28
車に揺られている感覚は長い時間続いた。
正確にはわからないけど。
長い時間続いた気がした。
車が止まり、ドアが開く音が聞こえる。
「コハルちゃん!着いたからね!」
鈴さんの声が遠くからする。
誰かに手を取られ、背負われた。
「大丈夫だから…ダイジョウ…ブ…」
鈴さんの声が変わった?
朦朧とする頭では何も考えられない。
このまま、治らなかったら?
「その時は…ワタシノ…モノ…」
急に意識がはっきりする。
背負っている人は人では無かった。
“魔女”。アレだった。
きゃぁぁぁぁあ!!
叫んでみたけど逃れる事は出来ない。
体が…お腹から繋がっている。
絶望。
心の中を真っ黒い感情が支配する。
どうすることも出来ない現状に諦めを感じた。
もう、どうにでもなってしまえばいい。
誰も助けてはくれないのだから。
私も誰にも助けてはもらえなかった。
幼い頃、姉に見捨てられた。
大好きだった姉は私を置いて嫁いでいった。
母は私を産んで自害したと聞いた。
姉はアイツから私を守ってくれていた。
最後まで私の事を心配してくれていた。
姉が嫁いだ日、その日私は死んだ。紬は死んだんだ。
地獄だった。
暴力、イジメ…
何でもありだ。
姉から貰ったペンダントを握りしめている時だけが、わたしの心の平穏だった。
早く姉に会いたかった。
この家を出て…
そんな事は叶わなかった。
18歳になった日の夜…
狼が私を食べた
その後のことは覚えてない。
私は全身血塗れで、兄、愛人の首を手にぶら下げていた。
屋敷にいた全員が死んでいて、村もめちゃくちゃだった。
清々しかった。
気持ち良かった。
黒い気持ちがすっとした。
後は姉と兄の息子だけだ。
わたしを見捨てた姉。
血にまみれたわたしを見た姉は動揺していた。
そして、呪いをかけた。
子孫が出来なくなるように。
お前だけ逃げた代償だと言って。
のうのうと暮らしている姉が許せなかった。
姉から貰ったペンダントは私の気持ちを代弁するかのように、小さな宝石をどす黒く輝かせていた。
「お腹の子には罪は無いよね…」
産む決心はしていた。
だけど、愛せるか不安だった。
憎い奴の子だ。
それでも、可愛い娘。
花菜と名付けた。
愛しい子。
だが、刈郷の血は残酷だった。
花菜にまで毒牙にかけた。
兄の息子。理一が花菜を。
花菜にペンダントを渡した次の日だった。