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大通りへと出て、タクシーを探す。
鈴が見つけたのかタクシーに向かって手を挙げる。
車は鈴たちの少し先に停車、運転手が降りてきて後部ドアを開ける。
少女を下ろし奥の座席へと寝かせる。その隣に葉。前方座席に鈴が座った。
「運転手さん花街までお願い。お代金を倍払うから、私たちが乗った事を黙っていて欲しいの。」
と、鈴は意味深に言い、目深に被っていた帽子を取る。
運転手はえっ!?えっ!?とした表情をしている。
無理もない。
絶賛売り出し中の新人女優が乗っているのだ。しかも、お忍びで。
三ヶ島鈴といえば知らない人はいないくらいの人気である。
最近銀幕デビューを果たし、新人ながらも卓越した演技力、可憐さと妖艶さを併せ持つ逸材として各方面から注目されている。
そんな女優が目の前にいたら、そりゃそんな表情にもなる。
「わかりました。花街までですね。あ、あと…サインを…」
鈴はふふっと笑い代金を支払う時にサインすると言い葉に向き直った。
「後で八地くんにも連絡しないとね。一応、警察だし。」
葉は頷きながら座席に深々と沈み、少女を背負って歩いた疲れを癒そうとしていた。
さすがは運び屋の車だ。ふかふかの座席は心地が良い。
ふーっと息を吐き体を預ける。鈴が何か言っているが、意識は眠りの中へと落ちていった。
「葉。もうすぐ着くから、起きて。」
「ぅ…うん…」
かなり疲れていたのだろう、深く眠りについていたらしい。久しぶりの心地良い眠りだった。
隣の少女を見るがまだ目を覚まさないようだ。
生きているか心配になり、手を口元に近づける。
微かだが息はあるようだ。
ここで死なれても困る。
「お客さん。着きましたよ。」
運転手はそう言うと車を止める。
鈴が鞄の中から財布と名刺入れと万年筆を出し名刺を取り出すとササッとサインを書く。手馴れている。…当たり前か。
また、鞄を探り今度は口紅を取り出し塗る、そして名刺に口を押し当てる。
なるほどな。
「はい。お代金とサイン。あとこれはヒ・ミ・ツ」
と、運転手の手を握りながらニコニコと渡す。
演技力は抜群だ。作り笑いと自分の売り込みも上手い。
舞い上がっている運転手を他所に葉たちは花街の奥へと人波の中へと消えていた。
これが、葉たちとコハルの出会いであり、この先の運命を決めた出来事だった。