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ブラッディ・トリガー  作者: ホッシー@VTuber
第一章 ~紅の幻影~
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第24話

「……はぁ」

 昨日と同じように鶴来君と登校し、教室に到着した私は机に鞄を置いてすぐに小さくため息を吐く。なお、一緒に登校した鶴来君はすでに鞄を枕に夢の世界へと旅立っていた。そんな彼の姿が少しだけ微笑ましくて苦笑を浮かべる。

「おっはよー!」

「ひゃわっ」

 ポン、と肩を叩かれて悲鳴を上げてしまう。慌てて後ろを振り返るとあやちゃんがニコニコと笑いながら『よっ』と手を挙げていた。もちろん、私の悲鳴はそれなりに大きかったので他のクラスメイトたちも何事かとこちらを見ている。やだ、恥ずかしい。椅子に座って少しだけ熱を持つ顔を隠すために鞄に押し付けた。

「おはよ……もう、ビックリしたよ……」

「あはは、ごめんごめん。なんかため息吐いてたから元気づけようと思って」

 幸い、熱はすぐに引き、顔を上げてあやちゃんに挨拶すると彼女は笑いながら謝ってくる。どうやら、少し前から見られていたらしい。確かに気分は紛れた、ような気がする。

(まぁ、根本的な解決にはなってないんだけど……)

「はぁ……」

「あ、またため息。幸せ、逃げちゃうよ?」

「ッ……」

 そう言ってあやちゃんはポンポンと私の頭を撫でた。おじさんたちにもあまり撫でられたことがないので少しだけビクッとしてしまう。もしかして、初めてだったり? いや、確か――。










 ――ひめちゃん。










「……」

 ひどく、ひどく懐かしい何かが私の心を通り過ぎる。それを掴もうとしてもすでにその感覚は消えており、どうしようもない焦燥感だけが置き去りになっていた。

「……ひーちゃん?」

「ぇ? あ、なに?」

 その感覚に戸惑っているとあやちゃんが顔を覗き込んできたので慌てて体を起こす。すぐに思い出せなかったのならいくら考えても意味はないだろう。そう判断してあやちゃんに集中することにした。

「だから、なんでため息吐いてるのって」

「あー、いや……そのー、ぶへっ」

 まさかそこを深掘りされるとは思わず、顔を背ける。しかし、その前にあやちゃんが私の頬を両手で挟んで止めた。むにむにと私の頬を揉みながらジッと見てくるその目には『早く言え』と書かれている。話すので離してくださいと彼女の手を軽く叩き、やっと解放された。

「あ、あやちゃんとは……仲良く、なれたと思いまして」

「お、嬉しいこと言ってくれるじゃーん。それで?」

「じゃあ、次のステップに行きたいなー……でも、あやちゃんみたいにすぐに仲良くなれるかなーと……不安になってしまいまして」

「……はぁ、なんでこの子はこんなに可愛いのに自分に自信がないんだろ」

 あやちゃんは私の頭をぐりぐりと撫でながらため息交じりに呟く。私としてはあやちゃんの方が面倒見が良くて可愛いと思うので反論したかったが、頭を撫でられると頬が自然と緩んでしまい、結局、何も言えずに終わった。

「まぁ、確かにひーちゃんの場合、クラスメイト全員が『初めまして』だもんねー。一歩踏み出すのは気後れしちゃうか」

 『グループもできちゃってるしねー』と腕を組んで一緒に悩んでくれるあやちゃん。本当に優しい子だ。最初の友達があやちゃんでよかった。これからもたくさんお世話になると思いますが、末永くよろしくお願いします、切実に。

「よし! なら、ひーちゃんお披露目タイムだ!」

「……へ?」

 何か思いついたようで嬉しそうに笑うあやちゃんに対し、私は少しだけ不安になってしまう。本当に大丈夫だろうか。











「――と、いうことでエントリーナンバーワン。杏子です」

「やっほー、『速見 杏子』でーす」

 朝のホームルームまで時間があるので早速、お披露目タイムが始まった。紹介されたのは私よりも黒に近い茶髪の女の子――速見さんである。確か、入学式の日、体育館へ向かう時にあやちゃんと一緒に並んでいた子だ。特徴的なのは眠たそうな目、だろうか。こちらをジッと見つめる彼女の瞳はなんというか引き込まれそうな何かがあった。

「影野さんだよね。あやから色々聞いてるよー。めっちゃ可愛い子だって」

「え!? いや、そんなこと……」

「いやいや、ひーちゃんレベルの子、なかなかいないって」

 すでに速見さんが私のことを聞いているとは思わず、驚いてしまう。だが、話した張本人であるあやちゃんが否定する。そんな彼女の言葉にうんうんと頷く速見さん。

「いやぁ、遠くから見てたけど影野さんは普通に可愛い子だと思うよ。少なくとも私が知ってる中でトップクラス」

「く、くすぐったいです……」

 『肌とかめっちゃキレイだよ』と何故か私の頬を摩りながら言い切った。肌が綺麗なのは高級化粧品を使っているからだし、私としては子供っぽい顔は好きではないのであまり実感はない。

「おお、なんとも可愛らしい反応。あやが夢中になるのもわかるわー」

「アタシが見つけたんだからね。取らないでよ」

「えー、シェアしようよー」

「駄目ですー」

 納得できずにどう答えるか悩んでいるとあやちゃんと速見さんが楽しそうに冗談を言い合い始めた。なんとなくわかっていたが、2人は相当仲がいいらしい。そんな関係が少しだけ羨ましいと思ってしまうのは私がまだあやちゃんと仲良くなりきっていないせいだろう。

「あ、そうだ。ずっと気になってたんだけど……影野さん、大丈夫?」

「え? 何がですか?」

「あー、えっと……ほら」

 速見さんは言い辛そうにしつつ、視線を後方へ移す。そこには未だに眠っている鶴来君の姿があった。

「言いにくいんだけど……やっぱ、見てるこっちとしては心配しちゃうんだよね。私だけじゃなくて他の人もそうなんだよ」

「……そう、なんですね」

 昨日、ファミレスであやちゃんにも同じようなことを言われた。やはり、鶴来君の印象は相当悪いものなのだろう。そして、怖がられている本人が気にしていない。このまま放っておけば彼は今まで以上に孤立してしまうはずだ。

「鶴来君は優しい人ですよ。何度も助けられました」

 きっと、鶴来君を孤立させたくないのは私の我儘なのだろう。彼にとってありがた迷惑もいいところだ。

 しかし、友達を作るというわけではないが、彼に対する負の印象を少しでも変えたい。そう願わずにはいられなかった。

「……まぁ、そうだよねー。ごめんね、いきなり変なこと言っちゃって」

「全然! 心配してくれてありがとうございます」

「あ、敬語も必要ないよ。これから同じクラスで過ごすんだし。友達になりたいしねー」

「ッ……うん!」

 速見さんが差し出した手を握りながら頷く。これは友達になれたということでいいのかな? そうだと嬉しいな。

「じゃあ、この調子でどんどんいこー!」

「おー」

「お、おー!」

 私たちが握手しているのを嬉しそうに見ていたあやちゃんに続いて声を上げる。本当に、あやちゃんには感謝してもしきれない。今度、なにかちゃんとしたお礼がしたいな。

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