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Fear Point   作者: 松太郎
1/3

プロローグ

僕の名前は『佐藤 健侑』そこら辺にいるような、ごく普通の男。


特筆して紹介することは特にない。本当に特徴が無い事が特徴とでも言っておこうか。


ただ...。

ある日、僕は事故にあった。


とある大通りの交差点、横断歩道を歩行中に居眠り運転をしていた車に撥ねられてしまった。


突然の衝撃、跳ね飛ばされ、地面に強く叩きつけられた。


その際、不思議と痛みは無く、ボーっと空を眺めていたのを覚えている。陽の光が眩しくて、綺麗な雲一つない青空だった。


視界は徐々に曇っていき、周囲から聞こえる叫び声を聞きながら意識を失ったと思う。


そこからは全く記憶が無く、気が付いたら事故にあった交差点の真ん中に、ポツンと浮かんでいた。


地上から1メートル程浮かんでいる。浮かんでいると言うよりかは、空中に()()()()()と言った表現のほうが正しいと思う。


先ほど事故にあって、今こうして存在している。感覚で言えば10秒も経っていないと思うけど、交差点は事故があったことを感じさせないほど綺麗に整備されていて、交差点の側には花束が置かれている。


恐らく僕に宛てての花束だろうが...事故から時間が経っている事が理解できるが..........。


え?僕死んだの?本当?(まじ)....と言うことは、今の状態は幽霊?霊魂?


いやいやいや、ちょっと待て待て、落ち着け、落ち着くんだよ。


こんなあっさりしているのか!?死んでから、スっと幽霊になったけど...三途の川みたいな、あの世に行くみたいな事は無いのか?


何かやり残した事があったりした際に、幽霊として現世に残ると聞いたことがあるが、実際僕はやり残した事なんて一切無い筈...。


ただ一つ、女性を知らずに生涯を終えてしまった事が気掛かりだが、それが理由で幽霊になってしまったと言うのなら、悲しすぎる。


だがしかし、今自分の人生を振り返ってみると、大した人生でもなかったと思う。


小中高とそれなりに上手くはいっていた。勉強も運動もそれなりにこなしていて、友達も人並みにはいた。


ロクな青春は送っておらず、部活なんてもってのほかで適当に過ごしていた為、自慢できることは一切無し。


何か他にも努力した事もなく、何か手に付けようとした経験はあるものの、全てが上手くいかず三日坊主で終わるありさま。


高校を卒業後は、勉強がしたくないと言う単調な理由で就職。


初めのうちは辛いながらも、我慢し続けて仕事を頑張ってたが、性格上長続きしない為、人間関係や仕事の内容に馬が合わ無いことも相まって、数か月で退職。


そのニート生活だけは、5年間も長く続いてしまった。


両親とは仲が悪い訳でも無く


「健侑の人生だから、ゆっくりと考えなさい。」と猶予を貰っていたが、その言葉に甘えすぎていたみたいだ。


弟がおり、現役の高校3年生をしている。


僕とは反対に、活発で行動的で、長く続けている柔道での大会の功績が認められ、推薦で大学進学が決まっているようだ。


そんな弟は、だらしのない兄にこう一言


「まるでボロ雑巾のようだね。兄ちゃん」


その言葉にカチンと来たが、突っかかっても負けてしまうのは僕だし、事実ではある。


しかし、やっとこさ重い腰を持ち上げ、就職先を探しにハローワークへ。


自分に合った就職先を見つけて、ウキウキ気分で家路に着いた矢先の事故であった。


こんなしょうもない人生だった為、死んでしまった方が良かったのかもしれない。


実際の所、両親も僕が死んで良かったと思っているのかもしれないし、知らないほうが良いことも多い。


こう分析して考えていたら、なんだか徐々に気持ちが楽になってきたような、なっていないような。


........。


さて、どうしたものか。


どうなってしまうんだろうか、僕。


取り敢えず、この状況が分からないのなら調べる必要があるのは当たり前。




宙に浮いてしまっているが、この状態で移動は可能なのだろうかと体を前に傾けるようにすると、ゆっくりではあるが移動が可能のようだ。




地面に足を付けたいと、重心を下へ下へと意識を向けると地面に足を付ける事が出来た。




今気づいたのだが、幽霊って足がないように描写されている事が多いが、足がある。ちょっとビックリ。




勿論のこと、物に触れようとしても手が突き抜けてしまって触れることは出来ない。




周囲を見回すと、通行人が多数いるが当たり前のように此方に気づいていない。




数少ない趣味の一つである、人間観察。




こうしてプカプカと浮かびつつ、道行く人々を見つめる。




出勤、通学する人々がほとんどのようで、時間からしたら午前7時~8時といったところだろうか。




歩行者用道路の真ん中に突っ立って、信号を渡る人々を眺める。




人間観察はよくしていたが、こんな近距離ではした事が無かった為、なんだか新鮮な気持ちになった。




そんなこんなで人間観察も早々に飽きてしまい、一つ懸念されることが出てくる。




『家族は今、何をしているんだろうか?』




父は恐らく会社、弟も勿論学校ではあろうが、母は家にいる事だろう。




家に行ってみようと考えるものの、何故か恥ずかしいと言うか、僕の死をあまり悲しんでくれていなかった場合を考えて尻込みしてしまう。




しかしまあ、死んで幽霊になっていて最大級のショックを受けているのだから、これ以上のショックがあったとしても驚くことはないだろうし、いいか。




体の重心を前方へ傾けて進む。5メートル程進んだ地点でだろうか、まるで体にゴム紐が括り付けてあって、それを引っ張られているかのようにそれ以上進めない。




何度体を強引に前に進ませようとしても、強い力が働いていて、その場から動くことが出来ない。




どうやらこれ以上進めないようだ。




俗に言う、『地縛霊』と言うものだろうか...。




※地縛霊じばくれいとは、自分が死んだことを受け入れられなかったり、自分が死んだことを理解できなかったりして、死亡した時にいた土地や建物などから離れずにいるとされる霊のこと。 あるいは、その土地に特別な理由を有して宿っているとされる死霊。 wikipediaから参照。






先述したように、生前にやり残した事なんてくだらない事しかないし、この交差点に特別な理由なんてものは勿論ない。




自らが死んでしまったことも、半信半疑ではあるものの確信でしてきている。




幽霊になったのはいいが、地縛霊かよ。と若干の衝撃を受けつつ、その場で地面に座り込む。




嗚呼、これは夢じゃ無かろうか。




本当に死んでしまったんだな....。そう心で思いながら、ボーっと空を見上げる。




小さな雲が点在していて、眩い太陽の光が差し込んでいる。




今思えば、ゆっくりと空を眺めたことなんて無かったな。最近眺めていたほとんどが、汚い天井の壁だったし。




何だか気疲れしちゃったな...。










軽く目を閉じてみる。










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