再会 ①
【勇者クロイド】
1,000年前に魔人領域に攻め込み魔王と相打ちになった勇者である。
彼はスキルなどに頼らず、無骨なまでに剣のみで敵を打ち倒す者であった。
彼には3人の仲間が居り、誰もが卓越した実力者であったと言う。
勇者は実力を重んじ、仲間の出自や種族など気にしなかった。
だからこそ勇者の供には1人の亜人が居たと伝わっている。
名前など残って居ないが、その者はとても美しい娘であり……魔法とは違う術を使って勇者の手助けをしたという。
「終わり」
パタンと本を閉じ、リアナは自分の前に居る彼を見た。
全身を蔦で覆われて雁字搦めに拘束されている。実に鮮やかで素晴らしい技量だ。
「彼女が名前も残って居ない勇者のお供の1人と言うことで良いのかしら?」
「……そうなる」
拘束されている身としては抵抗するだけ無駄だ。フロイは諦めてされるがままを選んだ。
場所は学院の内の応接室。
フロイが彼女に拘束されて直ぐに追いついたリアナが手配した場所だ。
「わたしが貴方を驚かせようと一生懸命に色々と頑張ったのに……」
「そっちはそっちで後で聞く」
「いいえ。今聞きなさい」
椅子に腰かけリアナは足を組む。
ただまだ身長が足らないせいか、子供が大人の真似をしているような……事実その通りな様子を見せている。
「わたしはずっと考えたわ。貴方と一緒に居るにはどうすれば良いか? そして見つけた。王家の娘は例外なく学院の生徒になって来たという慣例を! 亡きお母様も学院に通い、ちょっと校外実習に出かけたら、邪竜に攫われてお父様との恋愛話に発展したのだから! その娘であるわたしもその道を通るべきだなのよ!」
「頼むからこれ以上話をややこしくしないでくれ。何より俺を振り回すな」
「大丈夫よ。大反対したお父様は『学院に入れてくれないなら今日から他人扱いする!』と言ったら快く応じてくれたわ」
実際は、血涙を流しながら国王は娘の言葉を全身激しく震わせ承諾したという。
「それにこの学院内は原則身分がはっきりしている大人しか入れない。下手にお城に居るよりか安心安全なのよ」
「生徒に暗殺者が紛れてたらどうする?」
「頑張りなさい。わたしの愛しい人」
チュッと投げキッスを寄こす相手に心底腹が立った。だがフロイは動けない。
「で、貴方のお供はどこに居るの?」
「ここに居るぞ」
「……」
スッとリアナの目が細まり、椅子を蹴って立ち上がった。
ツカツカと歩いて来ると……無造作に蔦の一部を掴んで持ち上げる。
「……ああっ! 良いわ~。やっぱりこの精気が一番美味しいの~!」
リアナが持ちあげた蔦が人の顔になる。その顔はルルカリカの物だ。
「驚いた。ドリアードの一族かまだ生きていただなんて」
「ああ。それもコイツは上位種族だ。寿命は限りなく永遠と呼ばれる類だな」
「神代の時代の生き残りって訳ね」
手を離してリアナはパンパンと手を叩く。
スッと応接室の扉が開いてメイドが姿を現した。
「ミオン。この雑草を処分なさい」
「……」
「ミオン?」
自分に忠実なメイドから返事が無い。
初めてに近い相手の反応にリアナはその顔を向けた。
顔色を蒼くしてメイドは慄いていた。はっきりと恐怖していた。
「主様。何故それがここにっ!」
第三者が居る時は『王女様』と呼ぶはずの彼女が余程気が動転しているのかリアナを『主様』と呼んでいた。それほどにメイドからしたらその植物は想定の範囲外だったのだ。
絶叫しミオンは蔦の集合体であるルルカリカを指さす。フロイに指が向けられたのはある種の誤爆だ。
「1,000年生きてフロイを追って来たみたいよ。気にせず始末なさい」
「嫌です!」
「何ですって?」
明確に拒絶する相手にリアナは冷たい視線を向ける。
だがミオンは主の様子に気づかずに……拒絶しながらその頬を赤くし出した。
「もう嫌なのです! あんな恐ろしい目など……」
「ミオン?」
あからさまにおかしな反応を見せるメイドに流石のリアナも尋常ならざる何かを感じた。
「何百年と私の体を弄んでっ! それもずっと生殺し状態でっ!」
「「……」」
四つん這いになり床を叩くミオンに対し、リアナとフロイは生温かな目を向けた。
「ひと思いにすれば良いのに、ずっとずっと弄んでっ! 私の体をこんなおかしくしておきながら『魔人は吸えないみたいね~』とか言ってそのまま放置して行って! 私があの蔦からの逃れ出るのに何百年かかったことか!」
悔しそうに床を叩いているはずなのに、メイドの口からは何故かハァハァと熱い吐息が聞こえて来る。
フロイはその視線をリアナに向けたが、彼女は静かに目を閉じていた。
「もう嫌なのです! またあんなことをされたら私はもう元には戻れないっ!」
「十分に行き切ってるわよ。この馬鹿従者がっ!」
全力で後ろに振り上げた足でリアナはメイドの頭を全力で蹴り飛ばした。
絶対に曲がってはいけない方向に首と頭が曲がったが……ミオンはビクビクと痙攣するだけで死ぬ気配がない。
「なあ魔王女よ?」
「何かしら?」
「そのメイドは何だ?」
肩で息をし呼吸を落ち着けたリアナは、何も無かったかのように可愛らしい微笑みを浮かべ、フワッと肩にかかる髪を払って振り返った。
「言い忘れてたわね。わたしの四天王の1人よ。彼女だけわたしの召喚に応じて姿を現したのよ」
「そうか」
聞いた話を総合すると……ミオンと言うメイドはルルカリカと戦い、ドリアードの固有スキルである『絶対封印』を食らい封じられたのだろう。魔人から栄養を得られなかったルルカリカは、彼女を拘束したままで放置してどこかに行ってしまった。
《うん。おかしい点は何もない》
自分がまとめた話を思う限り、ミオンとか言う変態魔人が大興奮する要素は無かった。無いはずだ。
「なあリアナ?」
「何かしら?」
「魔人って変態が多いのか?」
「……」
黙って掌に炎を宿し近づいて来る魔王女に、フロイは全面降伏するしか選択肢が無かった。
(c) 2020 甲斐八雲
変態が増えて行く~w




