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1話

 その光(リュミエル)と出会ったのは、雪の降る中庭。

 さほど親しくもない伯爵家の子息の誕生祝いもかねて、聖夜祭として盛大な舞踏会を開くから挨拶に行きましょうと母親に連れられていったのが契機(きっかけ)だった。


「あ、君たしかゲンストルスメンズ伯爵様のパーティーに来てる人だよな。こんなところにいていいのか?」

 軽快な声に振り返れば、金の髪を一括りにしている同じ年頃の少年が立っていた。


「構わん。どうせ母上が縁故をあわよくばと思って連れてきた場所だ。自分はあそこのご子息様とやらが今年一年幸いに過ごそうが不幸になろうが知ったことではないしな。」

「おいおい、俺のご主人様に対してその物言いはやめてくれよ。」

 苛立ち混じりに吐き捨てれば翠の瞳が細まって、穏やかに苦笑を返される。

 その言葉でとんと思い出した。そういえば同じ金の輝きを会場内で見ていたか。


 今日の主催である公とその長子は随分と人使いが荒いようで、あれやこれやと使用人を呼び立てては檄を飛ばしていた。その中でも作り笑いをしておべっかを口から吐き出していた招待客の面々に嫌気がさして、中座していたわけだが。

 だがその中でも目の前の少年はくるくるりと、あらかじめ告げられる言葉すら予期したように会場中を駆け回っていた。


 それを優秀だな、とも哀れだな、とも思っていたので。


「なんだ、お前はあの厄介主人に仕えていたのか。主人は選んだ方がいいんじゃないか。」

 後から考えれば嫌味にも等しい言葉を投げかける。

 自分とて母親に反抗しきれずに、同じ年頃だからとこんなよく知らない子息の家くんだりまで来ているのだ。家同士の主従関係に子どもが口を挟めるわけがないのは道理だった。


 けれどもその嫌味をさして気にした様子もなく、あっけらかんと少年は笑う。

「いやぁ、多分向こうからしても俺は厄介な従者だろうから。ある意味似たり寄ったりでいいんじゃないか?」

「お前が?」


 片眉を上げる。

 足りなくなりそうな飲み物があれば予期していたように用意をして。足を挫きかけた令嬢には替えのヒールを差し出して。かと思えば楽団にはサプライズで伯爵夫人が好んでいる曲を奏でるように指示をしていた。無論、ワガママお坊ちゃんの命令を聞いたうえで。

 重ねていうが自分とさして変わらない、およそ成長期も来ていない少年が、だ。



 ……いや、何故そこまでみているんだ、自分は。

 幾ばくかの違和感を抱く。気色が悪いとすら、自分に対して思う。


 けれどもこちらの異物感などてんで感じていないように、目の前の従者だと名乗った少年は(わら)った。

「うん、だってそうだろう?何せ俺は此度(こたび)の宴を催している伯爵家の従者だ、なのにその仕事をすっぽかして、こんな場所にいるわけで。」

 その言葉ではたと気が付く。

 言われてみれば、だ。ここは伯爵家の敷地内とはいえ喧騒とは離れた中庭。

 厨房に向かうにしても凡そ反対方向だ。


「……言われてみればそうだな。ならなぜ、お前はこんな場所にいる?」

「うん、多分そろそろだと思って。」

 答えにならない答えを返されて、ただでさえ悪くなっていた機嫌が低空を滑る。詳しい説明を求めようと口を開いた時。


 硝子(ガラス)のけたたましく割れる音が聞こえる。


 次いで耳に入ったのは複数人の駆け足と「いたか!」「いや、向こうだ!」という声。がなりたてるようなその響きは、けれども雪の中に音が吸い込まれているのか。或いは屋内の声なのだろう。遠くで反響するように耳にする。

 けれども聴覚より鋭敏(えいびん)に役割を果たしたのは視覚だ。西から東、中庭にいる二人の頭上を、翼をひらめかせた蜥蜴(トカゲ)。ワイバーンと俗に呼ばれる魔獣が飛んでいく。


「駄目だよ。」

 傍らにいた少年が天へと向かって指を向ける。

「飛んじゃ。」

 そのまま伸ばしていた人差し指を明後日の方向へと向けると、ワイバーンは追従するように軌道を変える。


 再びがしゃん!と硝子の割れる音が聞こえた。翼蜥蜴(ワイバーン)が飛んできたのとは別の硝子(ガラス)を突き破り、建物の中へと飛び込んだらしい。

「な……。いや、お前今何を……。」

 呆然と口を開けていたが、少年は然程気にした様子もない。

「う~ん、ちょっとこれは面倒になるかも知れないな。……ってことで戻ろうか、お客さん。あんまり長いことここにいたら、厄介なことになりそうだ。」

 あっけらかんとそういって、遠慮なくこちらの腕を掴んできた。

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