歴史 ②
「折角の休みが……」
自習時間となり教室の生徒たちが各々好き勝手に過ごしだす。
本来なら授業がある時間だが、担当の教諭が校外実習に参加し行方不明となって来ないのだ。
急に教諭を増やすことも出来ず、仕方なくこうして自習時間が発生する。
机に突っ伏して悲しんでいるのであろう魔王女の愚痴が止まらない。
時折足を振ってはフロイの椅子を蹴って構ってアピールをして来るが、彼は慣れた様子で無視をする。
校外実習での異例な実習を発案した教諭が行方不明となり、何より護衛の為に飛んで来たトルド男爵たちが襲撃を受けたこともあって急遽生徒たちは学院へと戻された。
宰相を中心として者たちが動き、生徒たちを含め学院関係者から事情聴取を行ったが……やはり行方不明となった教諭が全てのキーマンであることが判明した。
しかし彼は居ない。
フロイは自分が始末した者がそれらしい人物であることを理解していたが報告はしなかった。
行方不明の方が今回のことをやらせた者たちに対しての脅しになるとの判断からだ。
事情聴取などで3日ほど学院自体が休みになったが、安全の為に城へと戻されたリアナの不満が止まらない。
フロイたちはヘリオスから直接事情聴取を受けたし、途中乱入して来て彼らを攫ったリアナだが、王女としての職も少しはあるので十分に話も出来ず……そして追い打ちでフロイが身元保証人であるトルド男爵の屋敷に逃げ込んだこともあってご機嫌斜めなのだ。
「あれ? 2人ともどうしたの?」
教室では上品な少女を演じるルルカリカは、いつものようにフロイの隣である自分の机に腰かける。
リアナの斜め後ろで待機しているメイドがスゥーっと消えるように逃げ出すのもいつものことだ。
「……」
「無言で椅子を蹴るのは王女様としてどうかと思うけど?」
「何か言いながら蹴れば良いのね?」
「蹴ること自体ダメだと思うけど」
それでも爪先でペシペシと蹴っているのは見てて可愛らしい。
ルルカリカとしては人となった彼女しか知らないが、それでも1,000年前は魔王として大陸の北に存在する魔人領域を支配していた存在だったと言うことは理解している。
自分の机から王女の机に座る場所を変え、ルルカリカは純粋な気持ちで口を開いた。
「どうして魔王が人になって王女様をしているの?」
「……それを今聞くの?」
「フロイも聞きたいと思うよ?」
チラリとルルカリカは視線を前の座席に居る少年に向ける。
「彼は聞きたくても個人のことを無理に聞いたりしないから」
「……」
フロイの椅子を蹴るのを止めて、リアナは窓の外に目を向けた。
別に難しい話ではない。
時間転移の魔法で自分の体を触媒とした結果、魔人である自身の体が消滅してしまった。
だから替わりの体に適した存在に入った結果が王女だった。
「それだけよ」
「意外と普通だ」
「普通よ」
「それでフロイ。何か質問は?」
『良い機会だから何か聞いたら?』とルルカリカは目を向ける。
やれやれと言った様子で少年が振り返ったので、ルルカリカは机から尻を離してまた自分の机を椅子にする。
「どうして俺を道連れにした?」
真っすぐ見つめて来る彼に若干頬を赤く染めながら、リアナは胸の前で腕を組んで薄い胸を張る。
「……言ったでしょう。わたしは貴方に激しく心を揺さぶられたのよ」
迷いのない目でリアナはフロイを見つめる。
「激しかったわ。あんなに激しい行為をわたしと交わして貴方は何も感じなかったの?」
「うわ~。フロイったら1人で向かった理由ってそう言うことだったんだ~」
何故か口調を元に戻したルルカリカが、冷ややかな視線を少年に向ける。
「おい待て。違うからな? 俺はコイツと全力で殺し合いをしただけだ」
「そうよ。あんな激しい命の奪い合いだなんてわたしも初めてだった」
そう何度もあんな戦いなどしたくはない。
フロイの本心を無視して、うっとりとした頬に手を当てるリアナの言葉は止まらない。
「一瞬一瞬で気が抜けない命の奪い合い……つまりわたしと彼は互いの命を剥き出しでそれを奪い合った。ああ。何度思い出してもこう腹の奥から熱い物が滾って止まらない」
頬を赤くし呼吸を荒くしてリアナはうっとりとフロイを見る。
「途中で気づいたわ。わたしはこの者を愛してしまったのだと……そう思ったら独占したくてたまらなくなった。ああ。彼の全てを手に入れたい。そう思ったら自分の気持ちを止められなかった。気づけばわたしの胸には彼の太くて硬いモノが」
「……言っておくが剣だからな」
「分かってる。そんな場所にあれを突っ込むほどフロイは狂ってないしね」
ただ興奮が止まらないらしい魔王女は自分の体を抱き寄せて、下々の物には見せられない表情を浮かべている。
ルルカリカは軽く力を使って、教室に居る者たちの視線がこちらに向かないように操作した。
「熱い気持ちが傷口から勢い良く溢れ……わたしは気付いた。『この者と誰も知らない場所で共に過ごしたい』と。だから自分の体を触媒に時間転移の魔法を行使してこの時代へと飛んだのよ」
はふ~と熱い吐息を吐いて魔王女の大演説が終わった。
ただの馴れ初めを語ったはずなのに……とんでもない痴態を聞かされた気分になったのは自分だけでは無いはずだとフロイはそう信じた。
「フロイってさ」
「何だ?」
「結局この手の人格破たんしている人に好かれるんだね」
全てを悟った様子でルルカリカはうんうんと頷く。
軽く殺意を覚えたが、フロイはルルカリカを見つめて言葉を発するのを止めた。
あとの2人……聖女と魔女を思い出したら納得するしかなかったのだ。
「能力重視で選んだんだがな」
「そうだね~」
ルルカリカも能力重視で選ばれた1人だ。
そうでなければ自分のような大罪人を庇って保護するなど普通なら考えられない。
「それでフロイ」
「何だ?」
「このハァハァしてる王女様をどうしよう?」
「知らんよ。任せた」
「え~」
無茶振りをされたルルカリカは、自分の体を抱きしめてハァハァ言っている王女様を……そのまま放置することとし、クラスメイト視線がこちらに向かないようにだけ気を付けた。
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