いきなりの魔法。
これからはもっと普通の時間に投稿できるかもしれません。まだわかりませんが。
朝ごはんも食べ終わり、また裏庭に出てきた僕とリリア。
「始めましょうシンゴ!」
グッとレイピアを構えている彼女。やる気に満ちている。
「う、うん」
食後なんですけど……まだ食べ終わって1分経ってないんですけど?
戦闘準備完了、という感じのリリアに対して僕はビビっていた。なぜなら、食後であったため、脇腹が痛くなりそうで怖い。というか、少し動いただけで既にほんのりと痛いんですけど。
「ね、ねえ、やっぱりもう少し後にしない?食後だからお腹痛くなりそうでさ……」
「問答無用、敵は食事中でも襲ってきますよ!!はあぁぁっ!」
一気にこちらに走ってくるリリア。
「ええっ、ちょっと、嘘でしょ?!」
慌てて剣を引き抜いて応戦しようとする。が、
ガギャンッ。
リリアのレイピアが、勢いよく右手にはめた僕のガントレットに当たった。
剣でレイピアに対峙しようとしたのに、剣を抜くのが間に合わず、こんな形になる。もしガントレットがなかったら右手首は無くなっていただろう。
「ちょっと!これ左手だったら完全に大怪我ものなんですけどぉっ!!」
すぐに剣を抜ききりリリアのレイピアに斬りかかる。が、一瞬で弾き返される。
「速すぎでしょ?!勝てる可能性、微塵も感じないんですけど?」
「実践練習なんですから、そんなことっ、関係、ありませんッッ!!」
ガンッ、キイイィィィィン。
「ぐぅッ!」
力は僕の方が強いはずなのに、なかなか効果のある攻撃ができない。
確かに、相手が女の子だから多少ためらっているというのはあるんだけど、そういうのは関係なくリリアが強すぎる。レイピアで受け流されてしまうために、僕の剣は全く彼女には届かない。
そして、だんだんと体があったまってきて、2人とも息が切れ始めた。
すると、リリアが一歩下がって、片手を前に出した。
「ここからは、さらに実戦ぽくいきましょうか!」
首筋にはつうっと、一筋の汗が流れていて、表情は少し悪戯っ子の顔をしていた。
どうやら、彼女は何か企んでいるようだった。
「リ、リリア?目をつぶって何を……ってまさか?!」
意識がある状態で目を瞑って何かを考えている様子。それは、この世界において魔法を使う前兆といってもいいものだ。
「火球!」
リリアが目を開けてさけぶのと同時に、僕の目の前に火の球が飛んで来た。
「嘘でしょッ?!」
きっと、何回か戦闘を経験すれば、誰でも避けられた攻撃だと思う。でも、朝少しだけやった戦いを除かなくても、戦闘というものをまるで経験したことがないと言えた僕には、すぐに逃げることができなかった。いや、逃げるという判断が頭に浮かばなかった。頭の中で、まずい、まずい、まずい!!と繰り返す。状況を理解しようと、対処法を考えようと必死に集中する。
瞬間、世界がスローモーションになった。頭の片隅で、あぁ、これがフローと呼ばれるものなのかと他人事のように感じる。
1メートル先には、サッカーボールほどの大きさの火の球が迫って来ている。リリアの放った魔法だ。た、確か魔道書には、魔法には魔法出対抗できると書いてあった……そうだ、魔法、魔法を使えばいいんだ!!
頭の中で閃くと同時に少しの気だるさが襲って来るが、そんなことを機にする余裕はない。頭でそれまでとは違うことを考えて、状況を把握することから切り離していくと、徐々に世界の動く速さが元に戻って来る。しだいに、炎の熱気も感じてきた。
これは火属性の魔法だ、火に対抗できるものは……そうだ水だ!あっちが火の球、えーと、なら、こっちは水の球を使えばいいんだ!
魔法を使うのに必要不可欠なイメージを持つことを促すために、すぐさま目を瞑る。水がまとまりになり、火に飛んで行くイメージ。しかし、なかなかうまくいかない。どうも曖昧な感じだ。
ここで、1つの考えが浮かぶ。水の玉といえば、水風船。水の玉は、水風船を投げたみたいな……そうだ!
とっさに水風船の、風船がない状態を考える。
すると、体の中で何かの動きを感じた。おそらく、魔力が引きだされているんだろう。
水風船の風船がない状態をずっとイメージしていると、やがて、魔力の動きが強くなっていった。
感じた、今しかないと。今、魔法を発動するべきだと。
すぐ近くに熱気を感じた瞬間、僕は目を開けて言い放った。
「水投げ!!」
瞬間、僕の体から湧き出るようにして、水が生成されていき、球になり火に飛んで行く。
まず聞こえて来たのは、ジュウッという音そして、次に聞こえて来たのは……
「きゃあああああ!!」
悲鳴だった。
パッシャーーン。と、水が弾ける音がする。
そして、1度我に帰る。
「はっ?!僕、今魔法を使ってた?確かあれは、魔道書に書いてあった魔法……そっか、とっさに出て来たのは、覚えてたからか!渡された時に読んでおいてよかったぁ!」
助かったことで、思わず笑顔になってしまう。
そして、僕に向けていきなり魔法を打って来たリリアの方を見る。
「リリア!初心者に、いきなり魔法打って来るなんて、どうか、して、る……よ。」
だが、その声はだんだんすぼんでいった。
「あぁ、服が濡れちゃいました……」
芝生の上でしりもちをついて、女の子座りになっていた、水でびしょびしょに濡れたリリアの姿があったからだ。
厚い生地のため透けはしないが、服が体に張り付いているためにとても艶めかしい。
「シンゴに、いきなり魔法を打ち付けられた時の怖さを教えようとしたのに……まさか魔法で返されるとは思いませんでした。」
しょんぼりとするリリア。
「な、なんかごめんね?」
目のやりどころに困るのでとりあえず空を見る。
「いえ、悪いのは私の方です。途中で消すつもりだったとはいえ、いきなり魔法を打ちこんだんですから。」
申し訳なさそうに笑うリリア。
「でも、凄いですよシンゴ。いきなり来た魔法を打ち返せるなんて!初心者とは思えません。」
彼女は、嬉しそうにしながら立ち上がる。
「そうかな?ありがとう。でもあの時は必死だったからさ。いつも石とか投げられてたからその時に培われた反射神経なんだろうなぁ……」
「い、石ですか。」
なんだか可哀想な子を見るような目で僕を見てくるリリア。
「も、もしかしたらそういう能力があるのかもしれませんよ?!」
フォローのつもりで話しているんだろう。
「いや、僕の能力は『女神の加護』だけだし、不幸パラメータ999パーセントなんだから、そんなうまい話ないと思うよ。」
「そ、そんなに自虐的にならなくても……まぁシンゴのおっしゃる通りだとは思いますが。」
「?!」
え?なに、リリアは僕のフォローがしたいの?傷つけたいの?
彼女の反応に困る僕だった。
その後、リリアは魔法で自分の服を乾かし、僕にはもう休んでとだけ言った。しかし、部屋の前での別れ際、彼女はこんな言葉を残した。
「明日は魔物と戦いますので、そのつもりで!」
ニコッとして自分の部屋に戻っていくリリア。
僕も自室に戻る。そして、ベッドに大の字型に倒れこんだ。
「ま、魔物と戦う?!」
どうやら、不運な出来事は尽きなそうだった。
フローという言葉が出てきていますが、僕がうろ覚えで使った言葉です。集中した時に周りや時間が遅く感じるというものらしいです。知らなかった方、申し訳ありません。使いたかっただけです。