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Fear Point   作者: 松太郎
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幽霊ライフの始まり。

目を開くと空は暗くなっていた。


人通りや車も殆ど通っておらず、時間からすると恐らく深夜であろう。寝てしまっていたのだろうか?幽霊って睡眠と言う概念があるんだ...とクスリと笑いつつ、体を起こす。


朝方の喧騒とは打って変わって、静寂が包んでいる。聞こえるのは、虫の鳴き声と風が吹き流れる音のみ。


「はあ...」


深く溜息を付くと、何となく歩いてみたり、フワリと浮かんでみたりしてみる。


この浮かぶ感覚に慣れず、下腹部の辺りに違和感が生じる。


当たり前の事かもしれないが、空腹は感じない。嵐のように来ていた性欲も驚く程無い。


まさに『無』の状態。悲しいとか、虚しいという意識は持っているが、涙等は流れない。


生きていたころに当たり前のように感じていた様々な感覚が取り払われて、何とも表現し難い。


なんて自分の体に関しての考えが終わると、襲ってくるのは空虚。


家族は今何をしているんだろうか、とか


あのアニメどうなったんだろうか、とか


色々と考えては後悔したりして、悲しい気持ちになっては落ち込むを繰り返す。


そう思いながらも、静かに赤になったり青になったり切り替わる歩行者信号を眺める。


そうしては横断歩道を言ったり来たり、暇で暇で仕方が無い。


そんなことをしていると、横断歩道の先に一人の女性が信号待ちをしていた。


僕は感じないが、肌寒いようでコートを羽織って、少し体を丸くさせながらスマートフォンを注視している。


年齢は僕より年下、かな。恐らく学生で塾帰りか何かだろう。


横断歩道の真ん中で突っ立って、その女性を見つめる。傍から見たらただの変態だろうが、幽霊になってしまった今の僕には関係の無い事。


「こんばんは」


なんて声を掛けちゃったりして。まあ、僕の声なんて届く訳ないからね。


「...!」


女性は体をビクリと反応させると、スマートフォンから視線を持ち上げて僕を見る。


怪訝そうに見つめた後、ハッとして視線を再びスマートフォンに戻す。




...おや?


再び、「こんばんは」と声を掛けてみるが、女性は軽く体をピクリと震わせてはいたが、無視をされた。


どうやら見えているかは定かではないものの、声は聞こえているようだ。


もしかすると、()()成るものを持っている女性なのかもしれない。


だがしかし、それ以上のスキンシップはなかなか難しいもの。と言うのも、生前女性と話すことは幾度となくあったものの、女性へ深くスキンシップをとったことがまずない。


勿論彼女なんてモノは出来たことが無いのが現実。こうして幽霊だから大丈夫と言うラインを保っているが、声を掛ける勇気しか持ち合わせていない。


ならばこのチキンハートの壁をぶち壊すチャンスではないだろうか。


と、歩行者信号は赤から青へ、女性がそれに気づき視線を持ち上げて確認する。


どうやら先ほど僕の姿も視認していたようで、慌てて周囲を見回している。


それもそのはず、こっそりと後ろに回っているからである。我ながら素晴らしいスニーキング技術であった。


生前も影が薄いと言われていたから、こういった行動は得意なのである。


女性は安心したのか、ホっと肩を落として歩み始めた。



今が好機、耳元でネットリと囁くように


「こんばんは」


と言って差し上げた。



女性はビクっと体を大きく震わせて


「..っ..ひっ!!」


と小さく声を上げつつ、後ろを振り向く事無く走って行ってしまった。


いやー...気持ちが悪い事をしてしまった。あの女性には申し訳ないことをしてしまったようだ。


だがしかし、僕は幽霊なのである。人を脅かしてなんぼではなかろうか!?


と、自分を正当化しておく。


何とも言えない達成感に包まれていた。これが...達成感ってやつか。


なんてしていると、再び静かな時間が過ぎて行く。


嗚呼、暇だ。


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何時間経っただろうか、気が付いたら朝になってきていた。


鳥が囀り、段々と交通量も多くなってきていた。


眠気は無い、しかしこんな状態が毎日来ると考えると嫌気が刺してくる。


特に筋肉が伸びて気持ちいとかそう言う訳ではないが、グっと背伸びをして空を仰ぐ。


「うむ、本日も良き晴天であるッッ」


と一人事を言ってから恥ずかしくなって周囲を確認する。


ちらほら通勤、通学の人々が現れ始めた。


さて、今日も今日とて人間観察と洒落こもうか。



歩行者信号待ちで、横断歩道前に溜まる人々を道路の真ん中に仁王立ちで見つめる。


王様?になったような気持ちで見ていると、その中に夜に会ったあの女性の姿があるではないか。


制服に身を包み、昨日と同じようにスマートフォンをいじっている。


昨日の事がトラウマなのか、時折視線だけで周囲を見回している。


制服の胸辺りにはプラスチックで出来た名札が飾ってあり、『田中』とある。




ほう、田中さんか。




「田中さん!おはよう!!!!」



「...っぎ...ひい!!!」




これは日課になりそうです。





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