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親子の過去

これは2年前、俺が当時中学3年のゴールデンウィークに久しぶりに休みが入った父さんと出かけた時の話だ。


「それにしても今日は休みが入ってよかった。こうして拓也と出かけることができたしな」

「そうだね」


 父さんの名前は霜月弦斗。

 父さんは母さんが浮気をして、離婚してから少し経ったがそれからは俺との時間を大事にするような節があった。


「それにしても、こんな近場のショッピングセンターでよかったのか?遠慮しないでよかったんだぞ。どうせならもっと遠くでも」

「いいよ、ここで。父さんはまた明日仕事だし。欲しいもの結構溜まってるし、ここが1番」

「そうか」


 近場のショッピングセンターと言ってもだいたいのものは揃ってるし、文房具の品揃えはかなりいい。俺も今年は受験生なので、勉強が捗るように文房具にはこだわりたい。


「最近、学校はどうだ?」

「学校?まぁぼちぼちかな」

「じゃあ勉強は?って聞かなくても大丈夫か」

「まぁ勉強の方は心配には及ばないよ」

「そうかならよかった。そろそろ飯にするか。何がいい?」

「じゃあフードコートで」


 ここのフードコートにはステーキ屋があり、そこのステーキが俺は大好物だった。


「拓也、本当にそれ好きだよな。夜はラーメンなのによく食べるよ」

「いや、父さんもいっしょじゃん」


 2人でステーキを食べていると、突然声をかけられた。


「あ!霜月さん。いらっしゃったんですね」

「あぁどうも田中さん、鈴木さん」


 話しかけてきたのは若い女の人達で、おそらく父さんの職場の人だろう。


「霜月さん!せっかくですから夜に私たちと飲みに行きませんか?」

「ありがとう。でもごめんね?今日は息子とラーメンに行く予定なんだ」

「その子が息子さんですか!霜月さんに似てイケメンですね!」

「あぁ、ありがとう」


 露骨に褒めてきたが、さっきからのボディタッチなどの言動から察するに父さんに好意を抱いているのだろう。

 俺を褒めたのも父さんに取り入るためだろう。父さんもそれを察したのか、サラッと流した。

 ·····でもちょっとくらいは褒めて欲しいところではある。


「じゃあまた今度誘ってくださいね」

「そう言っても、絶対に来てくださらないじゃないですか。この前もそうでしたし」

「まぁ、こっちにも色々とあるんだよ」

「分かりました。じゃあまた明日」

「はい。また明日」


 そう言うと2人はまたどこかに去っていった。

 こういう時でも体が震えているのは、自分でも少し嫌になる。


「なぁ、大丈夫か。拓也」

「あぁ、うん大丈夫。だけど少し休ませて」

「分かった」




 ◇◇◇◇◇




 あれからは少し休憩し、適当に歩いてからショッピングセンターからでて車内に戻り、行きつけのラーメン屋を目指していた。


 そして俺は少し気になったことを父さんに聞くことにした。



「父さんって遠慮、してるのか?」

「ん?どうした?薮から棒に」

「いや、さっきの人達の話じゃ結構断ってるみたいだったし」

「あぁ、あれか。無理というか拓也との時間の方が大事だしな」

「でも、無理はしてないけど俺に遠慮してない?」


お父さんは言い淀むように沈黙した。


「父さんはまだ若いし、再婚とかも考えることもあるはずだ。でも俺が()()()体質だから俺に遠慮してんじゃないか?」

「遠慮はしてないぞ。出会いがないだけだ」

「出会い·····じゃあ長井さんは?」

「ぷっ」


 父さんが珍しく動揺した。これは何かある。

 でもここは追求はやめておこう。

 俺の思ってることを少しでも分かってもらえるためにも。


「出会いが無いわけじゃないんだ。でも俺に遠慮して1歩踏み出せない。父さん言ったよな俺に。遠慮するなって、俺も父さんに俺に遠慮して欲しくないんだよ」


 父さんは俺の話を何も言わずに聞いてくれていた。

 父さんが長井さんのことが気になっていた事も知っているし、俺に遠慮してることは少し分かっていた。

 そこで、俺の気持ちを父さんに伝える。


「もちろん、それが俺のためだって分かってる。だけど、父さんが俺の事を大切に思ってくれてるのと同じくらいに、俺も父さんのことを大切に思っているんだ。だから俺は父さんに幸せになってほしい。あんなことがあったからこそ。俺のことは大丈夫だからさ」


 全部紛れもない本心だった。

 だけど、大丈夫っていうのは嘘だ。最近にあった出来事のせいで、実は少し悪化してるまである。それでも、俺は父さんのためなら頑張れるような気がした。


 俺の思いを聞き終わった後、父さんは一瞬何かを考えて俺に言った。


「·····拓也、ちょっとコンビニでジュース買ってきてくれないか。時間はどれだけかけてもいいから」

「うん、分かった」



 俺は前を向き、父さんは、なるべく隠そうとしていたが、助手席から横目で見える父さんの目元には確かに光るものが輝いていた。

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