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ブラッディ・トリガー  作者: ホッシー@VTuber
第一章 ~紅の幻影~
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第53話

「……」

 洞窟内に沈黙が流れる。そもそも幻影(ファントム)さんは話さないので私が黙れば自然とそうなるのは当たり前だが、彼女はジッと私を漆黒の外套の奥からジッと見つめるだけで特にアクションを起こさない。

 仮に先生が人を殺したのは事故だったとして二人の女性を襲ったことには間違いないだろう。そのきっかけは私の吸血行為だ。そう、全ての元凶は私だったのだ。全部、私のせい。私が、化け物だったから――。

【確かに全てはあなたから始まったかもしれません】

「……っ」

 そんな私の思考を遮るように不意に文字が浮かんだ。いつの間にか俯いていた顔を上げると目の前に立つ幻影は特に身動きせずにその場で佇んでいる。でも、不思議とその姿がいつも見ていたあの夢に出てくる彼女の姿を重なり、僅かに心臓が跳ねた。

【きっと、あなたの吸血行為がなければあの二つの事件は起きていませんでした。それは間違いないでしょう】

「そう、ですよね……」

 突きつけられる現実に思わず奥歯を噛み締めてしまう。自分で責めるより他の人から指摘された方が苦しいのは客観的に見ても私が悪いのだと改めて自覚させられるからだろうか。

【しかし、あなたのせいではありません】

「え?」

 だからこそ、次に浮かんだその文字列に目を白黒させてしまった。そんな私を無視して幻影(ファントム)さんは続きを話し始める。

【元々、奴はそういった性癖があったのでしょう。そうでなければ血液に関する医学書を所持しているはずがありません】

「……」

【きっと、あなたの吸血行為を見ずともいずれ何かしらの事件を起こしていた可能性があります】

「それは、そうかもしれないけど」

【犯罪は犯罪です。きっかけはどうであれ、罪を犯したのは榎本。全ては自己責任です。あなたが背負うのは一つで十分です】

 きっと、漣先生を襲ったことを言っているのだろう。たとえ、殺していないとしても襲った事実は変わらないのだ。どんな形でもいいから私は罪を償わなければならない。

「……わかりました。ありがとうございます」

 まだ自分を責める自分がいるのは確かだ。それでも、彼女の気遣いの言葉は私の心を軽くした。それは間違いない。

「すぅ……はぁ……」

 乱れた気持ちを落ち着かせるために深く呼吸を繰り返す。

 幻影(ファントム)さんのこれまでの説明は全て仮説だ。状況証拠しかなく、筋は通っていても根拠がない。

 それでも当事者である私は納得できたし、あの榎本先生の豹変した姿も気になる。

 だから、確かめよう。彼に話を聞こう。それが私にできることだと思ったから。

【それでは今後の動きについて話し合いましょうか】

「今後……」

 私が助かるために幻影(ファントム)さんの相棒(バディ)になることを受け入れた。

 二つの事件の容疑者になってしまい、指名手配されるのを防ぐために真犯人と思われる榎本先生に話を聞こうと決意した。

 じゃあ、問題はその方法だ。榎本先生はあの赤黒い靄を使って幻影(ファントム)さんを北町から西町まで吹き飛ばした。それほどの威力がある攻撃だったのだろう。正直に彼に話を聞こうとしても私を捕まえるために攻撃を仕掛けてくるのは目に見えている。

【あなたを連れて逃げた時、奴の目は執念の色に染まっていました。きっと、ここまで追ってくるでしょう】

 その文字を読んだ時、ふと彼女が洞窟の入り口を気にしているのを思い出した。あれは榎本先生の追跡を気にしていたのだろう。

「そんな簡単に見つかるでしょうか? こんなに深い森なのに」

【私が先生(ティーチャー)たちからあなたを助けた後、すぐに駆けつけられたのが気になります。もしかしたらあなたの場所を特定する何かがあるかもしれません】

 なるほど、確かにそうだ。私が住宅街を出鱈目に逃げ回っていたので榎本先生がタイミングよく駆けつけられたのは少しだけ不自然である。何かしらの組織が手助けしているようなのでそう考えていた方がよさそうだ。

【そのため、ここで迎え撃ちます。それも私とあなただけで】

「っ……私たちだけ、ですか?」

 幻影(ファントム)さんが吹き飛ばされた時、彼女は咄嗟に盾を展開していた。赤黒い靄はそれを突き破った挙句、彼女を西町まで吹き飛ばしたのだ。もし、あの靄に直撃して吹き飛ばされた後、木に叩きつけられたら大変なことになるだろう。

 それに私は吸血鬼のおかげでそれなりに身体能力が高いだけの素人だ。私が戦力になるとは思えない。

 それなら森の中を逃げ回って時間を稼ぎ、応援を呼んだ方が勝率は高そうに思える。『ストライカー』はともかくシノビちゃんは呼べないのだろうか。

【シノビには榎本が犯人だと断言できるほどの証拠を集めてもらっています。それを疎かにはできません】

 榎本先生を撃退できたとしても彼が犯人だという証拠がなければ意味がない。私の疑いがきっぱりと晴れなければ幻影(ファントム)さんの相棒(バディ)になるからといって捜査している間に強引に処刑されてしまう可能性だってあるだろう。シノビちゃんには調査に集中してもらった方がよさそうだ。

「あ、そういえば」

 榎本先生が言っていたが幻影(ファントム)さんはとても有名なトリガーらしい。先生(ティーチャー)たちも彼女を見て驚いていたし、ちゃんと戦えば勝てるということだろうか。

【それに関しては謝らなければなりません。今の私だけで勝つのは少し難しいです】

 そう聞いてみたが彼女から返ってきた回答は予想を裏切るものだった。あのドッペルを圧倒していたのに赤黒い靄を飛ばすだけの榎本先生に勝てないのもおかしいような気がする。

【まだ確信はありませんが奴の能力と私の能力が相性が悪いようです】

「そう、ですか……」

 幻影(ファントム)さんの文字を読み、申し訳ないと思いながらも気落ちしてしまう。彼女の武器は弓矢だ。あの赤黒い靄に弾かれてしまうのかもしれない。

(でも、ドッペルに攻撃した時は地面に穴が開くほどの威力だったような……)

 威力もそうだが、なにより幻影(ファントム)さんはあの矢を自在に操れるようだったので隙を突けばどうとでもなりそうな気がする。それに彼女を見た時、先生(ティーチャー)が気になることを言っていた。

「もしかして調子が悪いせいですか?」

【そうですね。おそらくいつもの調子なら勝てます】

 私の質問にあっけらかんと答える幻影(ファントム)さん。やはり、彼女はあの先生(ティーチャー)たちがすぐに退くほど強いらしい。それほど榎本先生のトリガー能力との相性が悪いのだろうか。

「で、でも! なら、なおさら誰か応援を呼んだ方が……」

【いえ、勝つ方法はあります】

 そう言いながら彼女は右手の人差し指と中指を立てる。どうやら、勝つ方法は二つあるらしい。一体、どんな方法なのだろうか。

「……幻影(ファントム)さん?」

 しかし、何故か数秒経っても文字が浮かばないので首を傾げながら彼女の名前を呼ぶ。そして、すぐに幻影(ファントム)さんの手が僅かに震えていることに気が付いた。





【最も手っ取り早い方法はこの外套を脱ぐこと(・・・・・・・・・)です】





 それを指摘する前に彼女が一つ目の方法を浮かばせ、私は言葉を失くした。


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