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再会 ②

 当初はフロイは居候している男爵家から通うつもりで居た。学院が全寮制だとは知らなかったのだ。

 自分のような名ばかりの騎士なら4人で使う相部屋辺りだろうと、彼は学院の寮に向かい……自分の部屋が個室だと知る。


 普通寮の個室は力のある貴族などの子弟が使う部屋だ。

 にも拘らずフロイに与えられるのは、力のある王家の者が手配したからだ。


 個室と言ってもベッドと机がある程度の小さな物だ。後は無い。

 ちなみにどこぞの魔王女様は、女子寮で一番広い個室を占領したという。お付きのメイドも一緒だとか。


《まあいい》


 相手は王女であり、金にも困らない生活を送っているのだから。


 フロイは椅子代わりにベッドに腰かけ、ベッドボードに張り付いている蔦を握って引きずり出した。


「いった~い」

「何で居る?」

「えっ?」


 実体化したドリアードは可愛らしく首を傾げた。


 年相応の少女に見えるが……フロイの知る彼女はこちらが正しい。

 お馬鹿で能天気なのがルルカリカと言う植物だ。


「勇者の精気が美味だから?」

「理由になって無いがな」

「も~」


 フワッと移動してルルカリカは彼の背に張り付いた。

 小さいが形の良い胸を押し付け耳元に唇を寄せる。


「大丈夫。昔みたいに目を閉じている間に終わってるから~」

「断る」


 無造作に相手の頭を掴んで投げ飛ばす。

 全裸の彼女がコロコロと床を転がった。


「いたた。どうして?」

「昔と違ってまだスキルの熟練が足らんからな」


 反対を向いて後頭部を見せる彼女にフロイは告げる。

 実に簡単な理由だ。


「昔なら吸われる時点で回復していたが、今は吸われると回復が追い付かない」

「つまり?」

「死ぬな」


 クルンと首を回し、結果自分の頭を一周させた彼女はフロイの言葉に衝撃を得た。


「なら私は何を食べろと言うのよっ!」

「黙れ植物! 水と日光とたい肥でも食らってろ!」

「いやぁ~! たい肥の中って色々混ざってるから~!」


 床を叩いて文句を言う相手を無視してフロイはベッドに横になる。

 そうでなくてもさっき吸われた分で正直限界なのだ。


 大きく息を吐いて天井を見上げていると、フワッと腹の辺りに重さを感じる。

 人よりも遥かに軽い存在……ドリアード状態の彼女は基本重さを感じさせない。


「ねえ勇者様」

「ん?」

「1,000年前、どうして私たちを置いて行ったの?」


 黄色の瞳で覗き込んで来る彼女は、あの時と全く変わっていない。

 永遠に歳を取らない植物の精霊であるルルカリカからすれば、1,000年の月日も大して変わらないのだろう。


「答えても良いが、俺も質問をしても良いか?」

「どうぞ」


 クスッと笑うドリアードにフロイは軽く息を吐いた。


「別に意味は無かった。ただ俺1人でも勝てると思ったし……何よりお前たちをあれ以上巻き込むのもな」


 辛い戦いばかりだった。生き残れたのは仲間が居たからだ。

 何より魔王との戦いの意味を勇者である彼もうすうす気づいていた。

 結果などどうでも良い。ただ勇者と魔王が戦ったと言う事実が残れば良いのだ。


 フロイの腹の上にペタンと座ったルルカリカは、軽く頬を膨らませた。

 普段は大人びた彼女だが2人の時は幼さが出る。出会った頃のまま……彼女は変わっていない。


「お前たちに何があった?」

「……魔王の部下が攻めて来た」

「そうか」

「私は魔人の1人を封じ込んでそのまま戦線離脱」

「あとの2人は?」

「テルザが1人。シャイナが2人を相手にしてた」


 つまりそう言うことだ。

 彼女たちのその後が伝わっていないであれば、魔人との戦いで死んだかあるいは……


「ミオン以外の四天王とは連絡が取れない。たぶん勇者の仲間と相打ちであろうな」


 当然の様子で聞こえて来た声にフロイは視線を向ける。

 空間を捻じ曲げたらしい魔王女様が、とても軽い足取りで部屋に踏み込んで来ていた。


「ミオン。このままどれほど維持できるか実験する」

「ああっ! 主様……私はもう色々と限界なのですがっ!」

「知らないわ。黙って口を閉じてなさい」


 どうやら空間転移の魔力をメイドに代替わりさせたらしい魔王女様は、優雅に部屋に1つしかない椅子に腰かけた。


「お前が部下に命じたのか?」

「そんな命令を支配者である私がすると思う? 部下たちの独断よ」

「そうか」


 確かにこの魔王だった玉座の間でやって来るのを待つタイプだ。

 

「巨躯の魔人と氷炎の魔人。氷炎の方は双子だったかしら? それと鉄壁の魔人の4人が貴方たちの野営地を襲撃したのね」


 どうやらあのメイドが鉄壁の魔人らしいことをフロイは知った。

 鉄壁の割には色々と穴だらけのようにも見えるが。


「どっちにしても人は1,000年も生きられない。貴方の仲間はもう既に居ないわ」

「違いないな」


 上半身を起こしたフロイは、後頭部から倒れそうになっているルルカリカの腰を掴んで支える。

 傍から見ると大変危険な体勢に見えるが、フロイは気にせずルルカリカを足元に放り投げた。


「いったっ」

「で、色々と言いたいことが山盛りなんだが……どれから質問して行けば良い?」

「愚問ね勇者」


 座り直して膝を高く組んだ魔王女は、チラッと白い下着を覗かせ薄く笑う。


「わたしの苦労話からに決まっているでしょう!」

「ならルカからだな」

「何でよ!」


 吠える魔王女を無視して、フロイは逆さになってあられもない姿を見せているドリアードに目を向けた。


「何で居る?」

「勇者が居るから?」

「どうやって学院に入り込んだ?」

「私の術で?」


 迷うことなくひっくり返ったままで彼女はそう答えた。

 本質が無邪気で人に術を使うことなど躊躇わない性質なのも問題だ。


「分かった。とりあえず部屋に帰れ」

「いや」

「おい」

「大丈夫。私はそこに鉢植えでも置いてくれれば十分だから」

「……好きにしろ」


 過去の出来事を思い出し、フロイはあっさり折れた。

 これはこれで大変に危険な存在なのだ。元々は賞金首になるほどの大悪人なのだから。


 ため息をしてフロイは魔王女を見る。

『何でも聞いて』と顔に書いてあるのが読める。だからベッドから降りて彼女の肩に手を置いた。


「明日聞くから今日は休ませろ」

「ちょっ!」


 そのまま開いている転移空間に相手を投げ込んだら、メイドに当たったらしく歪んでいた空間が元に戻った。


「とりあえず疲れた」



 学院生活1日目……フロイは疲労困憊でベッドに潜り込んだ。




(c) 2020 甲斐八雲

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