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ブラッディ・トリガー  作者: ホッシー@VTuber
第一章 ~紅の幻影~
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第47話

「ここは……」

 幻影(ファントム)さんに横抱きにされ、移動して辿り着いたのは音峰市のど真ん中に広がるあの大きな森だった。ここは基本的に一般人の立ち入りは禁止であり、私も入ったことはない。

 夜目、というべきだろうか。こんな暗い森でも私の目はしっかりと木や草が見えている。そんな慣れない視界に少し戸惑いながら隣に立つ幻影(ファントム)さんを見た。

「あの、どうしてここに……」

【少しお待ちください】

 私の問いかけに対し、幻影(ファントム)さんは文字を浮かばせた。しかし、何かアクションを起こすわけでもなく、ジッと黙ったままその場で佇んでいる。手持ち無沙汰になってしまい、少しだけ怖くなって振り返るが幻影(ファントム)さんは森に入ってからも少しだけ進んだので木々が邪魔をして街並みは見えない。

 それがどこか恐ろしくなり、それから目を逸らすようにもう一度、幻影(ファントム)さんは青白く光り弓を手に持ち、矢を番えていた。

「え、ちょ、あの!」

 まさか臨戦態勢に入っているとは思わず、声を上げてしまうが幻影(ファントム)さんは構わずに矢を放ってしまう。その矢は真っ直ぐ森の奥へ消えていき、少し経ってから獣のような悲鳴がいくつか聞こえた。

【ヤツラがいたので処理しました】

「へ?」

 ヤツラ――つまり、私のような人外が森の奥にいたらしい。もちろん、夜目が利くといっても見える範囲には限界があるため、私には見えなかった。どうやって見つけたのだろうか。

【もう少し進んだ先に身を潜められそうな洞窟があります。そこへ移動します】

「は、はい!」

 幻影(ファントム)さんの指示に従い、私たちは森の中を歩き始めた。だが、森を歩くことに慣れておらず、どんどん幻影(ファントム)さんとの距離が開いていく。

(でも……)

 私の前を歩く彼女の背中は夢に見た光景そのもの。違うのはこれが現実である、その一点だけだった。

「あ、あの……もう少し、ゆっくり……」

 しかし、このままでは幻影(ファントム)さんとはぐれてしまうので申し訳なく思いながら彼女に声をかける。歩きながらだったのであまり大きな声は出せなかったが彼女の耳には届いたようでこちらを振り返った。

【失礼しました。歩き慣れてませんよね】

「きゃっ」

 そして、そんな文字を浮かばせた後、私のところへ戻ってきた幻影(ファントム)さんは私をまた持ち上げて歩き始める。ゆっくり歩いてくれたらよかったのだが、今は早く移動したかったのだろう。

 それから程なくして地面が隆起してできたと思われる洞窟があった。入口は大きいものの、奥に行けば見えなくくなるのでここなら身を隠すのに適しているだろう。

【ヤツラの住処になっている可能性もありましたが大丈夫そうですね】

 先に中に入って安全を確かめた幻影(ファントム)さんは文字を浮かばせ、手招きする。中に入ってこいということだろう。

「お邪魔、します……」

 彼女の後に続き、洞窟の中に入った私は比較的座りやすそうな場所に腰をかけ、そっと息を吐いた。幻影(ファントム)さんも私から拳3つ分ほど距離を取り、座る。

 一体、ドッペルに襲われてからどれほどの時間が経っただろう。スマホは鞄に入れてあったので手元にはなく、腕時計もしていないため、具体的な時刻はわからない。でも、まだ日付すら変わっておらず、夜はまだ長いということは理解していた。

「……」

 少しの間、沈黙が洞窟内を支配する。幻影(ファントム)さんは文字を浮かばせてコミュニケーションを取るし、私も憧れの相手とはいえ色々あったせいで話題を振る気力が湧かない。

【今後の話をしてもいいでしょうか?】

 そんな沈黙を破ったのはやはり幻影(ファントム)さんの文字だった。ノイズが走った拍子にバチリと小さな音を立てたが、その音が異様に洞窟内に響き渡る。

「……お願いします」

 頷いた私の声は僅かに震えていた。私が思っている以上に榎本先生の凶変した姿がショックだったのかもしれない。学校では温厚で優しく、私にも気を掛けてくれていた先生と住宅街で話した彼が同一人物だと受け止め切れていないのだ。

【わかりました。まずはあなたの今後をお話しします】

 私は人外だ。たとえ、この夜をやり過ごしたとしても私を殺そうとする人たちが襲ってくる。きっと、幻影(ファントム)さんはずっと守ってくれるわけじゃない。だからこそ、一人で生き抜く方法を考える必要があった。







【あなたは明日の朝にでも凶悪な犯罪者として指名手配されるでしょう】







「……は?」

 そう思って彼女の文字を読んだのだが、言葉を飲み込むことができずに間抜けな声を漏らしてしまう。

(私が、指名手配? 何もやってないのに?)

 昼間は人の目があるので私を襲うのは難しいかもしれない。だからこそ、誰もいない場所で殺すために指名手配して私の身柄を拘束しようとしているのだろうか。

【先週、二件の変死体が発見されたニュースは知っていますか?】

「それは……」

 確か路地で変死体が発見され、死体の状態が悪く身元特定に時間がかかった、というニュースだったと思う。それが連日続いたため、同一犯の犯行だと予想されていたはずだ。それが私とどんな関係があるのだろうか。

【あなたはその二つの事件の容疑者に指定されています】

「……え? 私が、容疑者?」

 おかしい。そんなはずはない。だって、先週はほとんど家で過ごした。あやちゃんと遊ぶ約束を蹴って部屋の掃除やバイト探ししたのを覚えている。だから、私がそんな事件に関わっているわけがない。







【では、質問を変えましょう。4月7日の未明、何をしていましたか?】







 そんな思考を遮るように幻影(ファントム)さんの文字が目に入る。4月7日? それはあやちゃんと一緒にファミレスに行った日である。確か、あやちゃんと別れてバスに乗り、家に向かって――。

「あ、れ……」

 家に、向かってどうした? バスの中で寝落ちした後、私はどうやって家に帰った? あの日、私は何をしていた?

【実は二つの事件の前の日の未明に一人の女性が襲われる事件が起きています。その女性は泥酔した状態で路地で倒れていました】

 思い出せず、少しずつ血の気が引いていく私を見ながら幻影(ファントム)さんは続きを話す。

【外傷は二つ。肩口に鋭い何かで突き刺された小さな傷。まるで、鋭利な牙で噛まれたような傷(・・・・・・・・)でした】

 彼女の文字が流れていく。それを呆然としたまま、眺め、嫌でも頭に入ってくる。そんなはずないと否定したいのに否定するための手札(きおく)がない。

【私は偶然にもその女性を発見し、襲った犯人を捜しました。そして、その犯人こそ】

 そこで幻影(ファントム)さんを区切り、数秒ほど沈黙する。だが、その真実を突きつけるために短い文字を浮かばせた。













吸血鬼(・・・)である影野さん、あなたです】

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