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修行 ②

 王女専用の馬車で送られる……そう考えると前の時とは扱いの違いに苦笑する。

 ただし帯剣の許可が出ているのは、何を意図したものなのかが分かって腹立たしくもあるが。


 ゆっくりと馬車が止まり御者がコンコンと叩いて合図を寄こす。

 剣を持って外に出て……フロイは胸の奥から息を吐いた。


「狙いはどちらか知らないが、本当に迷惑だな」


 黒装束の男たちが数人。チラリと確認すれば御者が姿を消していた。

 手練れを寄こしている辺りから本当に腹立たしい。


《つまり5日に一度はこうやって狩りをさせられるという訳か》


 それに気づくと2日に一度と言っていた魔王女の性格にも腹が立って来た。


《次に会ったら一発殴る》


 覚悟を決めてフロイは剣を抜いた。




「ミオン」

「……はい。"主"様」


 ガクガクと震えるお付きのメイドの尻を踏みつけ、リアナは冷たく笑う。


「貴女は誰の何を覗いたのかしら?」

「主様の思い人のなにを確りと……はうっ」


 躾の為に履き替えたハイヒールの踵でミオンの尻を穿った。


「私もまだ見ていないものをっ!」

「はうっ! 主様っ! 私はっ! メイドとしてっ! 主様のっ! 安全をっ! お守りするっ! 必要があってっ!」

「それの! どこに! 彼の! あれを! 確認! する! 必要が!」

「ありますとも~!」


 ひと際大きな声を発してグッタリと上半身を床に預けてミオンは、トロンとした目で恍惚とした表情を浮かべる。

 肩で息をしながら足を降ろしたリアナはメイドを見た。


「どんな理由があると? わたしが納得しなければもっとキツイ躾をします」

「もっと……ゴクリ」

「言う気が無いなら始末します」

「いいえ。主様。ちゃんとお聞きください」


 小刻みに体を震わせ尻を上げた状態で上半身を床に預けたまま、ミオンは王女付きのメイドらしくキリっとした表情を見せる。表情だけだ。


「これは主様の将来のために大切なことなのです」

「続けなさい」

「はい。将来主様があのお方と夫婦になる。つまりは夫婦の営みを迎えることとなります」

「当たり前ね」


 ちょっと頬を赤くしてリアナは当然の様子で頷いた。


 魔王時代にその手の経験が無くとも知識はある。知識だけあって後は全て知った振りをして誤魔化した過去がある。

 自分が本番を迎えることを考えるとやはり恥ずかしい。


「ですが経験のない主様がいざ当日を迎えたその日……あのお方のあれが想像を絶する程に立派だったとしたらどうでしょう? 主様は経験も無くこん棒をねじ込まれるのですっ!」

「っ!」


 戦慄した。リアナは今まで生きて来て多少の傷を得たことはある。

 一番凄かったのは勇者に突き入れられた胸への一撃であったが……あそこにこん棒など考えも及ばなかった。


「しかしこん棒など言い過ぎです。そんなモノを入れれば裂けてしまいます」

「いいえ主様。主様とて乳飲み子を見たことはありますね?」

「ええ」

「その子供たちは母親から生まれ出るのですよ? あの頭や胴体などが」

「っ!」


 恐怖した。言われれば確かにそうだ。

 母親になると言うことはあの子供を自身の腹の中で育てて外に出すのだ。

 その出口は? 決まっている。


 言いようの無い不安にガタガタと震えるリアナに復活したミオンが彼女を優しく抱き締めた。


「大丈夫です主様。私が確りと見張りあのお方のあれがこれ以上大きくならないように致しましょう」

「ミオン……」


 ウルッとその目を潤ませ、リアナは相手の首に抱き付いた。


「大丈夫ですとも主様。……主様? あの……息が?」


 グイグイと締められる喉にミオンは気付いた。王女が笑っていないことに。


「まさか……」

「わたしが気づかないとでも思ったのミオン?」

「くっ!」


 言葉巧みに騙すことが出来なかった。

 それを理解し逃れようとするメイドの足に自身の足を絡めてリアナは相手を転ばせた。


「別に貴女が見張る必要など無いわよね?」

「いいえ。それはあれです」

「何かしら?」


 とても冷ややかな声にミオンは覚悟を決めた。

 無駄な抵抗はマイナス効果だと悟ったのだ。


「私はあのくらいの少年の裸体がたまらなく好きなのです!」

「そう」


 ニコッと笑いリアナは足を振り上げた。


「その信念が決して歪まないか確認するわ!」


 振り下ろされてハイヒールの踵がメイドの穴を穿った。




「お疲れ様でございます」

「全くだな」


 受け取った清潔な布で顔を拭き返り血を拭う。

 一応気を付けてはいたが服が返り血で濡れていた。


「馬車の中を汚しそうだが?」

「ご安心を。布を重ねて置いてありますので」


 言われて馬車の中を確認すると確りと布で覆われていた。


「俺が必死に相手をしている隙に……良い根性だな? 宰相様の配下か?」

「そのような者と思っていただければ幸いです」


 御者の返事に苦笑してフロイは馬車の中へと戻る。

 しばらくすると馬車が動き出し、フロイは御者席側にある小窓を開けた。


「死体は?」

「部下の者が処理します」

「何処の手の者かの調査は?」

「それも一緒にです」

「頼もしいな」


 本当に自分を餌に色々としてくれている。

 感心することしか出来ずに……フロイは馬車の中の天井を見上げた。


「1つ聞いて良いか?」

「答えられることなら」

「リアナ王女様は昔からこんな生活を?」


 沈黙が流れ御者席から静かな返事が来た。


「王妃様のお腹にいらっしゃる時からずっとにございます」

「そうか」


 魔王であっても彼女は自身が『人』だと言っていた。

 あの時のような膨大で凶悪な魔法を操ることは出来ないだろう。

 そう考えると少しだけ同情的にもなる。


「ほどほどに敵を回してくれ」

「良いのですか?」

「ああ」


 御者の戸惑った声にフロイは小さく笑った。


「これでも俺は王女様の騎士だからな」

「そうですか……分かりました」




「お帰りなさいませ。旦那様」

「おう」


 帰宅したトルド男爵を出迎えた住み込みの老夫婦の妻が優しげな目を向ける。

 今日も返り血をいっぱいに浴びた主は楽し気なのだ。


「今日もまたいっぱい狩ったのですか?」

「ああ大漁だとも」


 豪快に笑い着ている服を投げ捨てる。


「俺様の玩具を横取りしようなど許せんからな。ガハハハハ……」


 そのまま浴場に向かう主人に老婆は増々優しげな目を向けた。

 結局主人はその性格を変えられずに居るのだ。本当に不器用で優しい人なのだ。




(c) 2020 甲斐八雲

 次話からは12歳となって学院での生活となります

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