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ブラッディ・トリガー  作者: ホッシー@VTuber
第二章 ~真夜中の仮面舞踏会~
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第64話

 焼香の匂いが漂う会場。誰もが口を慎み、亡くなった彼に対してご冥福をお祈りしている。そう、学校が再開した次の日の夜、4月26日に榎本先生の葬式が開かれていた。だが、参列者の中にクラスメイトたちは数人しかいない。入学してまだ1か月も経っていないし、いきなり担任の先生が死んだと聞かされて混乱している人もいるだろう。

 しかし、私は数少ないその一人であり、焼香をあげる列に並んでその時が来るのを待っていた。あやちゃんは両親が仕事でどうしても家を空けられず、葬式に出られなかったため、ここにはいない。

「……」

 強化された耳が嫌でも鼻をすする音や彼の思い出を語る声を捉える。その中に彼を恩師と慕っている、かつての生徒もいた。きっと、それだけ彼が優しい先生だったのだろう。

 だからこそ、私は耳を塞ぎたかった。それが聞こえる度、私の心が軋んでいくから。

 お前のせいだ。

 お前がいたからだ。

 お前がいなければ。

 お前が、お前が、お前が、お前が――。

 これは私の幻聴だ。被害妄想だ。それでも、どうしても聞こえてしまう。私がいなければ先生は今も教卓に立ち、平和な日常を送っていたのだから。

「……」

 自分でもわかるほど顔を青くしていると焼香をあげる順番が来た。震える手でスマホで調べた動作を行い、最後に手を合わせる。

(先生……)

 目を閉じると優しく微笑みながら教卓で数学を教える彼と暗い森で赤黒い靄を放つ、狂った彼が同時に頭に浮かんだ。今でも同一人物とは信じられない私がいる。

 でも、どんなに私が違うと願ってもその事実は変わらない。榎本先生は私の担任だったし、私を襲ってきたのも彼だ。そして、こんなに生徒たちから慕われている先生を押しのけて私が生き残った。

 目を開けて顔を上げる。目の前に先生の遺影が飾られていた。教卓で数学を教えていた時のような優しい微笑みを浮かべている。

「……」

 どんな想いがあったとしても、どんな陰謀があったとしても、どんなに罪悪感を覚えたとしても、私は生きている。それは変わらない。

 だから、生きよう。先生の分まで全力で生ききるのだ。それが先生に対する私にできる、精一杯の償い。

 次の人の邪魔にならないように私は列から離れる。その時、誰にも見られないようにそっと目元を拭った。






 時計の秒針が時を刻む音が微かに聞こえる部屋で若い女性が書類を睨みつけていた。しかし、その人は小さくため息を吐いた後、その書類を投げるように机に置き、椅子から立ち上がる。

「……」

 無言のまま、カーテンを僅かに開けて夜空を眺めた。空に浮かぶ月は僅かに欠けており、数日もすれば月は半分になってしまうだろう。それでも窓から射し込む僅かな月光でも彼女の美しいプラチナブランドの髪はその光を反射し、輝きを放っていた。

 そんな月を眺めながら彼女は先ほどまで読んでいた書類について考え始める。

 その書類はとあるトリガーの相棒(バディ)申請書。『ストライカー』の中で――いや、歴代のトリガーの中で最強と言われている幻影(ファントム)のものだ。

 『ストライカー』はヤツラの抹殺を目的とした集団だが、それとは別に依頼されたら特別な理由がない限り、仕事を請け負う何でも屋なところもある。そのため、恨みを買うことが多く、実際に逆恨みされて被害を受けた人もいた。

 だからこそ、実際に働くトリガーたちは基本的に正体を隠して活動している。トリガーネームで呼び合い、容姿もトリガーによって違いはあるものの、すぐにわからないように変装しているのだ。

「……はぁ」

 そして、この女性こそ『ストライカー』の責任者兼音峰町市長――『音峰(おとみね) クレア』その人である。

 きっと、ただのトリガーが相棒(バディ)を申請したいと言っているのなら彼女もここまで悩まずにいただろう。だが、相手はあの最強のトリガーである幻影(ファントム)だ。クレア自身、幻影(ファントム)の正体はわからないが最強だと有名になる前から何度も依頼を出しているため、特に気をかけているトリガーであることには間違いない。

(本当はワタシの護衛にするつもりだったのに……)

 『ストライカー』の責任者兼音峰町市長である彼女は他のトリガーのように正体を隠すことができない。そのため、何かと命を狙われる機会が多かったため、彼女が公の場に出る時は幻影(ファントム)に護衛を頼むことが多かった。

 幻影(ファントム)は彼女の中でも特別なトリガーだ。これまで何度も依頼を出し、何度も助けられている。だからこそ、彼女は事あるごとに護衛にならないかと打診していた。まぁ、その返事は全てNOに統一されているため、こんなに悩んでいるのだが。

(てっきり、相棒(バディ)にするならシノビだと思ってたけれど……まさかこんな子なんて)

 クレアはチラリと机の上に投げ捨てた書類を見る。そこにはつい1週間前までただの女子高校生だった化け物の写真が貼られていた。

「影野、ね」

 その化け物の名前を口にする彼女は眉間に皺をよせ、美しい容姿を台無しにしている。それだけ今回の一件は彼女にとって頭を抱えるものだった。

「……」

 考え込むこと、10分。クレアは結局、幻影(ファントム)の要望を受け入れることを選んだ。書類自体、すでに承認されているため、それ相応の理由がない限り、却下できないからである。

(でも、その理由があれば話は別よね?)




 ただ、そう簡単に認められるほど彼女は化け物に優しくなく、幻影(ファントム)に対する恩が大きかった。

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