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虚偽

「あのお嬢様……最後まで静かだったね~」

「自分が狙われる立場になったら怖くなったんだろう? 人を狙う立場は命令するだけで良いけど、狙われる方は全てが敵に見えるからな」

「あはは~。それに鏃の付いてない矢をわざと撃ったりしたしね」


 城の長い通路を歩き俺たちはある部屋の前で立ち止まる。

 校外学習から戻って来ると呼び出す癖を直して欲しい。


「降りろ」

「え~? 仕方ない」


 肩に乗っていたルルカリカが飛び降りて横に立つ。

 その衝撃で気配を消して一緒に歩いて来ているシャイナが甘い声を発して全身を震わせた。

 流石に城に入ると言うことで今日の彼女は式典対応だ。


「騎士フロイ。参りました」

「入り給え」

「はっ」


 ゆっくりと扉を開けて中へと入った。




「彼女は?」

「王女からの報告は?」

「何も無い」


『丸投げしやがったな。あの馬鹿魔王女は』とフロイは心の中で呻いた。


「伝説の魔女にして勇者クロイドの供を務めたシャイナです」

「……」


 ソファーに腰かけていた宰相ヘリオスの顔色が一瞬で蒼くなった。

 1,000年前の最強魔法使いが姿を現したとなれば誰でも腰を抜かすか。


「今回偶然彼女が魔法で時を止めている現場に遭遇し、王女の手を借りて救出しました。助けて貰ったと言うことで魔女も王女の手助けがしたいとのことなのでこうして自分が面倒を見ています」

「いや待ってくれ……彼女は本当にあの魔女なのか?」

「たぶんその魔女です」


 とある平原を沼地に変えたとか。火山1つを崩落させたとか。敵ごと潰した街の数は両手の指では収まらない。

 勇者クロイドの供の中で最も"破壊"に特化した人物だろう。歴史書を読む限り。


「ご安心ください。現在はこんな風に首に縄を付けていますから」

「……実際に縄を付けている者を初めて見たが?」

「こうしないとこの馬鹿は勝手に騒ぎを起こすので」


 グイッと引っ張ると変態が体を震わせて床に転がった。

 ルルカリカの高い拘束技術による縛りは凄いらしい。


 恍惚とした表情を浮かべる変態の顔を踏んずけてフロイは言葉を続ける。


「それに歴史書の大半は嘘ですしね」

「……そうか。やはりな」

「あの程度の被害で済んだのなら魔法国は莫大な借金を背負うことは無かったでしょう」


 ある意味で傾国の魔女とも言える。

 彼女が破壊しつくした街々の賠償を求められた母国は破産寸前までに追い込まれたのだから。


「ただご安心を。この世は比較的平和なので彼女が大規模破壊魔法を使うことはそうないはずです」

「……」


 沈黙した宰相の顔色は悪いままだ。

 気持ちは分かる。この馬鹿が余計な魔法を使えばこの国に賠償が及ぶだろう。


「それに王女よりこうして手綱を握っているよう命じられたので自分が責任を持って管理します」

「……分かった。この件に関しては私は何も聞かなかったこととしよう」


 現実逃避した宰相にフロイは何も言わない。その方が無難だ。


 改めて向かい合う形でフロイたちはソファーに座る。


 変態は暴れると面倒臭いので、四つん這いにさせてルルカリカに椅子代わりに座って貰う。

 ハァハァと言っているのは、彼女の独特な呼吸音なので無視する。昔からフロイはそうして来た。


「本日呼ばれたのは?」

「ああ。1つ聞きたいことがあってな」


 チラチラと変態に視線を向けているヘリオスの様子からして、師匠が彼に話したことの確認かとフロイは察した。


「シャイナから聞いた話によりますと、勇者クロイドは単身魔王城に乗り込み以後消息不明とか。彼女も拠点としていた場所を魔王の部下に襲われ、そこで強力な魔法を使ったせいで1,000年ほど眠ってましたが」

「つまり何も知らないと?」

「ええ」

「……」


 顎に手をやりヘリオスは悩む。


「フロイ。トルドはお前が勇者では無いかと言っている」

「根拠は?」

「……無いな。たぶんあれの勘だろう」

「勘で勇者にされるのはこっちが困るんですけどね」

「そうだな」


 苦笑するヘリオスにフロイはルカに目を向ける。


「ルカよ」

「ほい?」

「お前は勇者クロイドがどうなったか知っているのか?」

「噂だと魔王と相打ちだね」

「お前が知る限りでは?」

「わっかんないな~。たぶん死んでると思うよ」

「訳は?」

「だって人は長生きできないし、何より勇者は単身で乗り込んだんでしょ? あの勇者は魔法とか使えなかったしね」

「そうか」


 チビチビと紅茶を飲む彼女は事前に打ち合わせした言い訳を口にする。


「シャイナ」

「……なに?」

「勇者が1,000年の時を超えて……それも若返ってこの時代に姿を現すことは、魔法では可能か?」

「わたしの知る限りの魔法では不可能。何よりそんな大魔法を扱う魔力を人は生み出せない」

「そうか」


 ご褒美とばかりにルカが足を振るってシャイナの腹を蹴る。椅子の姿勢を崩すことなくそれを受けて甘い声を発する変態に宰相の顔色がますます悪くなった。


「なあフロイよ。彼女は伝説の魔女であろう? そのような者にこのようなことをして」

「邪魔をしないで貰いたい!」


 キリっと表情を正してシャイナがヘリオスを見る。


「今のわたしは至福の時を過ごしている。幸せなのだ。その幸せを邪魔する権利を貴方は持っているのか? 否! 断じて否だ! よって黙ってて貰おう!」

「……分かった」


 助けようとした相手から叱られるとか意味不明な出来事をヘリオスは体験した。

 良く出来ましたとばかりにルルカリカが尻を叩いて増々喜ばせる。


 フロイはその全てを無視した。


「脱線したが話を纏めるに俺はどうやら勇者の生まれ変わりの類では無いらしい」

「そうであろうな」

「ただの騎士であの我が儘王女を黙らせるのが仕事な苦労人だよ」


 フロイはとりあえずそう言うことにした。

 面倒越しは厄介でしかないからだ。




(c) 2020 甲斐八雲

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― 新着の感想 ―
[一言] すっごくカオスですね笑
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