ぐみくらべ
注…youtubeなネタがちょっと出てきます。
早朝。けれども明るい春の早朝。
犬の散歩をしていると、興味を惹くものを見かけた。
二人の子供が、向かい合って立っている。誰もいない公園の、一際大きな桜の木の下。桜舞う中で。何か、妙に真剣そうな面持ちで。
Tシャツに短パンで、ごってごてに子供という感じの子供。こちらから見て、桜の木を背景に左側にいる子は、さらさらな真っすぐな黒い髪をなびかせる、日本人形みたいな髪型なのに、顔はヨーロッパとかの天使の絵の天使とかのようなくりっとした目鼻立ちをした子供だった。一重だけれども、それなのに、こんなにぱっちりした目に見えるのが不思議だ。それに、髪の毛の生え際の近く。白く、光って見えた。天使の輪、というやつらしい。雑に言えば、とってもきれいなアジア系の黒い直毛のキューティクル効いた髪質の人の髪の毛に、映えるように映る光の反射のことをそう言うらしい。初めて見たよ。生まれてこのかた、ずっと日本生まれ日本育ちだけどさぁ。肌の色は、日本人離れして白い。それでいて、笑いを浮かべた口元が見える真っ白な歯と、無邪気な雰囲気と、なんだか不思議な魅力を感じる雰囲気だった。
桜の木を背景に右側の子は、というと? こっちもまた珍しい。茶色寄りな赤い髪だ。もうそれだけでも希少価値なのに、緑の瞳。ゆるふわとぷかぷかと、空気をたっぷり含んでいるみたいな、ふんわりとしたミドルヘアーだった。まるで漫画みたいに、前髪の一束が、目と目の間、鼻筋の上を通って、垂れている。そばかすとかありそうな髪の毛してるのに、そんなのなくて、その肌はムラの無いブロンズ肌。日焼けかぁ? 焼いた? 焼いた? 目や髪の毛と、肌の色で、印象がケンカしてる? わんぱくなの? 落ち着きある子なの? とりあえず、向かい合っている子よりは落ち着きありそう。すましたようで、受けて立つよ、って顔してるし。
そっちも背丈は同じくらいで、随分かわいらしい男の子たちだなぁ。別にイ○スタとか好きじゃないけどスマホ出してカメラアプリに指先のびていきそうなくらいに。
リールからひっぱりを感じた。
ありがと、ぽちしっぽ。
何で、ぽちにしなかったんだろう。幼かったころの自分に問い詰めたい。たぶん、ぎゃん泣きされるだろうけど。自分のことだからそれだけは分かる。
あ、よしよし、はまた後でね。
私はリール越しの抗議をガン無視して、再び目線を戻した。
ん?
何か、袋のようなものを、ぶらぶらさせている。お互いに見せつけるように掲げている。何なんだろう?
そこは砂の地面ではなくて、もう、芝生の上だった。
ざっざっざっざっ。
小さな袋。スーパーの袋とかじゃなくて、そうじゃなくて、その中身、みたいな? で、何か、黒いマジックか何かで、見掛けから中身が分からない感じにしているみたいだった。
ざっざっざっ。
「ん、何んだぁ」
そう。何のことはない。それは、それらは、グミの袋だった。中身は入っていて、まだあけられていない模様。
「っ!」
ガチ警戒して、一歩後ずらり、睨みつけるように警戒してくる黒髪の子。
「なぁに? あっ、かわいい!」
赤髪の子は、どうやら女の子だったらしい。お菓子みたいに甘くかわいらしい声だった。そして、かわいいって、こっちのセリフだぁ。
「おいっ……、アカナ!」
制止しようとした黒髪の子は男の子らしい。ソプラノな、高い、男の子っていうきれいな声だった。
「いいのよ別に。この仔、触りちゃんちゃんにされるの大好きだから」
「さわり……、ちゃんちゃん?」
めちゃくちゃ首を傾げられた。私も首を傾げた。
で。
「ククリお姉さん、ちゃんとどっちが勝ちか言ってね」
黒い髪の毛の男の子である、ミトシ君にそう釘を刺された。
「ククリお姉ちゃん! よぉく、見ててねっ!」
赤い髪の毛の女の子である、アカナちゃんにそう釘を刺された? う~ん、どうなんだろう?
何だか最初の警戒なんてすぐ解けて、名前まで先に教えてくれたミトシ君と、なんか気ままなまま明るいままでなんか明るいアカナちゃん。お姉ちゃんって呼んでねって冗談だったつもりなのに――幸せ。
ミトシって、美年、って書くのかなぁ?
アカナって、紅菜、って書くのかなぁ?
なんかそんなどうでもいい想像してると、何やら勝負事らしいけど、その中身が分からないままな勝負みたいな何かの封は切らることとなる。
「どぉだぁ! 見ろぉっ!」
翳されたそれは、縦に裂かれて、中身をあわらにした。
「こっ、これはっ!」
私は勢いだけでノッた。
「あ、ア○パン○ングミ!」
アカナちゃんも当然のようにノッた。
あれ……? でもこれ、幼稚園児向きじゃぁ……? いやそもそも、何、何が始まるっていうの? これ、そもそもどういう勝負なの……?
「そうだぁ。○ン○ン○ングミだぁ! こいつはなぁっ! あーる・てぃー・えー……、ってやつが、できるん、だぁああ!」
なんか、ちらり、って、合ってる、って目で尋ねられて、まあ、間違ってないから頷いた。いいえ、いえいえ。たいへんよくできました。……。いやでもまさか、(推定)小学生の口から、そのワードが出てくるとは。
「あーう・てー・えー?」
おおっと、ここにきて、アカナちゃんついてけない! そりゃ当然だ。多分、その辺の大人の大半もついてけないよっ! 分かるヤツは、○ーチューバーくらいだ!
「へへっ! じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ、じゅじゃじゃじゃじゃじゃー―」
えっ? やっぱりミトシくん、アレ見てるぅぅっ! まざってるぅぅ! デス○ッチのあれ、まざってるぅぅっ! 同じ人のだけどさぁ! 同じ人のだけどさぁ!
数秒後……。
ビリッ!
「……」
ミトシくんの顔から喜びは消えた。そんなもの無いよ、虚無だよっていうみたいに。ただ、無表情だった。破れたオブラートとグミの切れ端を持ったまま、動かなくなった。
「……。チィィィンンンンッ! ミトシくん、RTA失敗! 破れちゃったので、失格で~す!」
取り敢えず私は、無理やり締めることにした。
数分後。
なんか、泣きそうで、泣かないで、泣きそうだったミトシ君をたしなめていて、不意にミトシくんの後ろから、グミを持った手を掴んで、ぱっくんちょして、ニコニコしたアカナちゃんを見て、ミトシくんはふっ、とクールに笑って、悲しみを捨て去っていた。
で。
「こんどは、私の番よ!」
うんうん。で、これ、どういう勝負なんだろう? まっ、いっか。
にしし、と笑って、アカナちゃんは、ミトシ君がやったように、縦に袋を裂こうとしたのだけれど、
「んん、ぅんん、んんんんぅぅぅっ! ……」
あかないらしい。かわいい。ほんと、かわいい。なにこのかわいいいきもの。でも、私はお姉ちゃん。いつまでもホントは見ときたいけど、お姉ちゃんだから、ねっ。
手を差し伸べようとすると、
「あぁ、仕方ないな。アカナ。俺が開けてやるよ」
とても微笑ましいものを見た。一歩下がって愛でた。けれども、
グンッ。パッ! ババッ!
「くっ、くかぁぁっ! ぐぎぎぎぎぎぎっ……。……」
あぁ、役得。役得。役得っ! でも、私は、今日は、お姉さん! と意気込んだら、
「……」
ミトシ君と、目が、合った。
「……」
私は、何故か、変な汗をかいた。だって、そう。
「…………。私が、開けよっか」
気まずかったから。
「オネガイシマス……」
ミトシ君と心の距離が開いたのを感じた……。
私は受け取った袋の上の中央の裏表をつまんで、豪快に開いた。
「はい」
私はミトシ君にそれを渡した。
何だか気まずそうに、無言で、ミトシ君はそれをアカナちゃんに渡した。
「えへん。見てこれ。かわいいでしょ!」
それは、赤い色をした、クマの形をしたグミだった。そう。某、固いことで有名な、あのグミである。○リボーの、○ールデンベア。
でも、これで何が始まるのだろう?
どっちもグミ。だから、グミ勝負? どういう勝負? まさかこっちも何かやるの? ……。あっ、まさか……!
脳裏に浮かんだ、可能性として知っているものは唯一つ。アレを、大人のジュースに漬けて、大人のおやつにしちゃう、というアレである。
未成年だから、ダメ、絶対!
いやいやいや。ぶんぶんぶん、と頭を振った。だって、そんなことある訳ないもの。
「あ、固いやつだっ! う~ん、固いから、かわいいじゃなくて、強そう? う~ん? お姉さん、どう? かわいい?」
あぁ、会話振られた。助かった。
「そうねぇ。ふふ。かわいい。とってもかわいいわ。ねぇ、ミトシ君。おっきなおっきな、クマのぬいぐるみを思い浮かべてみて。ミトシ君が抱きかかえて気持ちいい位の大きさのクマさんを。ねっ、どう?」
「う~ん……。きもちよさそう! かわいいっていうのとは、違うよね、やっぱり」
あらら、ダメだったか。
アカナちゃんを見た。
「よぉく見たわね。ほらほら、見て見てっ!」
なんか、残虐なことが始まった。横にして、両手でその頭と足を持って、アカナちゃんはそれを右と左にぐにゅんと引っ張る。
そして、それは裂けない。あんまり伸びもしないし。
「……」
「……」
私もミトシ君も、コメントに窮した。互いに顔を見合わせて、どちらの顔にも答えは書いてなくて、ただ、困った。
「かわいくて、強いの。でもね、むしゃむしゃしにくいの。だから、こうするの」
さっ、と出された、透明な小さなペットボトル。透明な液体。
私はそれに、一瞬、まさか、とマジで思った。あの中身、水だよね、水……だよねぇっ……!
やばみを感じて、私は
スタタッ! バシッ!
「えっ……?」
「お姉さんチェックっ!」
ぐりんっ、スッ、ごくっ、ごきゅっ!
……。水。そうね。そうよねぇ、はぁ。……、はっ!
アカナちゃんガチ泣き一秒前! 私は片手にペットボトル。片手にフタとリール。そう。間に合う訳なんて、ない。
「ぅ、…―」
片手に感じた強い引っ張り。後ろ方向にじゃなくて前方向に。
「ぐぅぅ、わぅぅんん♪ くぅん、くぅぅん♪」
ぽちしっぽが、じゃれるように、アカナちゃんにすり寄っていた。あっけにとられ、涙なんて忘れたかのようにどっかにいって、アカナちゃんはぽちしっぽに感化されるかのように笑顔になった。
ぽちしっぽ、ナイスだよ。とうふ、買ったげるよ。
ぽちしっぽは、豆腐が大好きという、渋い好物を持ったオス犬だから。
ぐだぐだと数十分後。
私が自販機で買ってきた、ちょっとキャップの径が大きめの、ミニボトルの天然水を手に。私たちはアカナちゃんのターンの仕切り直しをした。
「――。かわいくて、強いの。でもね、むしゃむしゃしにくいの。だから、こうするの」
蓋の開けられたボトル。その蓋に、天然水は注がれ、そして、その中にぽしゃん。グミのくまさんは沈められた。
「こーするとね、やわらかくなるし、もっともっと、やさしい味になるの」
うん。確かにそうだ。けど、それ、多分、○リボー以外でやってもうそうなるのよ。っ……。いけないけない。
「ふぅん、そうなんだぁ。じゃっ、お姉さんチェッ…―」
「ダメッ!」
めちゃくちゃ拒絶された。つらい。自分のせいだけど……つらい。
「ククリお姉ちゃん。まだおいしくなってないから。もうちょっとだけ、待ってね」
やっぱり、かわいい。天使だった。
ぽちゃん。もういっこ。そして、もういっこ。全部で3個を沈めて、私たちは、待った。
数時間後。
ちょっと周囲が騒がしくなってきた頃。でも今日は平日だから、それでも人は割と少ないまま。
全て、同じ、赤色のクマ。それらは、何だか、少しふにゃりとしているように見えた。気のせいではなくて、間違いなく、それはふにゃりとしているのだ。
ミトシ君が、すっと手をのばした。アカナちゃんにもういいよと言われた訳でもないのに。
水滴る、ぷにっと太った赤のクマを、ミトシ君は、ほおばった。
「グ○の実みたい。けっこーいいかも」
ミトシ君満足げ。
アカナちゃん誇らしげ。
「じゃ、私も」
私も続いた。
「丁度いい甘さ。普通に食べたらこれかなり甘いわよね~」
大人のジュースで漬けなくても結構アリみたい。大人のジュース愛好家な私は素直にちょっとびっくりした。
「どほ、おいひい?」
グミを下の上で転がしながら、アカナちゃんはそう私たちに声をかけた。
そう。つまり、ジャッジの時。
どっちも元ネタはある。ミトシ君のはおもしろかったけどパクリなのよねぇ。アカナちゃんのはちょっと捻ってたけど、捻った、って言っていいのかしら? 小学生だから、水で、ってなっただけじゃあ? う~ん……、うぅん……。
ちらっ。
目の端で二人を見た。
ミトシ君が、アカナちゃんを無駄に褒めている。甘々なくらい、これいい、むっちゃいい、って言ってる。このグミ家にくっそたくさんあるから、明日持ってくるね、とか言ってる。
親御さん、ちょっとかわいそうかも。水漬けするにはもったいないグミだし。けど、ミトシ君の親御さんなら、ノリノリで隣で大人のジュースでやってそうな気がする! ミトシ君がこのノリだし。
アカナちゃん嬉しそう。楽しいわよね。とってもお似合い。恋愛感情の、れ、の字もお互い無さそうだけど、でも、だからこそ、こんなにも天使なのよね。
うんうん。
「ぐみくらべ、勝者、アカナちゃん! アカナちゃんの勝ちぃぃっ! パチパチパチ!」
私はアカナちゃんの手をとってほめたたえた。
「やったぁあああああ!」
はしゃぐアカナちゃん。
パチパチパチと、オーバーリアクションに体いっぱい楽しそうに拍手するミトシ君。けど、
「……」
その手は止まって。じぃぃ、とミトシ君は私の目を見た。そして、
「お姉さん。ぐみくらべ、って、なぁに?」
思いっきり、首を傾げられた。
「ふふっ……」
しまったぁ、と私は苦笑いして、面倒をスルーした。
はぁ、しまらない。けど、とっても春らしい、バカ騒ぎだった。無邪気? になって、楽しめたから。肩が、少し軽くなった気がした。
ざぁああああああ――
風で桜の花びらが舞う。
それに、ミトシ君とアカナちゃんはわああ、となって、楽しそうにはしゃぎだした。興味が移ったらしい。
「ミトシ君。アカナちゃん。じゃ、バイバイ」
私に背を向けた二人に、私の声はもう聞こえていなかたった。丁度良い。潮時だ。私はぽちしっぽと歩き出す。
(今日こそ仕事、探しに、行こ)
そんな、大人の決意をして。大人の春休みは、今日で終わりにするつもりだ。
今回のネタについて。
youtubeで最近ハマっているやつからとってきました。
アン○ンマングミRTAとパック開封デスマッチの中毒性はほんとすごい。人を選ぶだろうけど、ハマる人は沼に沈むみたいにハマる。他の人に薦めたら人間性を疑われることはご愛嬌。それを含めてまでハマるコンテンツだったりする。
ハ○ボーを酒に漬けるというやつは、童心を思い出しながら、大人にしかできない食べ方してる気分になって好き。けど、食べ過ぎ注意。料理酒みたいにアルコールが抜けている訳では決してないのだから。
っていう、youtubeすすめるために皮を被せた物語、でした。