母
二話続けて投稿です
よろしくお願いします。
俺は奏の面倒を千堂さん達にお願いしてから
自宅に戻り
実の父親に
親友が男性から女性になると言う
普通では考えられない様な報告をして
受話器を置いた。
今時珍しく
俺の家には固定電話がある。
父が言うには
固定電話は
災害等の停電時にもつながりやすいとか何とか
ぼんやりそんなどうでも良い事を考えた後
頭と耳、手が汗まみれになっていることに気がついた。
今の通話は、相当緊張したんだと改めて思う。
でも、任務はまだ終わっていない。
後一人、いや、二人この状況を伝えなければならない人がいる。
奏の実の母親、和奏さん。
そして、奏の実の弟、律君。
普段冷静な実の父がパニックになる様な話だ。
自分の家族がもしそうなってしまったら
どんな反応をするんだろう?
しばらく逡巡してから
意を決して
何度か番号を押そうとし
手が震えて間違える。
五度目でやっと成功する。
呼び出し音三回目で
奏によく似た声で返事があった。
『もしもし、青藍君……かな? どうしたの? 』
「あ、和奏さん。お久しぶりです
今、お時間いいですか? 」
『大丈夫よ、奏に何かあった?』
さすが母親だ、奏に何かあったのだろうと気がついている。
「あ、ああ、あの、奏は無事です
でも少々問題が、
今から言うことはみんな事実ですからね
落ち着いて聞いてくださいね」
『? え、奏、病気じゃなくて問題って
まさか青藍君、奏を襲って既に子供が…… 』
「違います! 」
『あ、じゃあ、青藍君がやっと告白して、
奏はそれに承諾して付き合うことになったとか』
「だ、だから、違いますって!
もう、真面目に聞いてください
じゃなきゃ電話切りますよ 」
『ごめんごめん、青藍君、何だかすごく動揺して
この世の終わりみたいに
緊張していた様だから、それで、どうしたの? 』
驚いた
和奏さんは俺が動揺していたのに気がついて
緊張を解してくれたんだ。
「すみません、伝える側が動揺していては
ちゃんと話ができないですよね
ありがとうございました」
『うん、大丈夫そうね
私の方も大丈夫よ
大概のことは受け止めるから
さあ、どんと来なさい』
「はい、それでは
先日から体調を崩して寝ていた奏ですが
今日、生理が来て
女の子になっていました」
『あ、え、そうなんだ』
「えっと、驚かないんですか? 」
『ええっと、確認するけど
奏は生きていて無事なんだよね? 』
「はい、初めての症状が重くて寝ていますけど
千堂さんによれば大丈夫とのことです」
『あー、千堂さんにもご迷惑かけたわね
うん、まあ、少し驚いたけど大丈夫よ
無事、五体満足で生きてさえいてくれれば
私はそれだけでで安心』
「! 」
そうだった
和奏さんは夫を……
「すみません」
『いえ、こちらこそ、初めての
それも女の子への対処、大変だったでしょ?
こちらこそありがとう
すごく助かった、連絡もね』
「いや、ほとんどは千堂さんが段取りをしてくれたから
俺は特に……」
『いきなり性別が変わるなんて
奏はとても混乱しているはず。
近くに青藍君を始め、お友達がいてくれるだけで
すごく安心すると思うんだ
本当は私がついて居られるといいんだけれど
この通りすぐに帰宅は難しいから……
だから、ありがとう
そして、私たちが戻るまで奏をお願いします』
「わかりました。任せてください
奏は命がけで守ります」
『あら、青藍君、素敵、男前
奏、ちょうど女の子になった事だし
お付き合いしたくなったらいつでも言ってね』
「わ、和奏さん! 」
『それじゃあ、奏をお願いします
奏にはあとで私からも連絡しておきます。
これから宿の夕飯の時間になるので
電話切りますね
連絡してくれてありがとう
お土産、楽しみに待っていてね』
「はい」
何だか変な緊張は
一気に霧散し
受話器を置いてから
脱力してその場に座り込んでしまった。
それにしても母親は強いなあ
それに、千堂さんたち女子も
全く
かなわないと思う。
少しの間、これからのことを
考えて惚けていた俺だったが
手早くお泊りセットを準備して
再び奏の家へ向かうのだった。




