第5話 レヴュー:【漫画】らーめん才遊記 と 正しい物語の始め方
【1】はじめに
今日レヴューするのは
漫画『らーめん才遊記』(らーめんさいゆうき)
原作:久部緑郎、作画:河合単
『ビッグコミックスペリオール』(小学館)2009年17号から2014年5号まで連載。
単行本全11巻
です。
つい最近ドラマ化されたのをきっかけに知った作品です。
同原作、同作画の漫画『ラーメン発見伝』のスピンオフ作品らしいのですが、そちらはまだ読んでいません。
【2】ストーリー
日本一ともいわれるラーメン店の主、芹沢達也。前作『ラーメン発見伝』の敵役で、人気キャラクターです。
彼は、ラーメン店に特化したコンサル会社も経営しているのでした。
その会社に新しく入社したのが主人公の汐見ゆとり。かなり世間の常識とはかけ離れたマイペース型の女の子。
入社試験では、社長である芹沢の作ったラーメンに対して「あのラーメンを美味しくすることなら、すぐにでもできますけど?」と言い放ってしまうほどです。ただし、その料理の腕は本物で周囲を納得させるだけのラーメンを見事作り上げるのでした。なぜなら、ゆとりは料理研究家の母親から幼いころから料理の英才教育を受けていたのです。
さて、ゆとりの最初の仕事。老夫婦の経営するラーメン屋の再建です。
確かにラーメンの味はいまいち。ゆとりは、ラーメン屋の看板になるようなラーメンを生み出します。
しかし、芹沢のダメ出しを食らいます。理由は、年老いたラーメン屋の亭主には新しいラーメンを修得するだけの力はないから。
芹沢は、のれんを取り換える、店内を掃除して綺麗にすることを命じ、最後にその店でわりかし美味しかった「もやしめん」にメニューを絞り、もやしをボリュームアップさせることで店の看板料理にしました。
そう、ラーメン屋が繁盛するか否かは、ラーメンの上手い不味いだけで決まるわけではないのです。
さて、ゆとりは一流のコンサルになれるのでしょうか!?
(今回はネタバレは避けます)
といった感じです。
この物語のコンセプトは「従来の料理漫画のように料理の巧さを競うのではなく、ラーメン店の経営コンサルタントをテーマに据えたこと」でしょう。
初登場時において、ゆとりの料理能力はほぼマックス。しかし、経営能力、コンサル能力は全くの素人。そこからの成長譚。
漫画の一ジャンルともなっている「お仕事系」に「グルメ系」の要素も加わっているのでコンセプトとして熱いです。
【3】ここを見て欲しい
さて、洗練されたコンセプトを持つ本作品ですが、それだけならただのお仕事系漫画の良作で終わっていたかもしれません。
本作品の真の魅力は(芹沢と)主人公であるゆとりのキャラクターにあると言えましょう。
①非常識で、マイペース(自分本位)
②率直な意見で、他人を不快にすることもしばしば。本人に悪意はない
③料理の天才
これだけ抜き出すと「わりと主人公にありがち」なキャラクターにみえますが、そうではありません。
私は学びました。物語の主人公に必要な要素。それは「ワクワク」であると!
(本作主人公ゆとりは、第1話で「ラーメンとはなんですか?」との問いに「「ワクワク」なんです。」と答えています。
じゃあそのワクワクって何なの?それをゆとりが言語化できるまでの成長もこの物語の一つのプロットになっています。)
キャラクターのワクワクとは「こいつは次何をやるんだろう?」という期待感だと思います。
ゆとりが次どんな暴言を吐くんだろうと誰もがつい気になってしまいます。
また、漫画特有の表情の豊かさもワクワクを演出しています。
感情に合わせてコロコロと顔が変わるので、いちいち反応が気になります。
第100話、「ラーメンなでしこ選手権」後、初めて出社したゆとりのふるまいは今作の名場面です!
【4】どう描くのか
本作第1話、芹沢は1話全154コマ中58コマ(足だけのコマ1コマ含む)に登場しています。
対して、ゆとりの登場は154コマ中56コマ(手だけのコマ6コマ含む)。
連載開始前からの人気キャラの芹沢と互角に渡り合う主人公を生むために作者も相当気合を入れたのではないでしょうか。
物量として主人公をコマに出す、これはとても大事なこと。
脚本術でも、冒頭主人公は画面に出続け、かつ主体的に行動するべきであると教えられます。
この作品のテーマであるコンサル業務に触れるのは3話以降です。
つまり、作品のコンセプトよりもまずキャラクターをきっちり描こうという戦略なわけです。
また、本作品1話を見ると、タメが十分に施されていることが分かります。
ゆとりが芹沢のラーメンに対し「このラーメンはイマイチだ」というコマの一つ前、ゆとりは無言でエヘッと笑います。
「あのラーメンを美味しくすることなら、すぐにでもできますけど?」の前は2コマもためています。
芹沢が激高し「なんだとぉ」と声を荒げて立ち上がるシーンでは、ゆとりは「え…?」と状況を理解できていない様子。
※漫画や小説は、読者それぞれが読むスピードで進んでいくので、どうやって「間」を取るかが大事。「タメ」もそのひとつ。
※タメを作るというのは、それだけ鮮烈にそのキャラを描きたいという意思の表れ
【5】今回の教訓
・主人公に必要なものはワクワク (「主人公が次は何をするんだろう?」という期待感)
・序盤は物量的に主人公が多く登場することが大事
・漫画に大事なもの 「間」 これは小説も同じだと思う
・キャラクタ性はリアクションの中で生まれる
今回のレヴューはノベルアッププラスに投稿したモノの転載です