幽霊フレンズ
僕の一日は、通勤通学をする人々を眺めて始まる。
最近のマイブームは、田中と言う女子高生を驚かす事なのだが、通学路を変えてしまったのか最近見ることが少なくなってしまった。
日課である田中さんを驚かす事が出来ない日が続いてしまっている。
更に、人間観察もそろそろ飽きて来てしまって、本格的に暇になってしまったのである。
しかし、田中さんのように霊体を視認できる程の霊感を持っている人が見て分かる訳ではない。
通勤、通学ラッシュのこの時間、大体同じ顔ぶれなので、この中から霊感を持っているのか否かを選別しなくてはならない。
取り敢えず、横断歩道の真ん中に突っ立ってみる。
こうすることで、強い霊感を持つ人が僕に気づき、怪訝そうな顔をするだろう。つまりは驚かされる人『要員』になってしまうと言う事なのである。
と思う所だが、強い霊感を持っている人は稀なのか、僕に全く気付く気配がない。
よく考えてみたら、霊感が強い人がいれば全くない人もいるのであれば、中程度の霊感の持ち主がいてもおかしくはない。
霊体がいる雰囲気のみを感じ取れる人、声のみを感じ取れる人、姿形をはっきりとは確認できる訳ではないが、影や煙のような状態で視認できる人等々
強さにも個人差があるんだろうから、声を出してみたり、クネクネと不思議な動きをしていれば何人か気づく人がいてもおかしくはない。
何だか気合が入ってきた。やるんだったら本格的にやらないといけない気がしてきたぞ...。
両腕を水平に伸ばし、上体のみをウネウネと動かす。更に
「ヴアアアアアア...キェェェェ!!」と奇怪な声を出してみる。
もっと、もっと僕は怖い幽霊になれるッッッ!!
水平に伸ばしていた腕を無茶苦茶に振り回しながら、体を更に激しく揺らす。
「ああああああああああああああああああああああっっ!!!!」
と、腹から声を出す。こんな怒鳴り声生まれて初めて出したかもしれない。
ああ、何だか今までで一番生きている気がする...死んでいるけど。
「何してるの?」
唐突に背後から声を掛けられて、ビックリして振り向く。
そこには、スラリとした体形に白いワンピースに白い肌、肩まで伸ばした黒い髪をした女性が
僕を怪訝そうな顔で見ていた。
「うわっ、ビックリしたあ...」
何故か逆に僕がビックリしてしまったが、この女性は正に霊感の強い人なのではないだろうか。
「ふふっ、そんな動きする人初めて見たよ、変なの。」
何て言いながらクスリと笑っている。
あ、あれ?あんまり恐怖を感じている様子はないし、幽霊の僕を見ても反応を示さない。
まさか、幽霊を見ることが日常茶飯事過ぎて、幽霊慣れをしてしまっている人なのか...?
「あ、いや、えっと...僕が怖くないんですか?えーっと、幽霊ですよ?幽霊。」
ドギマギしながらそう話すと
「知ってるよ?私も私も。」と真顔でそう返してくる。
私も私も...だと?確かに言われてみれば、通行人はこの女性が見えていないし、そもそも人が貫通している。
よくよく考えてみたら、僕以外に幽霊がいない訳ないよな...。
「あ...貴方も幽霊なんですね。初めて会いました...はは。」
何だか気まずくなって、今までやっていた行動が恥ずかしくなってきた。
と言うか、女性とこうして会話したことが久しぶりで、この状況自体がこっぱずかしい...。
「初めてって、そんなことないでしょう?ほら、あそこにボーっと立ってるおじさんとか。あ、あそこにもいるよ?」
と、指をさしている場所には、確かに人が立っている。
自分が気づかなかっただけで、至る所に同類がいたようだ。て、事は今までやっていたことが普段から見られていたってこと?
余計に恥ずかしい。
「そ、そうなんですか。生きている人と見分けが付かなくって。」
女性は、再びクスクスと小さく笑いながら言った。
「見分けなんて簡単じゃないの。体にオーラみたいなのが薄くあるのがあるでしょう?貴方は青色。私にもあると思うんだけど。」
言われてから気付いたが、確かにこの女性にも体を包むように、薄く赤いオーラのようなものが見える。
物不思議そうに包むオーラを見つめていると、女性は言葉をつづけた。
「その様子からすると、最近亡くなったの?じゃあこの世界の事知らないわけね。」
まるで「私は知ってるけど?」と言わんばかりに鼻を鳴らしている。
何かしらルールかしきたりがあるのなら教えて欲しいが、何だか聞くのも負けた気がしてしまう。
「教えてあげよっか?」
くっ...物凄い教えたそう。先輩風凄い吹かせてきている...ッッッ
しかし、教えてくれるのならご教授願いたい。
「あ、じゃあ、教えて下さい。」
その僕の言葉に、ニマニマと怪しく笑みを浮かべると後ろで腕を組みながら、首を傾げて
「えー、どうしよっかなあ?」
僕たち初対面ですよね。
しかも僕は久しぶりに女性と話すし、べっぴんさんだから嬉しいんだけど
なんだろう...ちょっとイラっとしてしまった。
「じゃ、じゃあいいです。」
不貞腐れるようにそう言い放つと、女性はケタケタと高笑いした後に涙を指で拭って
「嘘嘘、教えてあげるね、色々と不安でしょ?」
「...お、お願いします。」
直ぐ近くにある、ベンチに腰を掛けてから説明が始まった。
「結論から話すと、私たち幽霊は人を脅かして経験値を得て、レベルを上げて成仏が出来るの。だから、成仏、つまり生き返りたいのなら人を脅かすしかないの。さっき言ったオーラは、自分が今どのくらいの域に居るかを表してくれているの。」
何そのRPG。
生前はよく、ドラ〇ン・〇エストとか〇ァイナル・〇ァンタジーとか好きでやっていたけど
この幽霊はレベル制なの?んな馬鹿な。
冗談かと思って聞いているが、居たって大真面目な表情で説明を続けている。
「私は今、恐らく15レベルくらい。あなたは現状2レベルってところかな。他にも、レベルを上げることで、この体でも出来るようになることは増えてくるらしいね。
今あなたは決まった範囲でしか行動が出来ないだろうけど、5レベル辺りになると地縛霊から浮遊霊になれる。
その他にも色々出来るようになるらしいんだけど、詳しくは知らないんだ。私も軽く先輩霊から聞いただけだから。」
じゃああながち僕が田中さんを驚かせていたのは、幽霊として真っ当な事をしていたってことなんだ。
なるほど、合点がいったぞ。だから幽霊は人をわざわざ驚かせたり、恐怖与えるような事をしてきたんだ。
そんな深い訳があったとは知らなかったけど、生きた人間からしたらはた迷惑な話だな。
「は、はあ...そう言うシステムになっているんですね。じゃあ、僕もレベルを上げていけばここから移動出来るようになるってことですか?」
そう聞くと、コクリと頷きクスリと笑う。
「ん、そうそう。5レべルくらいなら、トントン拍子で上がると思うよ上手くいけばね。私もまだこの世界に来て半年だから全然だけどね。
まあ、私から教えられるのはこのくらいかな。もっとこの世界の事知りたいのなら、私の友人にもっと知っている人がいるから聞いてみるよ。でも、滅多に会えないから紹介できるかどうか分からないけど。」
半年前に亡くなってしまったのか...僕とそんなに年齢に大差ないだろうけど、僕と同じ事故でだろうか?
でも、「どうして死んじゃったんですか~?www」なんて聞くのは不謹慎過ぎるのでやめておこう。
すると、女性はベンチから立ち上がり、グっと背伸びをする。
「んっしょと...そろそろ行こうかな。あ、そうだ君の名前は?私は『飯塚 菜月』」
「あ、佐藤です。佐藤 健侑です。」
名前を言うと、飯塚さんはニコっと笑い手を差し伸べて来た。
「よろしくね、健侑くん!」
うわあ...女性と握手したのなんて初めてだ。
ぎこちなく握手をすると、飯塚さんはクスリと笑う。
「暇そうだし寂しいだろうから、たまに遊びに来てあげましょう!どう?嬉しい?」
と言って、再びフンスと鼻を鳴らして誇らしげな顔をしている。
とても美人なのに、どことなく惜しいな飯塚さん。
「う、うれしいです。」
そんな僕を見て飯塚さんは、ひとしきり笑った後に、まるで砂が風で飛ばされるかのようにスーッと消えてしまった。
やっぱりどことなく惜しい、本当に惜しい。
でも可愛い。
あれ?これは青春ってやつなのか?青春だとしても死んでるから意味ないや...。
でも、何となく今後が楽しみになってきました。