指揮官 ②
「屈辱だわ……」
仲間の裏切りにも会い、捕らわれの身となったリアナ王女を待ち受けていた物は……勝者である1組と自分たちが使用した道具の片づけだ。
革鎧や盾などはちゃんと布で拭いて薄く油も塗る。使用した武器も具合を確認して手入れをしてから倉庫に戻す。
あっさりと降伏をしたフロイを中心に、武器などの手入れが終わった物から倉庫に戻し片付けて行く。
余りに手慣れた指揮ぶりに掃除を終えて者たちがもう何人も立ち去っていた。
「……どうしてわたしが」
「最後まで諦め悪く抵抗して居たからだろう?」
「わたしが負けるだなんて許されないのよ!」
「だったら勝てる作戦を指示しろ。あんなザルな戦術……1組の奴らは凄い罠があるのかと疑ったらしいぞ?」
「ぐぬぬぬぬ~」
両手で持つ布をぐしゃぐしゃと掻き混ぜ大変不満そうな魔王女様に呆れながらも、フロイは次から次へと剣の具合を確認しては倉庫へと入れた。
「そっちは終わったか?」
「ええ」
最後の盾を拭いてリアナはそれをフロイに突き出す。やれやれと呆れながら受け取り、彼はそれを抱えて倉庫に入れると在庫を確認し外に出た。
受け取っていた鍵を使い戸締りも済ませる。
「帰るか」
「……お風呂に入りたい」
「確かにな」
「あら? 一緒に入る?」
フワッと長い金髪を払い、何故か胸の前で腕を組む残念な魔王女に冷えた視線をフロイは向けた。
「子供と一緒に入ってもな。まあ俺もまだ12の子供だが……」
その言葉にプリプリと怒る相手をフロイは下から上まで確認する。
「お前の場合は10以下に見えるからな。変態貴族が幼女を囲むことがあったらしいがそんな趣味は俺には無いしな」
「分かったわフロイ。どうやら一度わたしが成長するまでに貴方のその考えを正す必要があると感じたわ」
「成長って……本当にするのかよ? 出会ってから感じた成長は髪の毛が長くなったぐらいだぞ?」
バキバキと拳を鳴らす魔王女が大変凶悪な表情を浮かべた。
「わたしの成長を理解させる必要があるみたいね!」
何故か服を脱ごうとする相手を抱えて運び出す。
「放しなさいっ! わたしの成長をっ!」
「はいはい」
面倒臭さを全面に出し、まずは女子寮へと向かい出入り口で待機していたメイドに魔王女を押し付ける。
後は男子寮に戻り自室に入ると……全裸のルルカリカがベッドの上にに転がり蔦で編み物をしていた。
「ここにも成長の少ないのが居たんだな」
「帰宅の挨拶も無くて失礼な言葉だな~」
編み物を止めてルルカリカはベッドから飛び降りた。
全体的に凹凸の少ない裸体は健康的で綺麗な物だ。傷1つ無いその肌はとても白い。
「ん~。この体は養分を使わないから楽なんだよね~」
「でも初めて出会った時はもう少し大きくなかったか?」
「ん~。ここって学院だからね~。一応12だし~」
普段不真面目なくせに時折真面目なことを言い出す。
ルルカリカはクルンとその場で一周すると、身長を伸ばした。
ふわりと広がった緑色の髪が彼女の裸体を包み込む。
「確かクロイドと出会った時はこれぐらいだったかな」
軽く髪を払い佇む彼女は、均等の取れたスタイルとなっていた。
胸も膨らみひと目で凹凸が確認できるようになって……と空間が歪んだ。
「だからフロイ! わたしの成長を……」
胸を張って突入して来た魔王女は目の前に立つ人物を見て凍り付いた。
自分とは違い女性女性した女性が居るのだ。
思考するリアナが若干パニックする程に、ひと目で女性と分かるのだ。
「っ!」
ガクッと床に崩れ落ちリアナは床に両手両膝を着いた。
「……負けたわ」
「どう見ても最初から勝負にならないだろう?」
身長から何から全てが違うのだ。張り合うだけ馬鹿らしい。
「こんなに屈辱的な敗北を味わうなんて……」
「あ~。でも~。王女様も育てばこれぐらい?」
「いいえダメよ!」
何故か復活してリアナは立ち上がった。
「わたしは気付いたわ! たぶんフロイは胸の大きな女性が好きなのよ!」
「そうかな~?」
「そうに決まっているわ!」
ビシッとフロイを指さしてリアナは吠える。
「そもそもわたしがこんなに愛くるしいほどに可愛らしくて万人が二度見をするほどなのに、この男は全くなびかない! それは何故かっ!」
「お前が幼いからだろう?」
「胸よっ!」
フロイの正直な意見を無視してリアナはそう言い切った。
「だってこの植物にもこんなに胸を大きくさせて!」
「今の私は普通だと思うよ?」
「こんなに大きくさせて!」
どうやら認めたくないらしい。だから全力で全てを拒絶する。
「たぶん残りの2人のお供も胸が大きかったのでしょう!」
フロイは沈黙した。ルルカリカは……一緒に水浴びをした時のことを思い出す。
「テルザはこれより大きかったかな。シャイナも大きかったかな。うん。3人の中で一番大きかったのがテルザで、シャイナで次が私か……」
何故か自分の胸を触り、ルルカリカはそれを少し膨らませた。
「これでテルザにも勝った! 今度から私はこうするわ!」
「無駄な力を使うな」
「良いの! わたしも姫様の気持ちを理解したから!」
力説するドリアードに対しフロイは冷めきった目を向けた。
「そんな姫様は余りのショックを受けたらしくてな」
「はい?」
スッと移動してフロイは自分の後ろに居たリアナをルルカリカに見せる。
両手で自身の胸を押さえ……滝のような涙を落していた。
「この植物……絶対に駆逐してやるっ!」
「ふな~! 緊急回避~!」
窓際の鉢植えに飛び込みルルカリカは姿を消す。
だが決して諦めない魔王女は空間を捻じ曲げて彼女の後を追った。
1人部屋に残ったフロイは深く深くため息を吐いて……とりあえず風呂に行くことにした。
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