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飼い犬 ①

 王女たちの列は、その後襲撃を受けることなく近衛兵たちと合流した。

 宰相ヘリオスは出迎えた近衛騎士たちの所属などを確認し、部隊を動かす者の許可を得て隊列を組み直す。


 その様子から敵が多過ぎることをフロイは理解した。


「厄介だな」


 愚痴りながらフロイは木陰で小便を済ませると、こちらに向かい歩いて来る人物に気づいた。

 宰相のヘリオスだ。


「もう済んだか?」

「ええ」

「だが少し付き合え」

「……はい」


 何が悲しく初老の老人と連れだってと思ったが、これなら隠れて会話が出来ると察する。

 並んで小便の振りをしながらフロイは宰相の言葉を待った。


「少年よ」

「はい」

「お主はその首輪が存在する限り王女様には逆らえない。それは理解しているな?」

「ええ」


 魔道具の首輪は嵌めた者でしか外すことが出来ない。

 そして主人である者の命令は絶対であり、主人に逆らえば命を失う。


 相手が魔王なのもありフロイとしては思うこともあるが、一応好意を寄せて来るので今のところはそれほど警戒はしていない。

 ただし別の意味での警戒は怠らない。

 相手の目的が自分では無く人々の命であれば、その時は命を捨てるつもりで相手の胸に剣先をねじ込む覚悟は出来ている。あの時と同じように。


「だからお前は、このまま王女様の傍に居て彼女を護れ」

「宜しいのですか?」

「ああ」


 頷きながらヘリオスは、フルフルととても立派な物を振るった。

 中々に女性泣かせな一品を見て……フロイは自分の成長をそっと神に祈っておく。


「立場は私の傍使いの見習い。少年兵としておく。良いな」

「はい」


 畏まったりもせずに引き受け、フロイは宰相の後を付いて歩き……前を行く宰相に促されて王女が乗る馬車の御者席に座った。

 宰相ヘリオスは別の馬車を使う様子で、その様子を眺めていたら何故か御者席の背後にある小窓が開いた。


「フロイ?」


『何故中に来ない』と言いたげな視線に少年は苦笑する。


「王女様。自分の席はここです」

「……良いでしょう」


 渋々と言った様子で不満げな少女の声が聞こえて来た。

 と、ブツブツと呟く声が聞こえてくるとキュッと首の首輪が締まって開いた。


「王女様?」

「何でしょう?」


 しれッと白を切る相手にフロイは呆れ果てる。

 いつか見たあの凛々しく気品のある魔王の姿は夢幻だったのかとすら思えてくるのだ。



 それからことあるごとに首輪が締まるのを繰り返しつつ……王女の馬車は無事に王都に到着した。




「ヘリオス様?」

「案ずるな少年。ミオン。任せた」

「はい。宰相様」


 王城に辿り着きようやく解放されると思ったのも束の間、フロイは王女専属のメイドであるミオンに手を引かれ浴場へと案内された。

 着替える必要があると言うことだが、どうしてメイドの彼女が一緒に入って来るのだろうか?


『怪我の有無などの確認を命じられましたので』と言われると何も言い返せない。

 全裸にさせられ徹底的に洗われる。徹底的にだ。


 頭の上から爪先までミオンの手によって磨かれ……何故か彼女はうっすらと頬を赤らめてその口から熱い吐息を溢していた。どうやら少女が好みなのかと思っていたが、その標的は自分なのだと知りフロイは出来るだけ無反応を演じ続けた。


 髪の毛も切られて整えられ、服も貴族の子弟が纏う様な立派な物が準備された。

 次いでミオンの案内で王城内を進むと、ある部屋に通された。部屋の主は宰相ヘリオスだ。


「来たか」


 書類を見ていた彼の顔が上がり、着飾ったフロイを見て数度頷いた。


「馬子にも衣裳だな」

「ありがとうございます」

「齢の割には動じぬ子であるな」


 苦笑し立ち上がったヘリオスはソファーへ移動しフロイに座るよう勧める。

 相手と向かい合う形で腰を落ち着かせフロイは相手の出方を待った。


「何から説明するか……」


 軽く顎を触りヘリオスは盛大にため息を吐いた。

 どうやらどんな言葉を使っても、どうにもならないことを今から言うらしい。


「王女様が癇癪を起された」


 本当にどうにもならない言葉だった。


「お前に褒美をと考えて手続きをしている隙に、王女様が陛下の元に行ってな……そこでお主を自分の専属の騎士にすると言ったそうだ」

「専属の騎士ですか?」

「ああ」


 ため息交じりにヘリオスは騎士について語る。


 騎士とは主人に忠誠を誓う。忠誠を得た主人は騎士の世話をすることとなる。

 世話が出来るのであれば何人も騎士を増やして良いという訳では無いが、ある一定の数なら認められている。

 しかし貴族が抱える騎士とは違い、王家の者が抱える騎士は騎士爵と言う爵位が発生するのだ。


「つまり自分を貴族にすると言ったのですね?」

「そうなる」


 今にも頭を抱えそうな相手を見てフロイは心の中で同情をした。


「ですが自分は子供です。陛下とてお許しなど」

「それがお許しになった」


 今度はフロイが頭を抱えたくなった。


「陛下はとかくリアナ王女様に対して甘いのだ」

「甘いと言ってもそう簡単にお許しになるとは?」

「ああ。だが王女様が『分かった。もうパパとは一生口を利かないんだから! 大っ嫌いなんだから!』と言ったら全面降伏してしまった」

「大丈夫ですか? この国は?」


 違う意味で違う部分が心配になって来る。

『はぁぁ~』と深くため息を吐いたヘリオスは額に手をあてて苦悩する。


「本来なら私の元で預かり成人したら騎士としようと思っていたのだが……」

「自分は成人していませんよね?」

「だが騎士爵であれば未成人でも受けられる。爵位であるからな」

「……」


 移動の馬車で嫌がらせをして来た王女様は、首を絞めながらそんなことまで考えていたらしい。


「断ることは?」

「不可能であるな」

「……生じる問題は?」

「多過ぎて思いもつかんよ」


 ゆっくりと目を閉じてフロイは顔を上げた。

 深く息を吸って吐いてまた吸う。呼吸は落ち着いたが気持ちは落ち着かない。


 どうやら相手は少女の形をした魔王だ。その認識で間違っていない。


「ヘリオス様」

「何か?」

「もし自分があの魔王……女を殴りでもしたら?」

「気持ちは分かるがやめてくれ。本当に」


 今にも詰め寄り懇願しそうな相手にフロイは諦めた。


《絶対に後であの魔王女を泣かせる!》


 そう心に誓って。




(c) 2020 甲斐八雲

 女性キャラが暴走をw

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