表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/71

魔女 ①

「あら? 貴方の師匠は良い読みをしているわね」


 クスクスと笑う王女リアナの様子にフロイは渋い表情を浮かべる。

 自信を持って断言されるのは困るが、事実と言う的を得ているのが始末に負えない。


「流石に誰かが魔王だとは思いもよらないか」

「当たり前でしょう? 人間領域だと魔王は凶悪の象徴。わたしのような華憐な少女を疑うなんてことはまずないわ」

「左様で」


『誰が可憐だ?』と呆れつつもフロイは寝返りを打つ。


 現在フロイたちはテントの中に居た。通り雨らしい雨に降られているのだ。

 勇者であれ魔王であれ自然の力には敵わない。こればかりは仕方ない。


「ルカはどうした?」

「植物なら出掛けたままね」


 使用していた魔道具をリアナは片付ける。

 学院を卒業し解放されたはずの先輩ホルンだったが、師であるトルドは彼女を逃さなかった。自身の騎士見習いとし強制的に従者としたのだ。


 お蔭で常に主の背後に控えるホルンに対しリアナは『これを持ってると防御力が増えるわよ』と言ってブローチを渡した。防御力が増える効果は無いが会話を拾い遠い場所に届けてくれる魔道具だ。こうしてトルドの情報は常に得られるようになった。


 自然な動きでリアナは勇者の横に寝っ転がる。

 彼の背中に抱き付こうとしてワシッと顔面を掴まれた。


「動くな。外に放り出すぞ?」

「酷いわ。わたしはただっ! 痛い痛い……」


 ミシミシと音を発する頭蓋に王女は両手を上げて降伏した。


「こんなに可憐な許嫁に対して……何て酷い男なんでしょう?」

「自称だろうが?」

「自称でも好かれているなら少しはその気になるのが年頃の男子でしょう」

「……胸の薄い奴には興味が湧かん」

「それか~!」


 激怒し襲いかかって来る相手の顔を掴んでまた降伏させる。

 しくしくと泣きながら膝を抱いて魔王女は全力で拗ねだした。


「これでも育っているのよ。それなのに……」

「成長が全く感じられないが?」

「ミオンが言うには髪の毛2本分は増えたって!」

「誤差の範囲だろう?」


 激怒した彼女は……以下同文。

 また膝を抱いてしくしくと泣き出す。


「どうしてよ。昔はあんな重かったのに……」

「思うにお前は前の体ごと転生したのか?」

「魔人の体で人になるなんて無理よ。だから捨てたわ」

「それが原因じゃないのか?」

「……」


 ようやく原因に気づきリアナは絶望のどん底に突き落とされた。


「人間の体になったお前が前ほど育つ保障なんて無いんだよな」

「とどめを刺さないでよ!」


 容赦ない言葉に泣きながら魔王女は吠えた。


「何々? 痴話喧嘩?」

「うっさい! 植物!」


 植木鉢から顔を……文字通り顔を出したルルカリカがケラケラと笑う。


「フロイ~」

「どうした? また暗殺者か?」

「そっちじゃなくて……何て言えば良いのかな?」


 植木鉢の中から体を引っ張り出してドリアードである彼女は綺麗な裸体を晒す。


「シャイナを見つけたよ?」

「……はぁ?」


 一瞬理解出来ずにフロイは返事に時間を要した。

 体を起こし全裸の少女を見れば、彼女はちょこんと座っている。


「だからシャイナを見つけたよ。見つけたけど……手が出さない状況だね」

「何だそれは?」

「ん~。人間の魔法ってよく分かんないんだよね。だから手が出せない?」

「……仕方ない。様子を見に行くか」

「外は雨だよ?」

「……」


 起き上がろうとした彼は動きを止めた。

 だからこんな場所で何かあればすぐに拗ねる魔王女と一緒に居たのだ。


「なら止んでから行くか。面倒だが」


 改めて横になりフロイはとりあえず雨が止むのを待つことにした。




『森を探索して来ます』と言ってフロイたちは勝手に行動する。

 担当の教諭たちは何ら文句を言わない。彼らが命を狙われている存在だと知っていても教諭である彼らは制することなどしないだろう。自分たちが巻き添えになると知っているからだ。


 故にフロイたちの自由行動を誰も妨げない。唯一妨げるとすれば彼らの命を狙う存在ぐらいか。

それだって姿を現す前にルルカリカの能力により蔦に絡まれ縛られ拘束されて……森の栄養に姿を変える。


 ズンズンと進む彼らは終ぞその場に辿り着いた。

 長雨で地盤が崩れたのか、ちょっとした地崩れの後が見て取れる場所だ。


「この辺りは大陸中央の入り口だよな?」

「だね~」

「俺たちが居た場所から正反対の場所だな」


 ルルカリカのは記憶が正しければ、彼女らが魔王の四天王に襲われたのは魔人領域のはずだ。

 大陸中央部……砂時計のクビレのような部分を指す地域だ。その中央を南から抜けて北側に出た場所を前線基地としていただけに、シャイナがこの場所に居るのは不自然なのだ。


「で、何処に居る?」

「あれだね」


 ルルカリカが石の上に乗って指を向ける。その先には大きく口を開いた地崩れの後が存在する。

 良く目を凝らすと……確かな不自然な何かがあった。

 石像と言うには生々しい。けれどそれを見るに血が通う人のようには見えない。

 人の姿のままで固まってしまったようなそんな状態だ。


「で、彼女の両手が掴んでいるのは何だ?」

「あ~。わたしの部下ね」

「……」


 一緒に来たリアナが何故か偉そうに踏ん反り返って胸を張る。


「炎と氷の魔人よ。双子なのよ」


 どちらがどちらかは分からないが、魔女シャイナはその双子の魔人を両手に捕まえ生きたまま石像と化してたようだ。




(c) 2020 甲斐八雲

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ