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ブラッディ・トリガー  作者: ホッシー@VTuber
第一章 ~紅の幻影~
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第50話

「私が……相棒(バディ)?」

 彼女の言葉を上手く呑み込めず、私は呆然としてしまう。確かにそういう制度があることはシノビちゃんから教えてもらった。だが、それが私を救う方法だとは考えもしなかったのだ。

(でも、それって……)

 幻影(ファントム)さんの言い分は理解できる。それを使えば私が殺されずに済むこともわかっている。

 正直な話、幻影(ファントム)さんが私を相棒(バディ)にすると言ってくれて嬉しかった。

 あれだけこの先に待つ未来に絶望していたはずなのに顔が熱くなり、胸の高鳴りを自覚できるほど私の鼓動は強く叩かれた。

 それが彼女に生きろ、と言われているようで――私自身が生きたいと叫んでいるようで胸に熱が灯った。

 そう、私は幻影(ファントム)さんのその一言に救われたのである。進む意思はあるのに目の前が真っ暗で踏み出せなかった私の背中を優しく押してくれた。

 いっそこのまま、何も考えずに彼女の提案を受け入れた方がいい。そんなことぐらい私にだってわかっている。







 ――死ねばいいのに。







 でも、冷静な私がそれを許さない。臆病な私が進もうとする足を引っ張る。

「……」

 私の返事を待つ幻影(ファントム)さんを見つめながら小さく息を吸った。鼻腔をくすぐるのは深い草木の独特な匂い。それが高揚する私の心臓を僅かに押さえつける。

 彼女は私を助けるために相棒(バディ)になれと言った。それが私に残された唯一の道だと教えてくれた。

 私としても願ってもない提案だ。私の命は救われるどころか、これからも憧れの人と一緒にいられるかもしれない。そう考えただけでこの胸の高鳴りを抑えられなくなりそうだった。

 だが、どうしてもわからないのだ。彼女に救われるほど私に価値があるのか。どうして、そこまでして彼女は私を助けようとしてくれるのか。その理由が私にはわからなかった。

「どうして、そこまでして……」

 そんなことばかり考えていたからか、気づけば幻影(ファントム)さんにそう問いかけていた。

 だって、私はずっと彼女のことを夢で見ていたが、彼女からしてみれば私は初めて会ったばかりの化け物だ。

 私を助ける義理がない。

 理由がない。

 意味が、ない。

 むしろ、人外を抹殺している『ストライカー』としての立場が危うくなってしまうことだってあるだろう。

 そんな危険を冒してまで私を救う理由は何なのだろうか。それが知りたかった。

「……」

 ジッと幻影(ファントム)さんの答えを待つ。数秒、数十秒、一分。彼女は微動だにせず、ただ私を見つめ続けている。心臓の音がうるさい。もしかしたら幻影(ファントム)さんにも聞こえてしまっているかもしれない。それぐらい私は緊張していた。

【わかりません】

「……え?」

 しかし、彼女の答えは予想もしない言葉だった。そして、少しずつあれだけ熱くなっていた頭が冷えていく。

 わからないと言っておきながら私は期待していたのだろう。

 彼女にとって私を助ける理由があって、それを聞いて納得したかった。

 私は必要とされているのだと思いたかった。

 でも、現実は違う。幻影(ファントム)さんは私を助ける理由はなかった。私は必要とされたわけではなく、助けられる命だから助ける。ただそれだけのことだったのだ。

【でも、どうしても(・・・・・)あなたを助けたかったんです】

「どう、しても?」

 だが、そんな思考を遮るように彼女は文字を浮かばせた。彼女自身、本当に私を助けたい理由がわかっていないのかどこかその文字は不安定そうに揺れている。

【会ったばかりのあなたを助ける理由はありません。私も最初はあなたを監視するだけのつもりでした】

 文字が浮かぶ。しかし、それらは今までよりもゆっくりと綴られ、幻影(ファントム)さんも自分の考えを伝えようと言葉を選んでいるのだろう。

【ですが、気づけばあなたを助ける方法ばかり考えていました。そして、相棒(バディ)になることを思いついたんです】

幻影(ファントム)さん……」

 漆黒のローブのせいで表情はわからない。文字でやり取りをしているので彼女の声で感情を察することはできない。

 しかし、どうしてだろうか。幻影(ファントム)さんの私を救いたいという願いはしっかりと伝わってきた。それだけで私はあなたを信じられる。

「……わかりました」

 私は彼女の手を取り、頷く。手袋で覆われているその手は――見た目よりも(・・・・・・)少しだけ大きく(・・・・・・・)感じた(・・・)

 それだけ彼女の存在が大きいのだろうか。それもそうだろう。ずっと憧れていて、私の命すら救ってくれて、理由すらわからないのに手を差し伸べてくれた。









「あなたの相棒(バディ)になります……ならせてください」







 だから、私もそれに応えたい。私に何ができるかわからないけれど、相棒(バディ)なるのなら彼女のために何かを成し遂げたい。そんな気持ちで胸がいっぱいだった。

【ありがとうございます。それではシノビに手続きを進めてもらいます】

 そう言って幻影(ファントム)さんは私の手を優しく離して二つ折りの携帯を操作し始める。

 これで私は『ストライカー』に狙われる理由がなくなった。しかし、まだ問題は残っている。

「あの、指名手配の方は……」

 そう、私は二件の変死体事件の容疑者なのだ。このまま指名手配されたら何も意味がない。

【残念ながらあなたの容疑は晴れていないので相棒(バディ)になったとしても覆りません】

「そんな……」

【なので、真犯人を捕まえましょう】

 私の言葉を遮るように幻影(ファントム)さんはそんな文字を浮かばせた

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