あの日の夢
「お、かぁ、さ、ん·····」
ドサッと、手に持っていた花束が落ちる音がする。
ゴールデンウィーク明けの今日、両親の結婚記念日のプレゼントを買うために部活終わりに行った、最寄駅から二駅程先にある街。
おすすめされた店で花束を買った帰り俺の目に映ったのは俺の知らないお父さん以外男の人とかつての両親の様にいや、それ以上にイチャついているお母さんの姿だった。当時、小学五年生ながら、恥ずかしくなるほどラブラブだった両親は本当に幸せだったように見えていた。
それでも、幸せそうな両親が自分の誇りになり、いつかこんな夫婦になりたいと思っていた。
「う、そ、だろ·····」
だからこそかなりショックだった。一回見ただけではなんの確証は得きれないが、それでも不倫の現場なんだと中一の俺でもなんとなくだが分かってしまった。
裏切られたというよりは信じていたものが一気に粉々に壊れていくような感覚だった。
誇り、そして自慢であった幸せそうな両親、家族の関係にどんどんひびが入っていく。
だけど、いつの間にか両親のイチャつきが減っていたことに気がついていた自分がいたが、それはお父さんの仕事が忙しいからだと決めつけていた。
それからはショックであまり覚えていない。
覚えているのは少し遅く帰った家のリビングの机の上に置いてある指輪と、お母さんの名前が書かれた『離婚届』と書かれている紙、父親と俺、別々に向けて書かれたっぽい手紙、そしてかつて見たことがないほど、落ち込んだお父さんの姿だけだ。それが脳裏に焼き付いている。
この、当時かなりショックだった出来事が、俺が女性不信に陥るきっかけになった。
★★★★★
「ってなんだ夢か」
午前四時
いつもよりかなり早く起きた俺霜月拓也はあの日の悪夢からようやく覚めることが出来た。
目頭は熱く、胸が張り裂けそうな痛みを感じた。
今でもたまに見るあの日の夢。特にゴールデンウィークの前後によく見る。ゴールデンウィーク明けの虚しさと悪夢のダブルパンチが俺の気分をさらに下げる。
「学校だりぃ」
学校に行きたくない自分に喝をいれ、なんとか動きだし朝食を簡単に済ましつつ学校に行く時間まで時間を潰して学校へと向かった。
◇◇◇◇◇
学校の帰り道、俺は親友の2人と歩いていた。
学校は一日中気分が上がらず何があったは全然覚えていない。
でもやはり連休明けの学校はかなりしんどいものがある。
俺たち3人は同じ中学で、同じ街に住んでいるため最寄り駅も同じだ。
その親友の1人である豊村悠吾は、サッカー部のエースだ。
そこそこ強いうちの高校のサッカー部のエースであるゆえに運動神経抜群でおまけに頭も顔も性格までいいという憎いやつだ。
ただ、憎めきれない部分もあるのがかなりずるい。
って勝ってるとこひとつもなくない!?まぁ勉強はどっこいどっこいではあるのだが。
そんなハイスペックイケメンと陰キャな俺がつるむのには同じ中学だと言うこともあるがもう1つ、いやもっとあるが理由がある。
「それにしてもやっと学校終わったなー」
「悠吾ずっと眠そうにしてたもんな」
「なんせ、合間を縫って見てたアニメをゴールデンウィーク中に徹夜で全部見たからな」
そう、悠吾はかなりのオタクなのである。ハイスペックなのにオタクというところがまた悠吾の憎もうにも憎めないところだ。
「ほんとユウって陽キャオブ陽キャなのにオタクなところあるよね」
呆れた様子でそう話すのはもう1人の親友の立花弘樹俺と同じ剣道部で全国レベルの実力を持つ選手だ。
そして爽やか系のイケメンで女子からの人気がすごい·····らしい。人から聞いた話ではあるが。
「そりゃあアニメは最高だからな。特に妹ものは最高」
「ユウって妹もの好きだよね。妹のどこがいいのか」
「持つものは持たざる者の気持ちはどうせ分かんないよなー」
ハイスペックな上に性格までいいお前が言うなとツッコミたいところだが、心の中に閉まっておく。
「おいこら拓也、今ハイスペックな上に超絶イケメンのお前が言うなって思っただろ」
俺が思っていたことを見透かしたのか疑いの視線を向けてきた。
「いや、そこまでは思ってないぞ」
「そんなこと言うけど、タクも十分ハイスペックだと思うけどな」
「そうだぜ。成績は学年トップだし剣道だって全国行ったじゃないか」
「俺の場合は武道だけで球技はからっきしだ。弘樹だって全国行ったぞ?」
「まぁ僕は全国行ったって言っても1回戦敗退だし、勉強はダメダメだけどね」
「いや、全国行ったってだけでも十分すごいからな。それに運動神経だって俺といい勝負だろ」
「まぁそのおかげでいろんな部に助っ人として駆り出されてるけどね」
弘樹が少し厄介な様子で苦笑すると、俺と悠吾もつられたように苦笑する。
そこに話題を変えるように弘樹が続ける。
「っていうか妹のどこがいいわけ?いたとしても、ただただうるさいだけだけど」
「もちろん可愛いからだ!」
そんな単純すぎる答えに俺と弘樹が思わず笑う。
「それに、お兄ちゃんなんか言われてみろ。めっちゃ可愛いだろ」
「そういうもんなの?」
「そういうもん」
悠悟の言葉が信じられないように、弘樹が聞き返す。
「でも、結花ちゃんはいい子だろ。女子とあんま喋れない俺が保証する」
「タクがそんなこと言ったらすごい説得力あるけど、それはタクの前でだけだよ」
俺の言う結花ちゃんというのは立花結花。
弘樹の妹でこの春入学してきた高校1年生だ。
「でも俺が言う妹ものっていうのは、ほとんど義理の妹だから弘樹のとこの結花ちゃんとは少し違うけどな」
「まぁ確かにアニメでは義理の妹とか姉との恋愛が結構多いよね」
「じゃあもしもアニメと同じことがある場合、一番確率高いのは拓也か」
突然俺の名前が出たことに驚きつつ返す。
「あ、そういえば再婚するって言ってたな。しかも相手には娘もいるとか」
「今思い出した感じだけど、どうでもいいのか?新しい母親と姉妹ができるわけだが」
少し心配してる様子の悠吾が言う。
って言っても、今思い出したというより考えないようにしてただけだけですけどね?
そうでもしないといろんなこと考えるし。
第一、気分がずっと最低だったのに考え事なんかできやしない。
俺と母親に関する過去について知ってるがゆえの心配ではあると思うが。
それに、新しい姉妹に関しても不安しかない。俺は同年代の女子にもかなりのトラウマがある。
しかも俺は女性不信に加えて、思春期をこじらせまくってる。
「どうでもいいわけないだろ?今は恐怖の気持ちと父さんに幸せになって欲しいっていう気持ちだけだよ」
「さすがに恐怖はあるか。でもその点は考慮した上で拓也の父さんは再婚決めたんだろ?」
「あぁ、たぶんな。再婚しようって考えだしたのも前に話をしたのがきっかけだと思うし」
「でも、倒れたりとかしないでよ。心配するのは僕らの方なんだから」
「大丈夫だ。体が震えるとかぐらいだと思うし」
「それでも心配なんだけどね!?」
少し冗談めかして言ってはみたが冗談だと思わずに、険しい表情になってくれているのは、少し嬉しかったりもする。
最悪期より症状は軽くはなった。その原因にはさっきの母親関係だったりいろんな理由がある。
あの時は本当に迷惑かけたし、その時よりは女性と話した時の症状も少し軽くはなったが、やっぱり心配は心配らしい。
でも、ここまで症状が軽くなったのは2人のおかげであったりもあんなことする。最悪期は目を合わせただけで倒れる位だったからかなり改善されてはいる。この2人と、あともう2人がいたから女性不信を治そうと思えたんだ。
そして、俺が少しでも治そうと思わなければ父さんには言わなかっただろう。
そういう意味でも2人には感謝しないといけない。
「それにしても義理の姉妹かーめっちゃ羨ましいな。アニメみたいで」
「いや、アニメのようには絶対にうまくいかねぇだろ」
少し暗くなってしまった雰囲気を変えるように悠吾が言い、そんな悠吾の機転に感謝しつつ答える。
俺はまだ見ぬ新しいお母さんと、義兄弟に不安とほんの少しの期待を持ちつつ、最寄駅で悠吾と弘樹と別れて帰り道を行くのだった。
以前に投稿していたものをリメイクしました。
ブックマークと評価、よろしくお願いします!