきなりヒョウ軍、ユキヒョウ軍、ジャガー軍に襲い掛かった。しかし、彼らはこの状況を予知していたため、冷静に対処した。

 ティグルムは彼らを一瞬で葬るつもりであったが、作戦が失敗したので慌てていた。そこへレオが来た。

「ティグルム。俺とパンドルスで一対一をさせてくれないか」

「レオか。どういうつもりだ?」

「パンドルスさえ倒してしまえば、後はどうとでもなるだろ」

「そうか。そうだな」

 ティグルムは怪しげな笑みを浮かべ、レオの申し出を受け入れた。そこでレオは進み、パンドルスに呼びかけた。

「パンドルス。俺と一対一で勝負しろ」

「レオ。何故なんだ?」

「戦えばわかるさ。それにお前が俺との戦いを拒むならこのまま全軍での殺し合いが続き、多くの血が流れるだろう。しかし、俺と戦うなら片方の死でこの争いが終結する。さあ、どうする?」

「わかった。俺はレオと戦うよ」

「それでいい。全力でこいよ」

 その言葉が終わるとレオとパンドルスは静かに向かい合いながら進んでいった。全軍は争いを中止し、二人の戦いの決着を見守ることとなった。

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