表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラッディ・トリガー  作者: ホッシー@VTuber
第二章 ~真夜中の仮面舞踏会~
78/109

第77話

 時刻は夜の23時。すっかり太陽も落ち、学校の中は真っ暗だった。私は吸血鬼なので夜目が利くから問題ないが普通の人間ならまともに歩くことすらできないだろう。

「さて、影野様。準備はよろしいでしょうか?」

 そんな普通の人間である長谷川さんは少しだけごついゴーグルをつけていた。どうやら、このゴーグルもトリガーアイテムらしく、真っ暗な場所でも見えるようになるのだとか。また、簡易的なレーダー機能もあり、学校の敷地内限定だがヤツラの出現を探知できるらしい。

「じゅ、準備と言っても……音峰先輩は?」

 講義が終わってからシャワー室を借りたり、長谷川さんが用意してくれた晩御飯を食べたり、念のために学校の中を歩き回って構造を頭に叩き込んだりしたがその間も音峰先輩はあの部屋から出てこなかった。まさか私一人で戦うのだろうか。

「それでしたらご安心ください。間もなく――」

「――お待たせ」

 その時、奥の部屋の扉が開き、音峰先輩が出てきた。相変わらず、凛としており一目見ただけでも背筋が伸びてしまう。

「長谷川、状況は?」

「今のところ、ヤツラの出現は確認できておりません。また、影野様にはあちらの内容をお伝えいたしました」

「……ええ、ありがとう」

 長谷川さんの言葉でホワイトボードをチラ見した音峰先輩は一つだけ頷いて私の方を見る。その目は真剣そのものであり、思わず生唾を飲み込んでしまった。

「影野さん、これからこの学校で行われることは把握してる?」

「……はい。ヤツラと戦う、と」

「そうね。あなたはまだヤツラと本格的に戦ったことがないわ。でも、だからといって甘やかすつもりはないの」

 そう言いながら彼女は私の前を通り過ぎ、生徒会室の扉に右手をかける。そして、こちらを振り返った。

「ここでの戦いはあの森とは比べ物にならないぐらい楽よ。学校の構造はシンプル。廊下も広く、障害物がない。明かりも非常灯はあるし、窓から月の光が射し込むことだってある」

「……」

「チャンスは三回。だから、自分できることを探して動きなさい。私も普段通りに戦うし、フォローはするわ」

「ッ……」

 確かに音峰先輩は私を見極めると言っていた。こちらの事情も考慮し、最低限のフォローはする。だが、それ以外は私の動き次第。ただ黙って見ているのは論外。下手な動きをしてもアウト。すぐに落第点をつけられておしまい。

 私が戦ったのはたった二回。ドッペルに一方的にやられ、榎本先生から逃げただけ。それだけの経験で私にできることはあるのだろうか。

「……わかりました」

 でも、それは最初から同じ。私にできることなんてないのかもしれない。しかし、もう諦めないと決めたのだ。どんなに惨めでも、不格好でも、辛くても、必死に食らいつくしかない。

「……さぁ、化け物対峙を始めましょう」

 頷いた私にほんの少しだけ笑みを浮かべた音峰先輩は生徒会室の扉を開き、真っ暗な廊下へと足を踏み入れた。






 三つ分の足音が響く廊下。あれから誰も話さず、ひたすら校内を歩いている。時計は見ていないがおそらく日付はすでに変わっているだろう。

「……」

 その間に私は事前に長谷川さんから聞かされていた学校の機能を頭の中で振り返っていた。

 北高は飛来森のサブであり、一日に少なくても一体、多くて三体ほどのヤツラが出現する。学校の敷地内には人払いの結界が張られており、一般人はおろか先生も残らないように仕掛けが施されているそうだ。

 また、学校には隔離世(カクリヨ)と呼ばれるトリガーアイテムが埋め込まれており、起動させると一時的に次元を切り替え、その次元内で起こったことは現実の学校に反映されない、という効果があるらしい。つまり、隔離世(カクリヨ)を起動中、どんなに学校を傷つけてもそのトリガーアイテムを停止させたら元の学校に戻るのである。確か、ドッペルに殺されそうになった時、彼女が傷つけた道路や塀も一瞬で修繕されていた。おそらく、あの時も先生(ティーチャー)隔離世(カクリヨ)を使っていたのだろう。持ち運べるほどの小型な隔離世(カクリヨ)だとカバーできる規模に限界があるらしいが、北高にある隔離世(カクリヨ)なら校舎が全壊しても元に戻せるそうだ。

(こうやって世間からヤツラの存在を消してる)

 それが『ストライカー』の仕事。世界の裏側の人たちの必死な抵抗。私もその一員になりたい。いや、ならなければならないのだ。

「……出ました」

 そして、その時は突如として訪れる。私の前を歩いていた長谷川さんが静かにヤツラの出現を口にしたのである。

「どこ?」

「東棟二階の2年E組です。渡り廊下に侵入」

 私たちが歩いているのは西棟一階の職員室の近く。昇降口の前を通り、東棟へ向かおうとしていたところだ。ここからヤツラの場所まで行くには来た道を戻り、西棟1階の渡り廊下の前にある階段を昇るのが一番早い。

「影野さん」

「は、はい!?」

 そう考えていた時、音峰先輩に呼ばれ、慌てて返事をする。彼女は長谷川さんの言葉を聞いても歩みを止めない。そう、何故か、昇降口の方へ向かっているのである。

「私たちは仮とはいえ仲間。ヤツラを倒すため、共に戦う仲間よ」

「ぇ、あ、はい」

「さて、私たちがまず最初にやるべきことは何だと思う?」

「やるべき、こと?」

 ヤツラが出たのに悠長に話している暇はあるのか?

 急いで来た道を戻った方がいいのではないか?

 そんな考えが浮かぶ。でも、違う。そんなことよりも優先すべきことがある。彼女はそう言いたいのである。

 じゃあ、その答えは何なのだろう? 仲間となった私たちが最初にするべきこと。最初にやっておかなければならないこと。

 それは――。




「――仲間ができることを知る?」




「正解よ」

 そう言いながら音峰先輩は昇降口前に設置されている扉を開ける。そう、そこは入学式初日、苗木を植えた時に通った中庭に続く扉。

 彼女はそのまま中庭に出る。見上げると二階の渡り廊下の窓の奥で何かの影が動いていた。大きな何かが引きずるようにゆっくりと進んでいるが、その全貌はよく見えない。

「まずは私の能力を見てもらうわ。もしかしたら、これで終わってしまうかもだけれど……とくとご覧あれ」

「ぇ……それって――」

「――装着(へんしん)

 二階の渡り廊下を見上げながら音峰先輩は何かを取り出す。どこから出したのか。どうして、そんな物を持っているのか。色々な疑問よりも最初に私の頭に浮かんだのは彼女が取り出した物体の正体。




「天狗の、お面?」




 真っ赤な長い鼻。厳つい表情。それはまさに天狗のお面だった。

来週の更新はお休みです。次回は12月22日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ