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0‐AXIA  作者: 和和和和
恋詠カレンダー
21/30

恋詠カレンダー



 その頃、デクスと恋詠は黒い人型の異形が集合した楽陽タワーの外壁を破壊し、その内側へと侵入する。

 そこに広がっている吹き抜けとなった広大な空間の中では、無数の黒い人型の異形を、一人の青年が銀色の二丁拳銃で迎撃していた。


「あ、あなたは……」


「君はあの時の――」


 そこにいた青年――聖教会「ARK」に所属する退魔師「祓魔師(エクソシスト)」である青年「不知火火斑」と恋詠は視線を交錯させて目を瞠る。


「どうしてここに?」

「私達も、この空間を作り出している悪魔を追っていたからです。前に言いましたよね?」

 思いもよらぬ再会に驚いた様子を見せる火斑に、恋詠は端的に応じる。


「ああ……それで。あの空を飛ぶ悪魔の子は君たちの仲間ってわけだ」


「ティナちゃんの事?」

「さあ? 名前までは知らないよ。この空間を作り出している悪魔に撃ち落とされるところまでは見たけど

 どこか合点がいったように言う火斑は、黒い人型の異形をから銀銃の銃口を恋詠に向ける。


「――君達が神隠しの悪魔を追っているとしても、悪魔は悪魔でしかないよね? つまり僕がここで君たちを殺してもいいわけだ」


「同じ目的なら、同じ敵を倒した方がいいと思いますけど」

 決して冗談で言っているとは思えない気配を発する火斑に、恋詠は牽制するように提案する。

 そんな恋詠の言葉に続くように、肩に止まっていたアルフが口を開く。


「貴様一人では、ベルザードを殺せん。それはお前が一番よく分かっておるだろう? 現に貴様がここにいるということは、祓魔師(エクソシスト)どもがベルザードにいいように捕まっておることの証明であろう?」


「……ッ」

 アルフの言葉に核心を突かれ、火斑は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「仲間がいるの?」


「聖戦結界は聖骸を使えないARKのメンバーが展開するものだからな」

「聖戦結界って……あの時の」

 デクスの説明で、以前火斑と戦った際に展開されていた結界の事を思い返した恋詠が呟く。


「聖骸はもちろん、術を使える時点で常人より魂の質がよいからな。泥人形の館(マッドフォレスト)の素材には都合がよいのだ」


「へぇ」

 アルフの言葉に恋詠が納得していると、火斑は忌々しげに眉を顰める。


「そんなことより先を急ぐぞ」


「え、でも……」

 そのやり取りに業を煮やしたのか、端的に告げると共に大鎌の一閃で黒い人型の異形を消し飛ばして進路を切り開いたデクスが告げる。


「見捨てていけ。こいつは泥人形の館(マッドフォレスト)の素材として生かされるはずだ。なら、どのみち、ベルザードを倒せば助かる」


「あ、そっか」

 暗に火斑を見捨てていけと言っているような言葉にさすがに後ろめたさを覚えた恋詠だったが、デクスの説明で考えを改める。


「ここは任せるぞ、祓魔師(エクソシスト)。精々頑張って時間を稼いでくれ――その代わり、奴を倒した手柄はお前のものだ」


「勝手にしたら」


 肩越しに一瞥を向けたデクスの言葉に、先程の話がすべて聞こえていた火斑は、悪魔に都合よく利用される屈辱に苛立ちを露わにする。

 火斑が放つ銀銃の発砲音とそれに伴う破壊音を聞きながら、デクスと恋詠、アルフは階段を駆け上がって上層へと向かっていく。


「――来たか」


 デクスと恋詠が階段を上り終えると、そこには玉座のような椅子に腰を下ろしたベルザードが泰然とした体勢で待ち構えていた。


「油断するでないぞ、小娘」


「分かってる」

 アルフの言葉に自身の武器である剣を取り出した恋詠は、意識を研ぎ澄ませてベルザードを見る。


(今なら分かる。――この人、強い)


 悪魔となり、魔力を知覚することができるようになった今だからこそ分かるベルザードとの力の差に、恋詠は唇を引き結ぶ。


「見たこともない連れがいるが……お前が来るとは、随分と思いあがったものだ。リーゼやレヴェンの方がまだ勝算があっただろうに」

 そんな恋詠とアルフを一瞥したベルザードが挑発めいた口調で言う。


 かつてのデクシア・フェル・ヴァルザードならともかく、かつて太刀花一刀という元人間の悪魔――スレイヴだった今のデクスの力は、ベルザードに及ばない。

 それは、反天の能力を持つベルザードにも覆しようのない、純然たる事実だ。


「そんなの決まってるだろ? お前は、俺の手で倒さなきゃ意味がない。本当の意味で、俺がこの名を背負って魔王を目指すためにもな」


「フン、貴様が魔王だと? ――戯言にもほどがある。魔王になるのは、この俺だ!」

 デクスの決意を鼻で嗤ったベルザードは、その身から迸らせた魔力の奔流で自身の周囲の空間を歪める。


「あなたには無理よ」


「何?」


 圧倒的な魔力を放出するベルザードを前にして畏怖を覚えながらも、恋詠は不思議と心が静かに落ち着いているのを感じていた。

 相対しているベルザードの力が自分よりもはるかに強大であることを理解していながら、恐怖はあっても畏怖はない。

 何より、麻衣を連れ去り、道具として扱おうとしているベルザードへの怒りが恋詠の戦意を奮い立たせていた。


「だって、今あなたは一人だもの。すごく強くて、前に仕えてた強い人を騙して、裏切って、殺す作戦を成功させたのに、今のあなたは一人ぼっち!

 あなたを支持してくれる人なんて、一人もいない! 仮にあなたが0‐AXIAを全部手に入れても、あなたは王様にはなれない!

 自分以外の全ての人をこの世から消し去って、一人ぼっちになるだけよ!」


 だからこそ、眉を顰め、不快感と怒りを露わにして威圧してくるベルザードに、恋詠は臆することなく己の意思をぶつける。


 ベルザードは強い。七大貴族の血に連なり、悪魔としても最上位級の力を持っている。

 しかし、ベルザードには誰もついていない。

 謀略によって自身の主だったデクシア・フェル・ヴァルザードを殺めるという偉業を成し遂げたというのに、ベルザードに協力する他の悪魔は一人もいない。

 だからこそ、0‐AXIAを手に入れた後、人間の世界にやってきて泥人形の館(マッドフォレスト)という人間の禁術に頼って、勢力と力を増そうとした。


 だが恋詠の目には、それがベルザードの器の限界としか思えなかった。


 確かに、今のデクスはベルザードよりも弱い。しかし、当時デクシアに従っていた悪魔達の何人かが、今のデクスを主と認めて従っている。

 0‐AXIAは魔王の証。たった一人でどれほどの力を得ても、ベルザードは王にはなれない。精々がただの暴君になるだけだ。


「知ったことを……!」

 恋詠の言葉に忌々しげに歯噛みしたベルザードを睨みつけるデクスは、小さく口端を吊り上げる。


「恋詠。切り札を使う。時間を稼いでくれ」


「任せて!」

 小さく囁かれたデクスの言葉に剣の柄を強く握りしめた恋詠は、強く地を蹴って一直線にベルザードへと向かっていく。


「どうすればいいか、分かっているであるな? 小娘」


「もちろん!」

 肩に止まっているアルフの言葉に応じた恋詠は、自身の剣に魔力を注ぎ込む。


「はあああっ!」

 渾身の力で放たれた恋詠の斬撃が迫るが、ベルザードはそれを不敵な笑みで迎え撃つ。


「馬鹿が! ――反天障壁(リバースシールド)!」

 瞬間、ベルザードの正面に展開した魔力の障壁が恋詠の攻撃を阻み、そしてそのまま攻撃を反転させる。

 反天の能力を用いた攻撃の反射。受けた攻撃の威力をそのままにして打ち返すカウンターが炸裂し、自信が放ったはずの魔力の奔流が恋詠を呑み込む。


「――今だ!」

 自身の憂いを吹き飛ばすように、自身の能力への絶対の自信から声を上げたベルザードの眼前で、恋詠うとアルフの声が重なる。


「ムン!」

 双眸を輝かせたアルフから魔力が放たれる。

 その力は、デクスの屋敷を隠していたように時空間を歪め、一時的に恋詠の周囲の時間を引き延ばす。


「――トリガーロード!」


 アルフによって引き延ばされた時間の中、恋詠は剣の撃鉄を引いて自身の魔力を剣に注ぎ込む。

 恋詠の魔力を受け、刀身の根元に輝く宝珠に「2」そして「3」の数字が刻み込まれる。


日進月歩(デイズトリガー)! 三乗倍スリーデイズ!」


 瞬間、引き延ばされていた時間が元に戻り、解放された恋詠の三倍の魔力が込められた斬撃が炸裂する。

 その力は、ベルザードの反転障壁が反射した一回分の恋詠の魔力を必然的に凌駕し、それに倍する力を貫通させる。


「なっ!?」

 結界を打ち破った恋詠の魔力にベルザードは驚愕に目を剥く。


(そうか、こいつの力は……!)

 瞬間、三倍にまで高められた魔力を放出する恋詠の斬撃を受け、ベルザードは瞬時に全てを理解する。


(小娘の能力、日進月歩(デイズトリガー)は魔力を何倍にも重複させ、一度に凝縮する能力。ベルザードの奴が障壁で反転させられる攻撃は一回分しかない。

 だが、吾輩の力で時間を一時的に引き延ばせば、何倍にも高めた魔力で一度目の反射を上回る攻撃を放つことができる! ――そうなれば、奴の反射では小娘の攻撃を防げない!)


 ベルザードが生み出す反天の障壁は、受けた攻撃の威力をそのまま反射することができるが、その効果は最初に受けた一度目の攻撃にしか作用しない。

 通常はそれで十分なのだが、恋詠の能力である日進月歩(デイズトリガー)だけは、一度目に反射される攻撃を何倍にも高めた次の攻撃で凌駕することができる。


「だが、所詮こんなものは急場しのぎの浅知恵だ!」


「っ!」

 想定の通りに反転の障壁を破ったものの、その斬撃は反射的に青龍刀のような槍を顕現させたベルザードによって受け止められてしまう。


「この女と俺では地の魔力に差がある。この程度の攻撃で俺を倒せると思うな!」


 いかに反転の障壁を突破できるとはいえ、恋詠の魔力を三倍にしたくらいでは、ベルザードにとって脅威にはなりえない。

 事実、恋詠の三倍の魔力も、反射された自身の力で相殺されているとはいえ、ベルザードに痛痒を与えられていなかった。


「この程度の小細工、力で全て叩き潰してやる!」


 恋詠の魔力を自身の魔力でかき消したベルザードが声を上げる。

 ベルザードがその気になれば、反射の力を使うまでもなく強引な力押しで恋詠を倒すことは容易だ。

 それが分かっている恋詠は、わずかな迷いもなく声を発する。


「アルフ! もう一度お願い!」


「貴様、まさか……」


「早く!」

 その言葉の意図を察したアルフは、恋詠に急かされて決断を下す。


「やむを得ん!」

 ベルザードと恋詠の実力差を考え、それしかないと判断したアルフが解放した魔力が、周囲の時空間を歪ませて、再び一時的に時間を引き延ばす。


「トリガーロード!」

 それと同時に、恋詠が剣に魔力を注ぎ込み、宝珠に自身の魔力を累積させていく。


「トリガーロード! トリガーロード!」


 その回数が三回を超え、四回に入ったところで、アルフが声を上げる。


「馬鹿者! 貴様の能力は反動が大きい! 三回以上はやめろと言われておるだろうが!」


 恋詠の日進月歩(デイズトリガー)は強力な能力だが、反面自身の全力を何回分も累積して爆発させる分、身体にかかる負荷もそれに比例して大きくなる。

 故に、その乱用が危険であることなど考えるまでもない。


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! ――トリガーロード!」


 しかし、恋詠はそんなことなど意に介さないとばかりに、さらに魔力を重複させる。

 ベルザードの力は自身をはるかに凌いでいる。ならば、二倍、三倍程度の累積では、即座に返り討ちにあってしまうことは避けられない。


「く……っ、トリガーロード!」

 累積される魔力の消耗と負荷に歯を食いしばって耐えた恋詠がさらに撃鉄を引くと、宝珠に「7」の番号が浮かび上がる。

 瞬間、アルフによって引き延ばされていた時間が回帰をはじめるのを感じ取った恋詠は、その力を一気に解放する。


「はあああああっ!」

 裂帛の気合と共に、累積された七回分の魔力を纏う恋詠の剣がベルザードへと叩きつけられる。


「必殺! 日進月歩(デイズトリガー)――『七乗倍(ワンウィーク)』!」


「ぐ――お、オオオオオッ!?」


 限界を超えた恋詠の力が撃ち込まれ、炸裂した七倍の魔力がもたらす爆発がベルザードを爆炎の中に呑み込む。

 破壊の衝撃によって周囲の壁が軋み、床がひび割れる。その圧倒的な威力によって生じた爆発が、反転した世界の中心たる塔の頂上に明るい光を灯した。





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