将来への保険
久しぶりに休みをとれたゴールデンウィーク、俺は息子の拓也といっしょに近場のショッピングセンターに行った後、2人のいきつけのラーメン屋に向かう途中の車内。
拓也が予想外のことを言ってきた。
言われて気づいたが本当に遠慮していたのは自分なのだと自覚してしまった。
そしてさらに驚いたのは拓也に大切な存在だと言われたことだった。俺のせいで家庭が壊れたと言っても過言じゃないし、俺はそう思っている。でも拓也に言われた言葉が本当に嬉しかった。
拓也は大丈夫と言っていたが、本当は大丈夫じゃないことは分かっている。この前にあったことはすでに悠悟君から聞いているし、かなり心配していた。
でもそんな嘘をつくほど俺の幸せを思っていることが分かって、恥ずかしながら涙が出てしまった。
拓也が自分の体質を改善しようと前に進もうとしていることがなんとなく分かり、俺もその手助けができればいいなと思った。
拓也が前に進もうとしてくれている以上、俺もそろそろ前に進むべきかもしれない。
拓也にコンビニにジュースを買いに行ってもらっている間、俺は車の中で静かに涙をながしていた。
◇◇◇◇◇
俺がコンビニから戻った後、父さんの目が赤かったが、触れないでおくことにした。
それからは今のことを話ながらラーメンを食べて家に帰ったのだった。
今思えばあの時ほどに父さんに感情をぶつけたことはないかもしれない。
☆☆☆☆☆
ラーメン屋に向かう車内。
「拓也、あの時はあんなことを言ってくれてありがとうな。おかげで明日からが楽しみだよ。背中を押してくれてありがとう。俺のせいで無理をさせてすまななかった。俺のために無理をしてくれてありがとう」
「べ、別に無理なんかしてないよ」
「そうか?」
「そうだよ」
父さんに少し見透かされているような気がした。
「それで、顔合わせって明日だろ?」
「あぁ、拓也はバイトの後に来るんだろ?」
「うん」
「もうすぐ家族が増えるんだな」
「父さんが決めたことじゃん。でもこんなふうに2人で出かけることが少なくなるのはちょっと寂しいかな」
「家族が増えた後もたまにはこうして2人でどっか行こうな」
「だね。明日って場所ホテルだっけ?」
「おう、ちょっといいところとってあるから楽しみにしとけ」
「分かった」
「それで、明日から女性と関わることが多くなるわけなんだがな、もしも生活に耐えられなくなったら言ってくれよ。ちゃんと何とかするから」
「なんとかって?」
「本当は内緒にしておこうと思ってたんだがな、お前今までお小遣い貰らってこなかっただろ?」
「あ、うん」
父さんは医者をしているから家にはそこそこ金はあるが、それだけだとちょっと申し訳なくて自分で使う金はバイトで稼いでいた。
「実はな、お前に渡す予定だったお小遣いは全部貯めてあって高校分の1人暮しに必要な額は貯まってるんだ」
「えー使えばよかったじゃん」
「元々お前のために用意した金だから使うのは気が引けてなちょくちょく貯めてあったんだよ」
「ちょくちょくってまさかプラスアルファーも?」
「あぁ、もちろん。だから本当に辛くなったら俺に言ってくれ。どうにかするから」
俺がまたこの貯金のことに関して言っても父さんは聞いてくれないと思ってあっさり折れることにした。
「もう、分かったよ。俺はそれが使われないことを祈るよ」
「そうだな」
貯金にはすごく驚いたが、再婚するにあたっての俺への配慮と俺の事をしっかりと考えてくれていたことがものすごく嬉しかった。
ラーメンを食べて帰った後も、明日のことを考えると憂鬱で仕方がなかった。