6話
「その通り、ここまでくればお判りだと思いますが、翼蜥蜴の件と竜珠が一時的に行方不明になっていた件。それぞれに直接的な関係性はありません。
……ですが、決して無関係でもない。竜珠の手入れをされている最中だったからこそ、翼蜥蜴は中庭へと現れたのです。」
「どういうことだ?」
人差し指を立てる少年は、まるで市井に広まっている小説の主人公のようだ。或いは出来の悪い生徒に一から懇切丁寧に説明する教師か。
「元々翼蜥蜴も下位ではありますが竜種の一種です。そして竜は上下の関係を重んじる。
それ故にここに召喚された翼蜥蜴は真っ先に自らの上位存在、その魔力の在処を求めていたのです。だからこそ、硝子を突き破って中庭に現れた。」
立てた人差し指をくるりと回り、くすくすと笑いをこぼした。
「きっと召喚主は驚いたでしょうね。本来ならば目の前の壁を突き破って宝物室の扉を開けるはずだった翼蜥蜴。それが目的のものを得ることも出来ぬまま、何処かへと飛んでいってしまったのですから。」
「なっ…!」
「つまり、それは……」
再び気色ばむ夫妻に、けれども今度は制止の仕草を見せることはない。少年は一つ頷いて、託宣をするかのように言葉を紡いだ。
「無論、証拠はこちらにありますよ。使われた召喚用の書状……魔力照合をすれば、おそらく物証となるでしょう。」
取り出したのはいくつかの紙片。破られ原型すら残っていないそれは、けれども確かに呪文らしき単語が刻まれている。
召喚魔法は高位の魔法だ。通常ならば学院での学びを履修し終えた頃にしか使えないほどの。
けれども魔法具があれば話は別だ。あらかじめ所定の条件をつけることで発動するように設定した魔法具を用意すれば、一度限りではあるが呪文の理論を理解せずとも魔法を扱うことは可能になる。
だからここで重要となるのは、ハウダニットではない。召喚用の書状がある以上、あとは魔力さえあれば誰しもが召喚を行えるからだ。
そして証拠はすでにある。一人ずつが異なる魔力の質。書状に残る残滓と彼のものが一致さえすれば、それは逃れようがなくなる。
本来ならば目的のものを奪ってそのまま逃走を図る予定だったのだろう。けれども竜珠はその時すでに宝物室にはなく、翼蜥蜴を操るすべがあったわけでもない男。そのまま暴走した翼蜥蜴が逃げるのを止められなかった。それが今回の真相だ。
「できれば朝が来る前に、宝物室の警護を担当していた衛士を捕らえることをお勧めしますよ。できればその前に、身辺の洗い出しもした方がいいかもしれません。」
けれども決して魔法具は安いものではない。特に竜種の召喚術の書状など。手に入れたルートと金銭の当て次第では、更なる事件へと発展するやもしれない。
とはいえ、その裏側を探るのはまた別のお話。少年は言葉をそこで止めて深々とお辞儀をする。
此度の幕は降りた、再びの幕はいずれかに上がろうと告げるように。