1
はぁ…はぁ…
逃げなきゃ…逃げなきゃ!
殺される…早く…
見つからないうちに…
「いたっ…!」
何も履いていない足に
折れた枝が刺さる。
血が滲むが痛がっている暇はない。
早くここから逃げないと!
「居たぞ!!」
見つかった…!
動け!動け足!!
転がるようにして、足を動かす。
疲労しきった身体と足は限界をとうに超えている。この山の中どれくらい走ったのだろう。
考えても無駄だ。今は逃げなくちゃ。
死にたくない!死にたくない!
息が苦しい、肺が悲鳴をあげている。涙が溢れ、更に呼吸が苦しくなる。
嫌だ!嫌だ!
死にたくなんてない。
「こっち。」
不意に腕を捕まれ、草むらの中へ引っ張られた。
あぁ…捕まった…と思った。が、違った。
引っ張った方を見るも暗くてハッキリとは見えない。誰だろうか。
わたしの口に指を当て静かにと。
呼吸が落ち着くのを待って、話し始めた。
「いい。良く聞くんだ。この先のけもの道を真っ直ぐ行け。行った先の小さな社で隠れてて。必ず迎えに行くから。」
言い終わると、なるべく音を出さず草むらからけもの道へわたしを案内し、早く。と、わたしを押した。
言われた通りただひたすら走った。足はもう怪我と疲労で限界だった。
死にたくない。
この意志だけで進んでいた。
けもの道をかなり進むとボロボロの鳥居が見えた。神社のような建物がありその奥に小さな社があった。
古びてはいるけど、隠れられそうなスペースもある。
少し…休もう…
限界を超えた小さな身体を抱え、
泣きながら足や腕に刺さった草や枝を取り除き、
着物の袖を破き出血の多い所に巻いていく。
うぅ!…!
痛い。口に布を噛み声を出さないようにする。
本当は叫び出したくなるくらいに痛い。
どうして…こうなったのかなぁ…
わたしが何かした?
父も母も兄弟や友達、お屋敷のみんな優しかったのに…
どうして…
涙が溢れて止まらなかった。
うずくまり声を殺して泣いた。
ガサッ
音に反応し振り返る。
「見つけたぞ。」
背後から声がした。
屋敷の使用人の声だ。
血の気が一気に引き震え出す。
震えが止まらず、動けない。
あぁ。騙されたんだ。
そう思ったら、もうどうでも良くなっていた。
髪を掴み引きずっていく。
何の抵抗もしなかった。する気力なんてなかった。
ただ、涙が溢れていた。
わたしの短い人生はここで終わるのかぁ。
色々やりたかったなぁ。
「びーびー泣くんじゃねえ!」
どすっ
と鈍い音がする。
腹と頭を殴られたみたい…
生暖かい血が額を伝う。
終わった。
目の前が真っ暗になりその先は闇だった。
「………しな!あ………た!」
ん…誰だろう。わたしを呼ぶのは…
この声はきっと………