魔女 ③
教会との戦いで滅んだ国……魔法国で彼女は生まれた。
倫理的に許されない近親相姦などの行為を繰り返し、ただ魔力の強い者を掛け合わせて作られた存在だ。
結果として最強の魔法使いとして彼女は生を受けた。
幼い頃から魔法書を友とし、1人で勉強に明け暮れる日々。
何せ天才過ぎた彼女は凡人などとは違い、魔法に関しての事柄は言った傍から全てを覚える。
5歳を待たずに誰も彼女に教えることが無くなってしまったのだ。
故に1人だ。
朝から晩まで魔法書を読み、彼女は周りからの期待に応えようとした。
最強の魔法使い。人間史上最強の魔法使い。勇者の助けとなる存在へと。
遊ぶ時間も自由時間も睡眠時間も……ありとあらゆる時間を学びの時間とする。
常に自分を強く追い込み続けた。追い込んで追い込み続けて……
「結果として痛みを感じないと実力を発揮できない変態へと進化したわけだ」
「馬鹿なの?」
流石の魔王女も呆れ果てた。
そんな進化し過ぎた変態は、勇者フロイの足元で恍惚の笑みを浮かべている。
彼に背中を踏まれ喜んでいるのだ。本当に大した変態だろう。
「俺が彼女を供とする代わりに出された条件が常に罵倒するか乱暴に扱うことだ」
「何となくミオンに通ずるものを感じるわね」
「あの変態はまだまともだろう? こっちは常にこれだぞ」
クイクイと親指を下に向けてフロイは呆れ果てる。
ハァハァと艶めかしい吐息を溢し笑う魔女は妖艶にも見える。
「ねえフロイ」
「何だ?」
「貴方が最後に1人でわたしの所に来たのってこんな仲間たちを見せたくなかったからかしら?」
「……どうしてだろう。若干否定できない」
「否定してよ!」
唯一まともとも言えるルルカリカが憤慨する。
「まあいい。問題はシャイナ?」
「何でしょうか? ご主人さま~」
「今の俺はフロイだ。今からそう呼べ」
「……呼ばなかったら?」
「お前を大切な人形のように丁寧に扱うこととする」
「お任せくださいフロイ様っ! このわたしの魂にその名前を刻みつけたので、もう二度と間違えることなんてありませんからっ!」
「煩い黙れ」
グリグリと踏んで魔女を黙らせる。
「さて。こっちの問題はこれで終わった。お前の方は?」
「あの双子なら仕事を与えたわ」
「何の?」
「魔人領域の調査よ。流石にミオン1人じゃ難しいから」
「そうか」
ならば四天王の問題も解決した。
「あの~? フロイ?」
「どうしたルカ?」
「どうしてシャイナがあんな場所に居たのか聞かなくて良いの?」
意外と常識人な一面を見せる亜人の言葉に彼は足元のゴミ……ではなく変態を見た。
「シャイナ」
「はぁい?」
「テルザはどうした?」
「……知らない。襲撃を受けた時に別れてそれっきり」
「そうか。なら襲撃を受けた時のことを話せ」
「あまり言いたくは」
「良いから全てを話せ。この屑がっ!」
軽くフロイが踏んでやると魔女は喜んで口を開いた。
四天王を名乗る魔人に襲われ、シャイナたちは当初判断に迷った。
このまま神官戦士たちを見捨てて勇者の元に馳せ参じるか、それとも神官戦士たちを盾として四天王を確実に葬るか。
選んだのは後者だった。
神官戦士たちを壁にしそれぞれが見定めた魔神を確実に殺す。
ルルカリカは硬そうな魔人に絡みついて木々の間へと消えていく。聖女テルザは魔人の1人と戦いながら場所を移しそれ以降見ていない。残ったシャイナは2人の魔人を相手にした。
「1人を捕まえて永久氷獄で封印したんだけど、もう1人が逃げ出したから飛行の魔法で追って背後から頭を掴んで凍らせたの。でも流石に2人に対して同時に使える魔法じゃ無かったから、わたしまで凍ってしまって……で、飛んでいた状態だったからそのまま地面に落っこちたんだと思う」
「それであの場所だったのか。納得だな」
「ああっ! そんな内臓を抉るかのようにっ!」
グリグリとフロイが腹を踏んでやると魔女は歓喜の声をあげる。
「でフロイ」
「何だ?」
椅子に座り彼を見ている魔王女が口を開いた。
「それをどうするの? 要らないのなら口を塞いで地中深く埋めないとまた湧いて出て来そうよ?」
「異様な草とか生えそうで怖いかも?」
「一応これだって人間だぞ? 残念なことにな」
「そんなにわたしのことを褒めないで! 興奮して大変なことにっ!」
おかしな動きを始めたからフロイは足の位置を相手の背から顔へと移す。
靴底に頬を押し付け……ハァハァしている魔女はある意味で通常だ。
「連れ帰るしか無いな。放置して行ったら厄介なことこの上ない」
「それは良いんだけどどうするの?」
「普段は式典対応でどうにかなるな」
「式典対応?」
その魔王女の言葉に反応し、ルルカリカが掌から塊の蔦を生み出すと魔所に向けて投げる。
ギチギチと音を発して変化する蔦は魔女を縛り上げて拘束した。
「良いわ~。これよこれ」
「……こうして全身を拘束して上からローブをかぶせて誤魔化すのが式典対応だ」
「口は?」
「勿論塞ぐ。鼻があれば呼吸は出来るしな」
スルスルと首に巻かれている蔦が伸びてシャイナの口を覆った。
モゴモゴと何やら話しているが声は聞き取れない。
「手慣れ過ぎてて流石のわたしでも引くわ」
「言うな。これでも魔法使いとしての実力は破格なんだ」
「その実力主義も問題よね」
亜人から魔女へと目を向けリアナは軽く鼻で笑った。
「性格破たん者ばかりじゃないの」
否定する言葉をフロイは持っていなかった。
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