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ブラッディ・トリガー  作者: ホッシー@VTuber
第一章 ~紅の幻影~
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第20話

 私の化け物染みた身体能力はその後の体力測定でも望んでもいないのに発揮された。C組、D組の中で私の記録を破った子はおらず、下手をすれば男子の記録すら超えてしまっている可能性が高い。

 もちろん、毎回、手加減をしようとした。だが、どうしても向上した身体能力をコントロールできず、予想以上の結果を生んでしまう。その結果、一人だけ次元の違う記録が残ったのである。これはさすがにまずい。悪目立ちするつもりはなかったのにこんな落とし穴があるとは思わなかった。

「いやぁ……これはすごいね。なにかスポーツしてたの?」

「ううん、何も……」

「そっかー。オリンピック、行けそうじゃね?」

「行く、つもりはないかな」

「それは勿体ないなー。そっかー」

 さすがのあやちゃんもちょっと引いていた。記録を叩き出した自分ですらドン引きしているのだ、当たり前の話である。

 だが、それは最初だけであり、体育の授業が終わった頃にはいつものテンションで『すごい!』と自分のことのように喜んでいた。本当に、私はいい友達を持ったと思う。

 他のクラスメイトの反応は――うん、気にしないでおこう。気にしたら午後の授業を受けられなくなってしまうから。

「さーて、授業も終わったし、お昼いこ! 学食、楽しみだなぁ」

「そうだね……あ、その前に水飲んできていい?」

「アタシも飲もっと。たくさん動いた後だから喉からからだわー」

 落ち込んでいる私に元気よく話しかけてきてくれるあやちゃんに感謝しながらそう言って体育館の外に備え付けられている水道を指さす。彼女も喉が渇いていたようで一緒についてくることになり、私たちは並んで水を飲んだ。

「……ぷはー。水道の水も案外、悪くないよねー」

「……」

「……あれ、ひーちゃん?」

「……」

「……飲みすぎじゃね?」

 その声で我に返り、私は水から口を離す。あれ、なんで私、こんなに水を飲んで――。

「まぁ、あれだけ大活躍したら喉も砂漠になっちゃうよねー」

「え、あ、うん……すごい、喉、乾いちゃって」

「だよねー。さ、急いで着替えてお昼食べよ! あ、食堂行ってみない? ちょっと気になってんだよねー」

「……うん」

 カラカラと笑いながら前を歩くあやちゃん。その後ろをついていくように歩く私。

 これからあやちゃんと食堂でお昼ご飯を食べて、午後の授業を受けて、あやちゃんと遊びに出かけて、家に帰って、寝て、また明日になって、それから――。

 そんなことを考えながらひたすら歩みを進めた。何かを誤魔化すように思考に集中する。向上した身体能力もそうだが、それ以上に私は今の自分を認めたくなかった。だって――。

「ひーちゃん、どうしたの?」

「……何でもないよ」

 いつまで経っても隣に来ない私にあやちゃんがキョトンとした様子で声をかけてくる。それに対して私は曖昧に笑いながら首を横に振った。

 でも、ああ。駄目だ。どうしても、誤魔化せない。これは、気のせいではない。私の勘違いではない。あれだけ水を飲んだのに――。









 ――喉が、乾いた。















「んー、終わったぁ」

 異常に向上した身体能力。

 異様に乾く喉。

 色々と気になることはあるが、時間は平等に進む。あやちゃんと食堂でお昼ご飯(私はお弁当を作ってきていたのでそれを持参して)を食べ、午後の授業も終わった。前の席で固まった背中を伸ばすあやちゃんのサイドポニーが揺れる。

「ひーちゃん、お疲れー」

「あ、うん……お疲れさま」

「……大丈夫?」

「え? も、もちろん! 大丈夫だよ?」

 しまった、不安が顔に出ていたらしい。心配そうに見つめる彼女に慌てて答え、気を紛らわせるように机の中の物を鞄へ放り込む。

 この後は待ちに待ったあやちゃんとのお出かけ。何があったとしても絶対に行きたい。もし、私の体調を心配して延期にでもされたら今日の夜、枕をびちゃびちゃにする自信がある。

「そう? それならいいんだけど……ま、それ(・・)も吹き飛ぶぐらい楽しんじゃおっか!」

 今日一日、彼女と一緒にいてわかったが、あやちゃんは人の気持ちを察するのが上手い。きっと、私の隠した不安にも気づいているだろう。しかし、あえてそれには触れずに眩しい笑顔を浮かべて立ち上がった。

「……うん!」

 私も彼女に倣うように席を立つ。そして、あやちゃんと一緒に教室を出た。

 さぁ、青春が始まる!








「ぉ、おぉ……」

 友達と放課後に遊びに出かける。

 それはまさに青春の1ページであり、出かける相手や人数、季節によって行き先が変わる。

 正直、私は友達と遊んだことがないし、北町の地理には詳しくない。そのため、自然と行き先はあやちゃん任せになってしまうのは自然な流れだった。

 そして、私は今――ファミレスの前に立っていた。

「ひーちゃん、どうしたの?」

「う、ううん……何でもない」

 そう口では言っているが、実は人生初ファミレスである。おじさんたちは仕事で家に帰ってくるのが遅く、自分でご飯を用意していたし、友達もいなかったので行く機会がなかったのだ。

(でも、ファミレスは青春漫画によく出てくるし、ドリンクバーの使い方だって知ってる!)

 漫画ではファミレス未経験の登場人物がドリンクバーの使い方がわからず、混乱するというシーンが何度か出てきていた。読者としてそのシーンを見るなら微笑ましいのだが、現実でそれをやってしまったら周りにドン引きされてしまうだろう。

 だからこそ、勉強した。ネットで『ファミレス ドリンクバー 使い方』で検索してドリンクバーの仕組みやマナーを学び、いつでもファミレスを利用できる準備をしていた。

 まさか実際に役に立つとは思わなかったが、結果オーライ。ファミレスのことを調べ、友達と利用する妄想しながら寝たあの日の自分を褒めてあげたい。

「……よし!」

 入口であやちゃんが私を待っていた。緊張していないと言えば嘘になるがそれ以上にわくわくしている。

 気合いを入れ直した私はファミレスの入口へと歩みを進めた。

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