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死闘

 ヌルッと新作です。

 王道ファンタジーを目指したのですが…数話が限界でしたw

「主は愚かな存在であるな? 勇者よ」

「そうかもな」


 否定などは出来ない。

 魔王城に単身で乗り込んで魔王の命を狙う。

 それは暗殺者の類がすることであって勇者のすることでは無い。


 玉座に浅く座る魔王は、溢れ出る魔力からその存在を誇示していた。

 女性型の魔人のようだが醜さなど感じさせない。人の女性でもここまでの美人は見たことが無い。


 金色の長い髪は床まで届きそうなほどに長く、豊かな双丘が薄手のドレスを押し上げる。

 魔人の証である角が何かの飾りに思えてしまうほどに美しい存在だ。


「どうした勇者よ? 魔王が女とは思わなかったか?」

「男女など関係無いさ。お前の魔力を見れば男女の理など意味をなさない」

「左様か。つまらん男だな」


 ゆっくりと立ち上がった魔王は、その手に杖を生んで深紅の飾りを付けた方を勇者に向ける。


「ならば妾を楽しませるが良い。人の勇者よ」

「出来る限り頑張るさ」


 言って勇者は改めて剣を構える。肉厚のロングソードだ。

 その刀身の厚みは普通の剣の数倍ほどある。斬るための剣では無い。突くための剣であり、何より折れないことに重点を置いた剣である。

 ドワーフの鉱王と呼ばれる職人が特別に打った物である。


「ほう。面白き剣であるな」

「自分と同じ何の芸も無い剣だ」

「そうか」


 軽く杖を振るい魔王は自身の周りに六元素と呼ばれる光球が姿を現す。火水風土光闇の6つだ。

 人の魔法使いであれば2つの元素を使役できれば優秀と呼ばれ、勇者の供であり友である魔法使いですら4つが限界だ。


「舞い踊れ勇者よ」

「踊りは得意では無いがな」


 一直線に突撃する勇者を魔王は迎え撃つ。

 6つの光球を掻い潜り前進しては吹き飛ばされて後退する。それを延々と繰り返す。


 魔王は微笑み杖を振るっては光球を増やし、勇者はそれを貫いて一歩でも前に進む。


「中々に無様であるな勇者よ」


 笑い光球の数を増やして魔王は歌う。


 本当に相手が勇者かと疑うほどに愚直で面白くない攻撃をして来る。だが相手の能力を調べ納得した。

 人間は固定スキルと汎用スキルと呼ばれるスキルを習得して実力を伸ばす。

 固定スキルは生涯に一度しか指定できず、汎用スキルはいくらでも取れるが取り過ぎれば熟練度を伸ばせず器用貧乏となる。


 だが目の前に居る勇者は固定スキルと汎用スキルを1つしか取得していない。絞り込むことで2つしかないスキルの熟練度は人としてはあり得ない高さになっている。

 本当に無骨で実直で堅実な相手だ。


「自然回復と身体強化の2つとは、狂っておるな勇者よ」

「人だからな」


 左手を前に突き出し掌を広げて親指に剣を乗せる。

 常に刺突の構えで居る勇者に魔王はまた光球を増やした。


「魔人を相手に人は勝てぬ。魔法では特にな」

「そう言うことだ」


 だから勇者は徹底的に剣を鍛えた。

 剣に関係するスキルも取らずに、ずっと戦い続けられる体を作り刺突だけを武器にして。


 恐ろしいほどに愚直で面白くは無いが……だから強い。

 どれほど光球を殺到させても身体強化で強化した足を動かし回避する。ようやく当てた光球が生んだ傷は自然回復で治療する。相手の心が折れない限り決して倒せない存在なのだ。


「愚かなほどに愚直な男よのう」

「俺は不器用だからな」

「そうか。ならば主が折れるまでこれを続けるとしよう」

「ああ。構わんよ」


 足を止めまた構えた勇者は魔王を見る。


「お前の魔力が尽きるまで、俺は同じことを繰り返すだけだ」

「そうかっ!」


 笑い魔王は両手を広げた。


「妾の魔力は3日と尽きぬぞっ!」


 溢れんばかりに吐き出される光球に勇者は苦笑した。


「ならば4日も続ければ良いだけのことだ」




 勇者と魔王の戦いは5日にも及んだ。

 その間2人は休むこともせずに殺し合ったのだ。




 胸の中心を剣で貫かれた魔王は、床に伏して天井を見ていた。

 傍らで崩れるように座る勇者とて満身創痍だ。気を抜けば気を失うどころか、そのまま死してしまいそうなほどに衰弱している。


「主の……粘り勝ち……であるな」

「ギリギリだったがな」

「それでも……刃を……届かせたのだ……」


 魔力を失い床に伏す魔王に勇者は頭を振った。


「最初から負ける気だったのだろう?」

「何の……ことじゃ?」


 勇者は一度息を吐いた。


「古来より人と魔人は争って来た。だが決して滅ぼし合わない。勇者が魔人の領域に攻めても魔王を倒して終わる。魔王が人の領域を攻めても同じだ」

「そうで……あるな」


 息を吐いて魔王は笑う。


「互いを亡ぼせば……憎しみは……同族に向く」

「そうだな」


 それが全てだ。だから勇者も魔王も決して相手の滅亡を望まない。

 片方が亡くなれば残るのは同族による支配と抵抗だ。


 人と魔人が定期的に代表を決めて殺し合いをし、互いの数を調整し合う程度に世界を維持する。

 その方がまだ平和的で落ち着いた未来を築いて行けるのだから。


「なら今回は人の勝ちだ。それで良いだろう?」

「そうじゃな」


 勇者は立ち上がろうとして自身の足を掴む魔王の手に気づいた。


「何を?」

「決まっておろう?」


 消えかけていた魔王の魔力が溢れ出す。

 まだ隠していたのかと剣に手を伸ばす勇者に魔王は笑う。


「今回は妾の負けじゃ。だが妾は負けず嫌いでのう……負けっぱなしは性に合わん」

「離せ魔王! 晩節を穢す気かっ!」

「そんな些末のことなど気にもせぬ」


 ニタリと笑って魔王は勇者を見た。


「互いに殺し合い幾日も楽し気な時間を過ごしたのだ。妾はお主を気に入った。だから決して離さぬよ」


 溢れ出る魔力が床に円形の陣と模様を刻む。

 幾度となく勇者は魔王の手を踏みつけるが決して離れない。


「主は妾の物じゃ。だから永久に傍に居ることを命じる」

「はなっ」


 光が辺りを包み魔王と勇者は姿を消した。




 人の世界の歴史書にはこう記されている。


『勇者クロイドは勇敢にも仲間たちと魔王城に乗り込み邪悪で凶悪な存在である魔王を打ち滅ぼした。だが卑しくも魔王は残った力で勇者たちを道ずれに自爆したのであった』と。




 それから1,000年後……新しい物語が始まる。




(c) 2020 甲斐八雲

 手垢まみれの魔王と勇者に手を出してみました。

 学園要素とか内政要素とか冒険要素とか…とりあえず異世界は無しでと言う方向で作りました。

 ただいつも通りにキャラ設定をやったので、気づけばコメディー寄りですねw


 漠然とゴールまでの道筋は決まっているので、マイペースに投稿して行こうと思ってます。

 もし良ければお付き合いのほどを。

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