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「…ん……あん……た…あんた…大丈夫かい?ちょっと!」
「うぅ…」
全身が痛い。山の中をむちゃくちゃに走ったからか。
そりゃそうだよね。
とにかく動かそうとやってみたけれど力が全く入らないし、手も足も感覚が鈍い。
まるで棒みたいで言う事をきかない。
それに、頭がぼんやりする…
瞼が重い。
疲れのせいか上手く目を開けられない。
「ちょっと!おーい!お嬢ちゃん!しっかりしな!大丈夫だからね…」
誰だろう?この人は…
薄ら見えるだけだけど綺麗な人
それに良い香りがする
香水かな?
昔、同じ香りをどこかで嗅いだ事がある気がする。
懐かしい香り。
確か…何処だっけか?
うーん。思い出せないなぁ。
確かに嗅いだ香り。
春に似たあの風の匂い。
コハル
誰かにわたしはそう呼ばれていた。優しい声。両親だったか?違う。誰かにそう呼ばれていた。
思い出せない。
胸が締め付けられるような感情にわたしの目から涙が溢れていた。
「どこか痛いのかい?大丈夫?」
答えようとしたが、またぼんやりとし始めわたしは意識を手放してしまった。
「ちょっと!あんた!しっかりしな!」
はぁ。年端もいかないような子供がこんな山の麓で倒れているなんて。
全く世も末だ。
にしても、酷い怪我。
山の中をどこをどう通ったのか。体もボロボロの傷だらけで、ろくにご飯も食べてないのだろう衰弱しきっている。気になるのは…裸足なのと、頭の怪我。呑気にしている場合じゃないわね。
「葉。この子運ばなきゃ。」
名前を不意に呼ばれた少年とも少女ともつかない青年はブンブンと首を横に振る。
「え。嫌だ。鈴が運んでよ。僕は着物だし…」
と、言い終わると同時にただならぬ怒気を纏った鈴がドスの効いた声で
「い、い、か、ら、は、こ、べ!手遅れになったらどうするんだい!わたしも慣れない洋服じゃなかったらおぶっていくよ。」
「なら、最初からそう言えば…」
「何か、言ったかい?」
と、切れ長の猫目でギロりと睨みつけ威圧する。
葉はちぎれんばかりに首を振り渋々ながら倒れている少女をおぶり病院へと運ぶ。
意識を失っている少女はずっしりと重くて落としそうになる。
何刻歩いただろう。
ヘトヘトになりつつも、鈴に支えてもらいながら街の端にある病院へと辿り着いた。