不幸パラメータ999%という理不尽。
時間がない中で書きました。結構間違えているかもしれません。
「嘘、でしょ?」
目の前に、空中に浮き出ている数字が事実なのか、信じられなかった。
「こんな、こんなの、ありえませんよ!だって、不幸パラメータと幸せパラメータは足して100になるはずなのに…不幸パラメータが999って、どう考えても900オーバーしてますよ…」
リリアが隣で信じられない、と言った様子で言った。
「は、はは…」
そして、僕は笑いしか出てこなかった。
どうして?おかしい。おかしいことがたくさんありすぎる。スキルで不幸を軽減するためにここに来たんじゃなかったの?
頭の中でぐるぐると思考がループする。
すると、リリアが悲しそうな顔で僕を見てくる。
「一体、どういうことなのでしょうか…」
「わからない。でも…」
「こんな数値が本当だとしたら、シンゴはとてつもない不幸を味わう事になってしまいますよ?!」
リリアが焦った顔で話す。
「え?とてつもない、不幸?」
「はい、こんなに酷い数値なら、すでに不幸は始まっていると、考えるべきです!」
僕はリリアを見て思い出した。現段階では、僕が不幸だとはとても思えない。
リリアは僕に優しくしてくれているし、待遇だってはるかに向こうの世界よりいい。さっきからも不幸ばっかりだとはとても思えない…
自分のことではないのに、泣きそうになっているリリア。やっぱり、彼女は優しい。向こうの世界の人とは違う。
ここまで考えたところで、僕は気づいた。
いや、待てよ?リリアは不幸パラメータが高い。そして、僕の不幸は周りの人間から集められたものだとエリノアさんは言ってた。だとすれば…
「もしかして、」
何かに気づいた様子の僕に、リリアが此方を向く。
「どうかされたのですか?」
少し涙声だった。また何か不幸があったのだろうか、そういう意味だろう。
「いや、少しわかったことがあるんだ。といっても、もしかしたらの話だけどね。」
不幸パラメータが999%という、最大値の100を超えた、どう考えてもおかしい数字。
でも、まだ悲観的になりすぎることはないかもしれない。
僕は自分の中の考えを整理しつつつぶやいた。
「少し僕の話を聞いて欲しい。」
「は、はい。それは構いませんが、何かわかったんですか?」
「うん。なんとなく、だけどね。」
僕は苦し紛れの笑顔を見せた。
「まず、僕の不幸パラメータが女神様の手違いによって、他の人間の分の不幸を吸収していったことはさっき話したでしょ?」
「はい、それは先ほど聞きましたけど。」
僕の話に少し首をかしげながら相槌を打つリリア。
「もしかしたらその時点で僕の不幸パラメータは、他の人間の分の不幸まで背負って、異常な数値になっていたのかもしれないんだ。」
「あっ、そうか。他人の不幸をもらい受けてしまってるわけですから、人1人分の許容量に収まるわけがないんですね…」
彼女は頷いた。
「うん、多分ね。そして、おそらくその許容量は…すでに『女神の加護』というスキルによって、ある程度は減らされた、と思う。」
話した後に、下唇を噛む僕。自分でもまだ確証の持てない話だったが、なんとなく、最悪の事態へ向かっていることはわかった。
「え?でも、不幸パラメータは999%ってありえないくらい高い数字が表示されてましたよ。もしスキルの効果が出ているのなら、不幸パラメータはもっと下がっているんじゃ…」
そこまで言って彼女の言葉は止まった。
「まさか……!」
どうやら、なぜ僕の不幸パラメータが999%となっているのか、謎が解けてきたようだ。
「うん。どうやらそういうことみたいだね。おそらく、僕が女神様から貰ったスキル、『女神の加護』はしっかり発動していたんだよ。ただ…」
僕はそこで一度区切った。自分で言うのが少し怖くなったからだ。ゴクリと唾を飲み込んでから、僕は再び言葉を紡ぎだした。
「僕の不幸は、あまりにも大きすぎただけだったんだ。」
自分でわかるくらい、顔が引きつっていた。
「そんな、999%よりもオーバーした数値って…一体、どれほどのつらい思いをしてきたんですか?!それに、999%なんて、不幸パラメータ65%の私ですらつらいのに…そんな、あんまりですよ!!」
あまりにもありえない数字に呆れてものも言えない僕。そして、そんな僕の代わりに、空中に向かって怒るリリア。
「いいんだよ。これでも、少しはましになっただけマシだよ。」
今までよりは楽になると思えた分、少し気が楽になった。
とはいえ、不幸パラメータが999%って…普通の人は50%、どんなに酷くても100%までしか上がらないはずの不幸パラメータが999%……これからどんなことが起きるのやら。
涙の出そうな目を閉じて、誰に言うわけでもなく、僕はつぶやいた。
「僕の人生は、転生しても不幸なままのようです。」
小声で言ったため、よく聞こえなかったのだろう。
「何か言いました?」
「いや、何も言ってないよ。」
僕は、少し無理して笑顔で言った。
「そうですか、ならいいんですけど…」
「あ、そうだ。さっきの話の続きで、もう一つ言っておかなきゃいけないことがあるんだ。」
「なんですか?」
深刻そうな顔をするリリア。そんなリリアに、今度は悪い話じゃないよ。と伝える。
「僕、不思議に思ってたんだよ。僕は不幸だからいろんな人から嫌われるはずなのに、なんでリリアには優しくしてもらえてるのか。」
「え、優しいって、そんなのことないと思いますけど…」
少し照れ気味に言ってるけど、今気にするのはそこじゃないんだよね…まぁいいや。
「まぁもちろん、リリアが優しいのもあると思うよ。でも、僕はさっき思い出したんだ。リリアも、不幸パラメータが高いよね?」
念のため確認する。
「ええ。65%です。普通に見たら高い数値ですね。シンゴに比べればだいぶ低いですけど…」
僕のことを気にしてなのか、少し悲しそうに話すリリア。
「…まぁそれは置いておいて。僕の不幸はたくさんの人から集めたものだって言ったけど、このたくさんの人って誰だと思う?」
「えーと、それは…不幸な人から幸せな人まで、じゃないんですか?」
考えながら話すリリア。
「いや、多分違うと思う。」
「え?何でですか?」
「もしも、元から不幸パラメータの割合が高い人から不幸パラメータをとってしまったら、そのひとは幸せに近づくでしょ?もしそうなれば、その人に元から付いていた不幸パラメータは用をなさなくなっちゃうと思うんだ。」
僕の説明に首をかしげるリリア。
「えっと…よくわからないです。」
「わかりやすく言うと、不幸パラメータが高い人から不幸パラメータを僕がもらっちゃうと、その人は不幸じゃなくなるでしょ?そうなると不幸パラメータが高いのに幸せに近づくっていう矛盾ができてしまう、ってこと。」
「あぁ、なるほど!それはわかりましたけど…それがどうかしましたか?」
ポンと手を打つリリアだったが、僕の意図が汲み取れずに、また首をかしげた。
「不幸パラメータが高いと、周りの人はその影響を受けてその人にとって悪いことをするようになるんだ。これは今までの僕の経験則ね。そして、僕がこの世界の人の不幸も受け取っていた場合、この世界の人の多くは僕を嫌い、嫌がらせをすると思う。」
良い例がレニアとか言う名前のリリアの姉だ。勇者である僕に対してもあの態度。おそらく僕は、この世界の人からも不幸を受けとっているんだろう。
「でも、私はそんなことしてませんよね?」
確かめるように聞いてくる彼女に僕は微笑んで頷いた。
「皮肉な事に、今リリアが僕に対して
普通に接してくれているのはリリアの不幸パラメータが高いから何だと思う。おかげで、と言ったら変な話だけど、僕はとても嬉しいよ。今までこんなに優しくされたことはなかったからさ。」
ありがとう、とお礼を言う。それを聞いて少し微妙な顔をしたリリアだったが、すぐに顔を変える。
「な、なるほど…嫌味ではありますが、少しでもシンゴの役に立てるのであれば、良かったです。」
えへへ、と笑うリリア。顔を少し赤くして可愛いな。って、それは後だ、今は状況の把握が大切なんだった。
僕は自分のこの世界での立場をまだ知らないことを思い出した。そして、真面目な顔に戻って話しだす。
「さて、高い不幸パラメータの謎も、リリアが僕に普通に接してくれる理由もわかったところでそろそろ、話を今後どうするかに切り替えようか。」
「そうでした、すみません話すと言っていたのに、すっかり話すのを忘れていました。」
「気にしないで。そもそも話をそらしたのは僕のほうだからさ。」
「そう言っていただけるとありがたいです。」
リリアは少し申し訳なさそうにした後、僕の方を向いた。
「では、これからシンゴの立場と、どうするべきなのかについてお話しします。」
評価していただけると嬉しいです。