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ブラッディ・トリガー  作者: ホッシー@VTuber
第一章 ~紅の幻影~
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第40話

(人間、じゃない……私が?)

 上手く呼吸ができず、酸素が足りない頭で必死に考える。

 本当に私は化け物なのか? この先、どうするべきなのか? 本当に、生きていていいのか?

 しかし、いくら考えてもその答えは出ない。出せるほど私の肝は据わっていなかった。

「……シノビちゃん、話の続きを」

 だから、もう少し情報が欲しかった。いや、もしかしたら時間が欲しいだけなのかもしれない。聞くだけならば余計なことを考えなくてすむから。

「……いいんですか?」

「うん、お願い」

「では、遠慮なく」

 きっと、シノビちゃんも私が思考を放棄したことに気づいている。それでも話を続けようと思ったのは彼女が言ったように私の生死などどうでもいいからだろう。彼女にとって私は死んだ方がいい存在なのだから。

「では、あのサングラスの男――『ティーチャー』とドッペルについてお話ししましょう」

「ティーチャーって先生のこと?」

「はい、あの男の能力は先ほども言ったように『人間の才能を見抜く』というもの。それを利用して能力の内容を鑑定したり、その人に合った戦い方を教えています。だから、先生(ティーチャー)と呼ばれているのでござる」

 才能を見抜く能力。そして、それを利用した人材の育成。それがあの男性――ティーチャーの本来の仕事なのだろう。

「そして、ドッペル。正式名称は『ドッペルゲンガー』でござる」

「ドッペルゲンガー……確か、自分と瓜二つの怪物で、出会ったら殺されて入れ替わっちゃうっていう?」

「はい、世間的にはそのような形で伝えられています」

 シノビちゃんの含みのある言い方に首を傾げる。世間的には、ということは実際には違うのだろうか。駄目だ、話を聞けば聞くほど謎が深まっていく。

「ああ、申しわけござらぬ。普通の『ドッペルゲンガー』はあなたが言ったような性質を持っているでござる。そのため、さほど驚異的な存在ではござらん。目の前の人を真似るだけですから。ですが、あなたと対峙したあのドッペルはちょっと特殊みたいで」

 私の表情から思考を読み取ったのだろうか、シノビちゃんはすぐに訂正する。そして、すぐにあの特別な『ドッペルゲンガー』について話し始めた。

「あの子は捕食した相手の形状や能力をコピーする力を持っているでござる。なので、両手を剣にしたり、凄まじい身体能力を持っています」

「それ、は……」

 それがもし本当ならとても厄介である。戦う相手に合わせて体を変形させ、自由自在にそれを操るのだ。組み合わせによっては一方的な戦いになるだろう。最初、私を襲った時は手を抜いていたのだ。

「……」

 そして、どんなに手を尽くしても私に勝ち目はないこともはっきりとわかった。わかってしまった。

「シノビちゃん」

「はい」

「……助けて、くれないんだよね?」

 そう聞いた声は情けないほど震えていた。さっきまでは突然のことで何が何だかわからないまま、何とかやり過ごしたが今は違う。私を殺す明確な理由と殺意があることを知り、それに抗う術を私は持ち合わせていない。だから、目の前にいる女の子に頼るしかなかった。

「……いえ、一応、助けるつもりでござる」

「……へ?」

 しかし、彼女の答えは予想外のものだった。助かるかもしれない。それだけで私は少しだけホッとしてしまった。

「ですが、厳しいと言わざるを得ません。ティーチャーたちが言っていたように拙者はあくまで分身体。一撃でも受けたら消えてしまいます」

「あ……」

 そうだ、ティーチャーもそんなことを言っていたような気がする。でも、私からしてみれば目の前に立つ彼女は本物にしか見えない。

「えっと、シノビちゃんってティーチャーと同じ能力者、なんだよね?」

「はい、拙者は『忍者っぽいことができる』能力です」

「忍者っぽい? 具体的には?」

「忍者っぽいことなら何でもできます。分身の術や手裏剣術、火遁や水遁など多種多様でござる」

 それは、とても強力な能力なのではないだろうか。彼女の能力は自己解釈で成り立つもの。つまり、忍者っぽいと解釈できれば文字通り、何でもできてしまう。

「話を戻すでござるがあなたを守りながらドッペルの猛攻を防ぎ、この状況をどうにかするにはさすがに手が足りないでござる。なので、少しぐらいなら耐えられるでしょうが一撃も受けずに完全に助けることは難しいですね」

「そう、なんだ……」

 シノビちゃんの言葉に私は肩を落とす。彼女が時間を稼いでいる間に走って逃げる? いや、ドッペルの身体能力ならすぐに追いつかれてしまう。一緒に戦っても足手まといになるが目に見えている。

「……そもそもの話でござるが」

「え?」

「生きたいんですか?」

「ッ……」

 その彼女の問いに思わず、息を呑んでしまう。思考を放棄していたが自然と生き残る方法を探していた。それは私はまだ生きていたいと思っていることに他ならない。

「あえて繰り返し言いますが……あなたは化け物です。もし、仮にティーチャーたちを退いたとしても拙者たちの仲間たちがあなたを殺すために襲い掛かるでしょう。それでも、生き残りたいんですか?」

 『この先に地獄しか待っていないのに』とシノビちゃんは言葉を濁しながらもはっきりとそう言った。

 確かに、そうなのかもしれない。どうせ、あとで殺されるのなら今のうちに死んでおいた方がいい。だって、生きていても苦しいだけなのだから。

 それでも私が生きたいと願っているのはどうしてなのだろう。

 死に対する恐怖?

 鶴来君やあやちゃんたちともっと一緒に過ごしたいから?

 いや、それもあるが一番の理由は――。









「――私は死んでもいいと思っていないから」







 私が化け物だと自覚した。

 殺される理由はわかった。

 助かる見込みがないことも理解した。

 でも、『死んだ方がいい』と『死んでもいい』は違う。なら、私は『死んでもいい』と思えるその日まで抗いたい。

(だって、あの人ならきっとそうするから)

 思い出すのは深い森の中で颯爽と駆ける黒い人影(憧れの人)。もう、流されるだけの人生は嫌だ。たとえ、結果的には殺されることになろうとも、最期くらいあの人のように気高く生きたかった。

 だから、情けなくてもいい。無様でも構わない。みっともなく命乞いだってする。

 だって、私はまだ生きていたい(・・・・・・)から。

「……その覚悟、あっぱれでござる」

 私の目を数秒ほどジッと見ていた彼女は一つだけ頷く。そして、その目が鋭くなった。

「一つだけ、方法があります」

「ッ!? そ、それって……」

「賭けに近いですが……いいですか? とにかく時間を稼いでください。そうすれば――ッ」

 シノビちゃんが続きを話そうとした時、彼女の腹部から細いワイヤーが飛び出した。咄嗟に彼女がワイヤーを掴んで止めてくれていなければ私にも刺さっていただろう。

「――これでおしまい」

「ぁ……」

 するり、とシノビちゃんの腹部からそれが引き抜かれると同時に彼女は小さな煙となって消えてしまう。そして、シノビちゃんの分身が消えた後、その後方に右手の人差し指をこちらに向けたドッペルの姿が見えた。

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