幽霊少女をわからせたい! ~予約で新品を買った後に市場価値が大幅下落したクソゲーを無償で貸してやったのに、つまらないからと首を絞めてきた幽霊を波状攻撃で無双する! ボーイミーツガール!~
クソゲーだと分かっていたら、買いたくないですよね。
夏休み中に、男子学生のあなたはゲームショップのレジの行列に並んでいた。予約していた本日発売のゲームソフトを受け取るためだ。
そのゲームは発売前から期待の大作として認知されており、行列はすごく長い。あなたもここに並んでから、もうずっと待っている。
とうとう前に三人というところまで来たが、列が進まなくなった。先頭の男性に問題が生じたらしい。どうやら抗議をしているようだ。
時間がかかりそうだと思ったあなたは、ふと後ろのほうを見た。
右後ろで立ち止まっている、黒髪を一本の三つ編みにした少女が目に映る。小学校高学年ぐらいだろうか。
白い半袖の洋服を着た、おとなしそうな少女は下を向いていて、茶色のスカートをいじくっていた。太ももだけでなく、白い下着すらも見えていたので、あなたはすぐさま目を逸らす。
その後、ようやく無事に目当てのゲームを買えた。早くゲームをプレイしたいと思い、すぐ家に帰った。
このプレイへの熱望は、絶望へと変化する。
「なんだよ、このゲーム……」
あなたが帰宅してプレイしたこのゲームは、いわゆるクソゲーだった。
それは、あまりにも酷かった。操作性も、難易度の理不尽さも、楽しさも、ストーリーも、グラフィックも、何もかもが。
「発売前の宣伝とか明らかに詐欺だっただろ! ゲーム画面なんか全然違うじゃねーか! 良かったのは前評判とパッケージだけかよッ!」
あなたはテレビに向かって叫んだ。
このゲームは発売日を境に低評価が拡散し、ソフトの価値が大幅に下落する。
新品価格は半額を下回り、中古買取価格は数百円単位にまで落ち込んだ。
クソゲーとしては大変楽しめると評する層以外は、開発メーカーを恨み、買ってしまったことを後悔したに違いない。
期待していたゲームに裏切られた心の傷がようやく薄れ始めた頃、それは起きた。
「……ん?」
自室の布団の上で寝ていたあなたは、深夜に目が覚めた。
何か気配を感じる。
周囲をなんとなく見回していたら、常夜灯だった明かりが急に全灯に変わった。
完全に覚醒したあなたは上半身をすぐに起こす。
「……えっ?」
あなたの視線の先には、見覚えのある人物がいた。白い半袖と茶色のスカートを着た、三つ編みの少女。ゲームショップで見た、あの少女だ。
どうしてこの少女が、自分の部屋の中にいるのだろうか? どうやって侵入したのだろうか? あなたにはまるで分からない。
しかも、あなたの上ではこの少女が座っているのにもかかわらず、重さが全く感じられなかった。
少女の姿は、全体的に、ぼやけている。
もしかして幽霊なんじゃないだろうか? そう思うと、あなたは怖くなった。
「ゲームがやりたいの」
静かな部屋の中で、少女の声が響いた。
あなたは震え上がる。なんのゲームかと聞こうとしても、声が上手く出せなかった。
「テレビゲーム、やりたい」
ここであなたは思い出した。この少女を見かけた日に買ったクソゲーを。
あのゲームは、ゲーム機の近くの棚に置いていたはず。あなたは布団から出て、目当てのゲームソフトを探した。見つけ次第、少女のほうに戻る。
「……これで、いいか?」
どうにかあなたが声をしぼり出すと、座ったままの少女はスカートの両端を持ち上げた。そこに載せろということだと、あなたは判断する。
少女の前であなたは腰を下ろし、スカートの上にソフトを置いた。
少女はスカートをそのままで立ち上がる。そのため、あなたは少女の完全な太ももと、白い下着を見てしまった。
真っ白ではなく、少し汚れた、生活感のある白。下半身を広い面積でしっかりと覆った、面白みのないパンツだと分かった辺りで、明かりが常夜灯に戻る。
周囲が暗くなったと同時に、少女の姿も消えたようだ。
あなたはしばらく少女のいたほうを向いていたが、やがて眠くなり、布団の上で横になった。
翌朝、あなたは目が覚めてから、あのクソゲーがなくなっていることを確認した。少女とのやり取りは夢ではなく、実際に起こっていたことらしい。
この日、あなたは考えた。あの少女……恐らくは幽霊は、あのゲームがどうしてもやりたかったのだろう、と。そうであれば、発売日当日にゲームショップで見かけたのも納得がいく。
あなたとしては、七千八百円が無駄になったのは悲劇だったけれど、あんなクソゲーをやることはもうないだろうし、売りに行っても二百円程度でしか売れないようなゲームに愛着はなかった。
それから数日後、寝ていたあなたの前に、再び少女が現れてしまう。
様子がおかしい。
「よくもあんなつまらないゲームをやらせたなぁ~ッ!」
「わああああああああっ!」
あなたは恐怖のあまり、叫んだ。
少女は変貌していた。顔は青ざめ、両目が白目含めて真っ黒になっている。まるで生きる屍のように思えた。
「よくもぉ~ッ!」
化け物少女があなたの首を絞め始める。少女には思えないほど、力が強い。今夜は体の上に乗られている感覚まであった。
このままではまずい。
そう思ったあなたは、少女の細い腕をつかんで首から引き放そうと努めた。
あなたの必死の抵抗。
どうにか力比べに勝った。すぐさま少女を突き飛ばす。
「きゃあっ!」
かわいい声を出した少女は、思っていた以上に向こう側へ突き飛ばせた。
倒れた少女はすぐ起き上がる。茶色のスカートを強く押さえて、こちらを非難するような顔で見ている。少女は元の顔に戻っていてかわいかったが――、あなたはものすごく怒りが湧いていた。
「ふっざけんなよぉ、ガキがぁッ! いきなり首絞めてきたのはそっちだってのに、なんで俺が悪いみたいな顔をしてんだよ! それにスカート押さえてんじゃねーッ! この前も自分からダッセェパンツ見せてたくせに今頃恥ずかしそうにしてんなよッ!」
あなたが思い切り怒鳴ると、また少女は怖い顔になった。
「私のパンツを馬鹿にするなんて許さないぃ~ッ!」
こちらへと突進する少女。また首を絞めようとしてきたが、あなたに同じ手は通用しない。あなたは枕を拾い、防御した。
この生意気な少女に対して、あなたは自分の正しさを分からせてやらなければならない。枕の片側を両手で持って、少女の頭に一撃を食らわせた。
「きゃッ!」
少女が怯んだ。効果は抜群だ。
「――許さないはこっちのセリフだ! お前だって俺のゲームソフトをつまらないなんてバカにしてたじゃねーか!」
あなたは頭を両手で押さえる少女に対し、左、右と、枕で波状攻撃をおこなう。
「あのゲームに文句があるんなら、俺じゃなくてメーカーか消費者相談センターにでも言えっての! 俺はあのクソゲーにいくら使ったと思ってんだ! 八千円近くもしたのに、今じゃもう買取価格がたったの二百円だぞ! お前はタダでゲームがやれただろうけど、俺は大損だよ! どーしてくれるんだ! 俺が損した分、お前が金くれんの? おいガキ! 答えろよっ!」
あなたは枕で十発以上は叩いたが、疲れてしまい、とうとう攻撃の手を止めた。
「はぁっ……はぁっ……、このガキ……ッ、タフだな……っ!」
頭を押さえていた少女を見ていると、彼女は手を下げて、あなたに視線を向けた。
普通の顔に戻っていた少女は、涙目だった。
「ごめんなさい」
少女がこちらを向いて、真摯に謝った。それを目の当たりにしたことで、あなたは正気を取り戻す。
その後、少女は姿を消した。彼女のいた布団の上には、あのクソゲーが置かれていた。
「……さすがにおとなげなかったよな。悪かったよ」
あなたは静かになった自室内でつぶやいた。
つまらないゲームをプレイさせたこと。それに、正当防衛だとしても、枕で何度も叩きまくって報復したこと。あの少女に対する罪悪感が芽生えてしまっていた。
だからこそ、あなたはクソゲーを持って立ち上がった。ゲームソフトが置いてある棚まで歩く。そこにクソゲーを戻して、昔プレイしていて楽しかった良作ゲームソフトを取り出した。今でもそこそこ人気があるし、市場価格も高いゲームだ。
「なぁ、少女。まだいたら、聞いてほしい。こっちのゲームのほうがおもしろいぞ」
目立たせるように床に置いてから、あなたは部屋の明かりを常夜灯に戻して布団の中に入った。
翌朝、少女に勧めたゲームソフトはなくなっていた。
思い出深いゲームだったけれども、あなたは惜しくはなかった。
それから再び数日後の深夜、少女が現れる。
「またか……」
うんざりとしながらも、あなたは布団の横で立つ少女を見た。
白と茶色の服装はいつもと同じで、童顔は変貌していない。
あなたは起き上がり、布団の上で座った。
「持ってったゲームはどうだった?」
「楽しかったです。ありがとうございます」
三つ編みの少女は丁寧に頭を下げていた。
「それは良かった。ゲームは返してくれるんだよな?」
あなたの前で少女は頷いた。そして、スカートを両手で持ち上げ始めた。
茶色いスカートのほうを見ながらゆっくりと、大胆に持ち上げた少女は、あなたへと視線を戻す。
「お股せしました」
「って、なんてことしてんだよッ! 汚ねーだろ!」
下着を丸見えにさせている少女は、なんとゲームソフトを太ももで挟んでいた。ちょうど、股のすぐ下だ。非常識過ぎる。
「幽霊だから汚くないよ。受け取ってね」
少女は幽霊だと明かした。今はもう怖くないどころか、何度も会っているので愛着すら感じる。
あなたはすごく困ったが、少女に言われた通り、挟まれしゲームソフトを取り戻そうとした。
この時にあなたは知ってしまった。
面白みのない、女児向けの白い下着だと思っていたそれは、常識を覆されるぐらいに、おかしなものだった。
衣類にかわいらしさを与える、小さな白いリボン。少女の白い半袖の胸元だけでなく、実は下着にもついていた。
リボンは半袖と違って上のほうではなく、ゲームソフトの近く、つまりは股のほうについている。
不覚にもあなたは、気持ちが高まってしまった。下着の際どいリボンの位置が気になりながらも、ゲームソフトを右手でつかんで、引っこ抜いた。
割とすんなりと取れたゲームソフトに視線を向ける。その間に、少女は姿を消したらしい。
あなたはゲームを元あった場所に戻し、布団の中に入った。
変なところについた装飾のリボンが気になりながらも、あなたは眠った。
翌朝になってからも、どうしてもあなたは少女のことを思い出してしまう。主に、白い下着のことを。
午後になってから、久し振りにあのクソゲーをプレイしたくなった。あなたはゲームを起動する。
「え?」
テレビには、少女の立ち絵が映った。
ドット絵で描写されているが、あの少女だとすぐ分かった。
画面の背景は黒一色で、少女の顔からスカートまでの正面姿が中央に表示されている。
一本の三つ編みは、首と体の後ろに隠れていて見えない。白い半袖に、茶色のスカート。両手は前で重ね合わせていて、表情は穏やか。
しばらく動かない画面を眺めていたら、急に真っ暗になった。
次に、白い下着と太ももが拡大された動画が始まる。映像は小刻みに揺れていて、鮮明ではないが、股の近くには白いリボンがついていた。
数秒、下着の動画が流れた後、またしても画面は一面黒になった。
左上から白い文字列が素早く流れ始める。
『私の下着を見て興奮していたよね。私の下着を見て興奮していたよね。私の下着を見て興奮していたよね。私の下着を見て興奮していたよね。私の下着を見て興奮していたよね。私の下着を見て興奮していたよね。私の下着を見て興奮していたよね。私の下着を見て興奮していたよね。それなのに私の下着を馬鹿にしていたよね許さない――』
不気味な表示に驚くあなたは、人の気配を背後に感じた。咄嗟に振り返る。
少女が立っていた。昼間に現れたのは初めてだ。
「お股せしました」
目が真っ黒で、青ざめた顔の、幽霊少女。口元が微笑んでいる。悪い前兆しかなかった。
「今日はゲームソフトじゃなくて、あなたの頭を挟んであげる。――絶対に放してあげない!」
「わあああああああッ!」
(GAME OVER)
最後はご褒美として受け入れますか? あるいは、抵抗・反撃しますか? ご自由にご想像下さい。
お読み頂き、ありがとうございました。他にも白い下着を見せる作品は色々ありますので、まだお読みでなければ、ぜひどうぞ。