ショートコント【猫頭(ねこあたま)】
ゲラゲラコンテスト3、応募作品です。
車で移動中の公彦と鞠絵。運転席が公彦。助手席が鞠絵。
ご機嫌な公彦。対してテンションの低い鞠絵。
公彦「先輩、CDか何か聴きます?」
鞠絵「聴かない」
公彦「じゃあラジオは?」
鞠絵「聴きません」
公彦「何か音ないとさびしくないですか。歌でも歌いますか」
鞠絵「ちょっと! 何考えてるの?」
公彦「(歌詞削除)」
鞠絵「やめて」
公彦「(歌詞削除)」
鞠絵「やめなさい!」
公彦「絶好のドライブ日和なのに、楽しまなきゃ損ですよ」
鞠絵「ドライブじゃないでしょ。仕事中なの」
公彦「(歌詞削除。ハミングで)」
鞠絵「鼻歌も禁止」
公彦「(歌詞削除)」
鞠絵「大友康平っぽく歌っても駄目だってば! あーもう最悪! あたし何でこんな奴と組んでんだろ」
公彦「そりゃもう僕の先輩への想いが神様に届いて」
鞠絵「違います。神様じゃなくて、あんたの仕事ぶりを見た社長に泣いて頼まれたんです! どうかバカ息子の面倒を1年だけでいいから見てやってくれ、って。それであたしもつい仏心で」
公彦「実家が寺だけに?」
鞠絵「う、うるさい!」
公彦「今のそんなにツボに入りましたか?」
鞠絵「バカじゃないの? もう本当、猫頭なんだから」
公彦「何ですか、それ?」
鞠絵「3歩歩くうちに端から忘れていってしまうのが鳥頭。別のことに目が行くと、途端に肝心なことがすっぽり抜け落ちてしまうのが猫頭よ」
公彦「言い得て妙ですね。……で、誰が?」
鞠絵「ここにはあたしとあんたしかいないんだけど?」
公彦「先輩、いくら自分のことだからってそんなに卑下しなくても」
鞠絵「違うわよ! あんたの事言ってんの! あ・ん・た・の・こ・と!」
公彦の頬に人差し指をぐりぐりと押しつける鞠絵。
幸せそうにヘラヘラ笑っている公彦。
鞠絵「ほんとにもう! だいたいあんた電報の順番変えて、縦読みで『マリエラブ』なんて作ろうとしてたでしょ」
公彦「あれ? やっぱり気が付きましたか。さすがですね」
鞠絵「ブライアン・アダムスから電報が来たら誰でも気づくわよ! 何考えてるのあんたは。あたしが気づいたからよかったものの」
公彦「いやーあのときはもう、ブをどうしようか考えて考えて考えすぎて、自分で電報打てばいいって前の日に気づいたんですよ。ぎりぎりセーフでしたけどね」
鞠絵「やってることがアウトでしょ! もう、だからあんたは猫頭だっていうのよ!」
公彦「そんなに怒ってばかりいると喉乾きません? コンビニで何か飲みませんか? 僕おごりますよ」
鞠絵「飲まない」
公彦「コーラは?」
鞠絵「飲みません」
公彦「じゃあスプライト? メローイエロー? ドクターペッパー?」
鞠絵「何で炭酸ばっかりなの?」
公彦「ファンタはグレープ派? オレンジ派?」
鞠絵「グレープよ! ……そ、そうじゃないっ! あんた今なにしてるか、すっかり忘れてるでしょ」
公彦「えっ?」
鞠絵「これ火葬場に行く霊柩車なんですけど」
公彦「あ」
外からの霊柩車全景。黒スーツ姿の公彦と鞠絵。
(おわり)