リリアの実力。
事情があって投稿が遅くなりました。これからはこの時間になると思います。
「起きてください、シンゴさん!起きてください!」
ゆさゆさ。
「むぅ。布団をまるまる頭まで被ってるのでよくわかりませんが、これはぁ、寝て、ますよね?わかりました、これはシンゴさんを起こすためです。仕方ありません。やむをえません。では、鑑賞を……」
そう言って、そっと布団をめくるリリア。
「なっ?!これは、なんですかぁっ!!」
しかし、そこに僕はいない。丸められたタオルケットがあるだけだった。
「リリア?僕がそう何度も君の奇行を許すと思ったら、大間違いだよ。」
「そ、その声は、シンゴ?!」
スッと、ドアの横から歩いて行く僕。
「な、なんで?!」
ガタッとベッドに崩れるリリア。
「いや、何でって……昨日リリアが朝に剣技の練習するから早く起きててって言ってたじゃん。」
「まぁ、そうなんですけど。」
多少オーバーリアクションだったのは、ノリだったようだ。
こんなにノリいいとは知らなかったなぁ。
「それでは、早速練習を始めましょうか。バーブさんも、宿の裏庭を使っていいと言ってるのでそこでやりましょう。」
淡々と話して僕の部屋から出て行こうとするリリア。
「いやいやいやいや。ちょっと待ちたまえよ、リリアさん?」
とっさに肩を掴んだ。
今さっきした行動をあたかもなかったことのように場の流れで誤魔化そうとしているリリア。
「あ、あれ?ここは場の流れで……」
「いけないよ?」
目を泳がせながら僕の方を見る。が。すぐに、ババっと僕の手をはじいて態勢を立て直す。
「くっ、こうなればもう開き直るしかありませんね!」
「こらこら、開き直らないで!」
また昨日みたいな言い合い《筋肉戦争》が起きても困る。
「実は僕、今後もこういうことになると思って、1つの妥協策を考えたんだ。」
人差し指を立てて自慢げにしてみる。
「えっ?そうなんですか!教えてください!」
「ふっふっふ、これはおよそおそらく、ウィンウィンな関係だと思うよ。」
「うぃ、うぃんうぃん?」
僕の言葉に首をかしげるリリア。
「あー、僕のいた世界の言葉だよ。平等、っていう意味。」
「なるほど、うぃんうぃんですね、覚えました。」
やけに言い方が可愛いのは置いておいて、話を進めないと。
「それで、妥協策なんだけど。」
「はい。」
「まず、リリアは僕に筋肉目当てで触るのは基本的にダメ。」
「そ、そんなぁっ?!全然うぃんうぃんじゃないですよっ!!」
「ま、まぁまぁ落ち着いて。まだ続きがあるんだよ。基本的には、と言ったでしょ?」
暴れるリリアを片手で抑える。
「え?どういうことですか?」
「簡単だよ、年に何回か僕の事を触っていい日をあげる。ただし、もしもその日以外で触ったらそれはなし。どう?」
僕としては結構いい線いってると思うんだけど。
取り合えずリリアに聞いてみる。
「わ、わかりました。その、触っていい日の数次第でその条件をのみましょう。」
お、なかなか好反応だな。
「年に4回を考えてるよ。3ヶ月に一回。どうかな?」
これくらいなら、僕もまだ許せる。そして何よりも、何も言われずに触られるよりはだいぶいい。
「年に4回、ですか。その四日間は、触り放題なんでしょうか?」
「うん。3ヶ月に一回であれば、いつ触るかはリリアが決めていいよ。」
これは、1月から3月、4月から6月、7月から9月、そして10月から12月のそれぞれの間、一回だけ好きな日に触っていいといいものだ。
「わ、わかりました。条件を、のみましょう。」
「本当?!よかったあ〜」
僕は胸をなでおろした。
「あっ、でも!万が一、その日以外にシンゴに触った場合は……?」
「僕に通知なく触ったら、2回分の触る機会が消えると思って。」
つまり、1度無断で触ってくれば、その年で、触れるのは残り1回だけ、ということだ。
「わかりました。その条件、いえ、契約を、筋肉契約を受けましょう!」
ドン!という効果音が付きそうなほど胸を張るリリア。
いや、そんな胸張る事じゃないよ。
「よくわからないけど、契約ね。わかった。」
これで僕の安全とプライバシーはしばらく守られる。
「契約も終わった事ですし、朝のうちに鍛錬をしに行きましょう。」
「うん。そうしようか。」
僕は壁に立てかけてあった鉄の剣を取る。鞘があるので持っても痛くはないのだけれど、何か紐のようなものが付いていた方が持ちやすいだろうから、今度適当なものを見繕ってつけてみよう。
そして、右腕だけのガントレットをつけて、腕に巻かれたベルトをしめる。
「よし、行こうか。」
「はい。ビシバシ鍛えていくので、覚悟してくださいね?」
ふふっ、と笑うリリア。
「う、うん。お手柔らかにお願いいたします。」
僕達は部屋を出て階段を降り、一階の裏口のような場所から外に出た。もっとも、外といっても周りは他の建物の壁に囲われているので、リリアの言っていた裏庭という表現がよくあっているだろう。
「へぇ、天然の芝生まであるんだ。これなら、少しくらい倒れても平気そうだね。」
「そうなんですよ。私が外で鍛錬をしてたら、バーブさんがここを使っていいって教えてくださって。」
会話をしながら、リリアは腰につけていた細身の剣を抜いた。
シュウッ、という音と共に剣先が鞘から抜けきると、刀身が銀色に光った。
手元が丸く覆われていて、刃が付いているのに、剣というよりも槍のような印象を受ける。
「私の武器はレイピアです。これでも相当長い期間使ってきていますので、私は弱くはないと思いますよ。」
本人は控えめな言い方してるけど、戦乙女のリリアって呼ばれるくらいなんだからかなり強いんだろう。
王に強い魔物を何体も倒せって無理強いされ続けてきたんだ。きっと、何度も死線をくぐり抜けてきたんだろう。
「わかってるよ、それくらいは。圧倒的に弱いのは僕の方だってことくらいね。」
なにせ、剣技なんて初めてやるからね。僕も鞘から鉄の剣を抜く。見えてきた刀身は磨かれていないためか、リリアのレイピアのようには美しくはない。むしろ、鉄の塊という感じだった。
「……錆びてないだけマシ、なのかな。」
「じゃあ、まずは1度自分の弱さを知るところからです。私を追い詰めてみてください。」
そう言って、レイピアを構えるリリア。一瞬気が引けそうになったが、相手が強者だということを思い出して気を引き締める。
「よし、行くよ!」
僕は両手で剣を握りしめてリリアに斬りかかる。初速は思い切りが良いので速かった。が、リリアに当たりそうになると剣の速度を遅くしてしまう。すると、バキインッという音と共にリリアに剣を弾かれる。
「いっ?!」
両手で持っていなければ、剣は飛んで行ってしまっていただろう。慌てて態勢を立て直す。
「相手に遠慮していては、魔物相手ではすぐに死にますよ?」
「し、死ぬって……」
おさおそるリリアの顔を見る。真剣そのものの顔だったが、ただひとつ、目つきが違っていた。まるで、獲物を狩る時の鷹のようなギラギラとした目。
純粋に怖かった。普段は優しい彼女が、今はとても、とても怖かった。
「今度は私から行きますよ。はぁあっ!」
ガギインッ。突然きた一撃をなんとか剣で受ける。が、しかし。
「甘いっ!!」
スルッと剣を受け流すように、レイピアが突かれた。そして……
「ま、参りました。」
剣を落として両手をあげる。首元には、彼女のレイピアが、少しも震えずに、いつでも僕の命を刈り取れるぞとばかりに触れていた。
「まぁ、最初はこんなものでしょうか。力ではシンゴの方が強くても、それに伴う技術がなければいけないんですよ。よくわかりましたね?」
僕を上目遣いで見てくるリリア。その目はいつもの彼女のものだった。
「は、はい。精進します。」
さっきの余韻で、自然と敬語になる。
「魔物と戦う日も近いんですから、一緒に頑張りましょうね。」
「はい、あの、それはわかったんですけど……」
僕は未だに突きつけられたレイピアを見つめる。
「あっ!ごめんなさい、私ったら、いつもの癖で……」
そう言って首元からレイピアを外して鞘にしまうリリア。
「いや、別にいいんだけど。」
ていうか、今いつもの癖でって言ってたよね?言ってたよね?!いつもって何?!いつもって!!怖い、怖すぎるよリリア!!!
リリアにはあまり逆らわないようにしよう、うん。
するとここで、ゴオーーーンゴオーーーンと、2回鐘が鳴った。
「あ、7時ですね。続きの鍛錬は昼に回して、食堂に行きましょうか。」
どうやら、朝七時に鐘がなるらしい。
「わかった。」
僕とリリアは、その場を後にしたのだった。
それなりに長くしたつもりです。