魔剣 ①
「やっぱりフロイは強いよね~」
「そうか?」
「それで弱いとか言ったら周りの有象無象は何なのよ?」
2人の少女の言葉に少年は自分の周りを見る。
同学年の剣を武器とする者たちが転がっている。
舞台上から溢れ地面に転がっている者を含めると結構な数だ。
今日は学校行事の1つ、剣技大会の予選日。
今年はとある教諭の『ガキ共のお遊戯をずっと眺めているのは面倒だから、適当な数を舞台に上げて戦わせろ。数が減ったら追加であげて行けば良い』と言う発言があり物は試しと実施された。
何より戦場で1対多数も多数対多数も起こり得る。どこまで協力しどこで裏切り最後の1人になるのかは参加者である生徒が思案すれば良いことだった。
問題は今年の初学年に1人だけ化け物が居たぐらいだ。
最初から参加し全員を1人で殴り飛ばして勝ったフロイは、自分の拳を見つめて少しだけ考えた。
「剣技大会の予選だったな」
「良いんじゃないの? 一応剣は腰に差してるんだし」
「そうだね~。フロイが練習用でも剣を使ったら死人の山だしね~」
2人の言葉に軽く頷いて彼は納得した。確かに全員殺したら怒られそうだからだ。
何より審判役である教諭も『勝者12組フロイ』と宣言している。
「同年代じゃ敵無しね?」
「そうみたいだな」
舞台から降りて後始末は見学していた者たちに委ねる。
最初に負けた者などが運ばれて治療を受けているが、ここまで圧倒的な実力差が生じているとはフロイですら想像していなかった。
「正直弱すぎるな」
「貴方が鍛え過ぎなんじゃないの?」
「あの頃に比べれば温すぎる」
ルルカリカから受け取ったタオルで汗などを拭いて投げ返す。
気配を消していたメイドが何食わぬ表情で受け取りまた気配を消した。
「なら平和ってことで良いじゃないの?」
両膝を立てて座っている魔王女がそんなことを言って来る。
フロイは苦笑にも似た笑みを浮かべて頭を左右に振る。
「分かっているだろう? 兵の弱さは平和の象徴じゃない。国の腐敗だ」
「あら大変。知らない間にわたしの国は腐ってたみたいね」
クスクスと笑いリアナは立ち上がる。
「付いて来なさい」
「何処に?」
「きっと兵の弱さを解消してくれる人の所よ」
「ふむ。俺様は歴史の担当教諭であるな」
「そうね。でもフロイをここまで強くした実績があるわ」
「……それは放っておいても勝手に強くなる類の生き物だがな」
「でも経験を積んで強くなっている。そうでしょう?」
学習指導員室に殴り込みをかけたリアナ王女は、主任教諭よりも偉そうに踏ん反り返っているトルド男爵の前に来た。王女もまた胸の前で腕を組んで踏ん反り返る。
「勝手をすれば俺様は叱られてしまうな」
「なら叱った人の名前を言いなさい。その者は国の弱体化を軽視する非国民よ。王女リアナの名の元に制裁を加えるわ」
「何と恐ろしい。末の王女は独裁をすると?」
「ええ。この学院に居る間はね」
恐ろし過ぎる王女の宣言に、室内に居た教諭たちは全力で視線を逸らした。
「独裁者の言葉であるならば従うしかないな。実に不本意だが従わざるを得ないな」
「なら次は誰にこの不本意を押し付ければ良いのかしら?」
「決まっていよう。学院長であるな」
「そうね。なら」
力強く立ち上がり元武芸師範と現王女が並んで学院長室に向かい歩き出す。
「ねえフロイ?」
「何だ」
「あの2人って根っこの部分で似てるね」
「そうだな」
勝手に歩いて行く2人の背を見ながら、フロイとルルカリカは呆れた様子で肩を竦めた。
「追わなくて良いの?」
「師匠が横に居るなら問題ない」
「……あの2人が暴走するのを誰が止めるの?」
「その問題があったか」
予選会で感じた以上の疲労を覚えながらフロイは前を行く2人を追い始めた。
「今日から剣術等の教諭を担当することになったトルドだ!」
「「……」」
喜び勇む教諭に生徒たち全員の表情から色が無くなった。
学院長室に殴り込んだ問題児たちの脅迫により、初学年の担当となったトルドの授業が本日より始まった。
ただ生徒たち全員が彼の悪名を知っているのか喜んでいる者など1人としていない。唯一の弟子であるフロイは授業開始と同時にリアナを背負って走り出していた。
「俺様の教えを確り聞いてその体に、魂に刻めば、少なくとも普通の者たちより強くなる! 強くならなかった奴は俺様が責任をもって鍛え直す! それでも駄目なら責任を持って始末してやる!」
丁度校庭に来たフロイは師匠の発言に耳を傾けていた。
相変わらず無茶苦茶である。
その証拠に比較的狂っている部類のリアナですら膝を叩いて笑っていた。
「生きたかったら死ぬ気で強くなれ! 強くなれないのなら迷わず死ね!」
スラッと剣を抜いて彼は剣先で地面に置かれているフル装備となる防具を指し示した。
「今からこれを着て俺様の前を走れ! もし追いつかれようものならこの剣先でお前たちの尻を抉る! 生きたければ走れ! 死にたくなければ走れ! 失いたければ走れ! さあ始めろ!」
突然のスタートに生徒たちが一斉に鎧から兜、手甲に具足まで……本当にフル装備を纏い走り出した。
「ねえフロイ?」
「何だ?」
「お尻を抉られたら何を失うの?」
唯一理解出来なかったことを魔王女は素直に質問する。
「……男としての尊厳だな。詳しいことはメイドに聞け」
「分かったわ」
どうせまたいい加減な返事だろうと察し、リアナはその夜素直にメイドに尋ねた。
翌日彼女がフロイを見つけるなり顔を真っ赤にして殴りかかったのは言うまでもない。
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