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弱者
彼は弱かった。
冬になれば必ず、毎年一度は熱を出し、転んで出来た青あざの治りも遅かった。
駆けっこはいつもビリ、ドッジボールも最初に狙われては外野行きになっていた。
身体だけの話ではない。精神的にもだ。一言で言えば、『芯』が無かったのだ。自分の人生に自分で責任を持ち、努力を積み重ねる。そんなものを持たなかった。
とはいえ、小学生の時分ならば、生涯を捧げるような『夢』や『信念』など、持っている方が少数派だっただろう。問題は彼が、そんな自分に恥を覚えていたことだった。
しかし――それでありながら、彼には積み上げるという概念を持たなかった。駆けっこもドッジボールも、強くなろうとしたらそれだけ頑張らなくてはならない。頑張ることは疲れるから、やらなくてもいい。
勉強はやらなくても少しは出来た。だから尚更、不真面目な少年だった。
だが、それも『あの娘に出会うまで』の話だ。