19
翌朝、目が覚め階下に降りると鈴さんが既に朝食の準備をしていた。
炊きたてご飯に味噌汁のいい香り、卵焼きや焼き鮭が皿に盛られている。白いご飯が進む幸せの香り!
ぐ…ぐぅ…
お腹が空きすぎて先に反応してしまった。恥ずかしい。
「ん?あ、起きた?おはよう。もうすぐご飯にするからね!」
鈴さんはテキパキと味噌汁をお椀に注ぎ、机に配膳していく。
その光景を見ているだけでよだれが…
ん?二人分しかない?
「あの。葉さんは?」
鈴さんは全ての配膳を終え、割烹着を脱ぎ食卓に着く。
葉は先に出かけていったわ。と、教えてくれた。
今思えば大女優に割烹着、そして朝食まで作ってもらって…
熱狂的な追っかけさん達に知られたら怒られそうだ…
「ご飯を食べたら早速行きましょうか。」
「は、はい!」
鈴さんが作る料理は凄く美味しい。ぺろりと平らげ、お腹が幸せになったところで目的の家までの道程を地図で確認する。
「こっちの道を進んで右の坂の上ね。」
地図を紙に書き写し鈴さんと共に向かう。
夏の陽射しはかなり強い。
まだ、外へ出たばかりなのに被った麦わら帽子のてっぺんが既に熱くなってきた。
目的の家は事務所から少し遠く、ましてや坂の上。
もう少し体力をつけておくべきだったなぁ…。何て思いながら、鈴さんを見る。
涼しげな顔をしてすたすたと歩いている。
女優さんは表情ひとつ崩さずに居れるもんなんだなぁと、改めて感心してしまった。
「ん?どうしたの?」
「あっ、いや。鈴さんは暑くないですか?」
じっと見ていたのを見られていたらしく、目がバッチリと合ってしまった。気まずくなり咄嗟に聞いてしまった。
「かなり暑いわねー。もう、溶けそう。早く行きましょうか。」
鈴さんは日影の多い裏道を行きましょうか。と、裏道を行く事にした。
少し時間はかかってしまったが、日差しに当てられて進むよりはマシ。
「この坂の上ね。」
急な坂ではなくゆるりとした坂でほっとする。
坂の両脇には背の高い木々が植えられており、進むと空気が少しだけひんやりと感じられた。
「空気が冷たくて、気持ち良い…」
だが、ゆるりとした坂は意外と長くようやく坂の上の家が見えてきた。
聞いていた話では家と聞いていたが、見えたのは旧家というべきお屋敷だった。